厳罰化された「ながら運転」罰則の内容や被害に遭ったときの対応

このような現状を受けて、令和元年12月から運転中にスマートフォン・携帯電話・カーナビゲーションシステムなどを使用する「ながら運転」に対する罰則が強化されました。違反点数・反則金が引き上げられ、事故を起こしてしまえば免許停止になってしまうおそれもあります。
このコラムでは、令和元年12月から実施されている「ながら運転」の厳罰化について、どのような行為が違反となるのか、どの程度の処分を受けることになるのかなどを解説します。また、交通事故の被害に遭ってしまった場合の対処法についても一緒にご紹介します。
1、ながら運転の罰則と違反になる例
以下では、道路交通法で禁止されている「ながら運転」の内容と罰則、具体的なケースなどを説明しましょう。
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(1)ながら運転を規制する法律
ながら運転は、道路交通法により規制されています。
道路交通法71条5号の5では、自動車の運転中に携帯電話での通話、携帯電話の画面を注視、カーナビの画面を注視する行為を「ながら運転」として禁止しています。
また、道路交通法70条では、ハンドルやブレーキなどを確実に操作し、安全な速度と方法で運転する義務が定められています。運転中にイヤホンを使用する、食事をしながら運転する、化粧をしながら運転するといった「ながら運転」をすると、同条違反になるおそれがあるでしょう。 -
(2)ながら運転による罰則
ながら運転をしてしまった場合、具体的な違反行為に応じて、以下のような罰則が科されます。
①携帯電話等使用等(保持)違反
携帯電話・スマートフォンなどを使用、または手にもって画像を注視すると、「携帯電話等使用等(保持)違反」が成立します。法定刑は、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金です。
また、違反点数として3点が加算され、普通車の場合は、1万8000円の反則金を納付しなければなりません。
②携帯電話等使用等(交通の危険)違反
携帯電話・スマートフォンなどを使用、または手にもって画像を注視し、かつ交通の危険を生じさせた場合、「携帯電話等使用等(交通の危険)違反」が成立します。法定刑は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
また、違反点数として6点が加算され、反則金ではなく、上記の刑事罰が適用されます。
③安全運転義務違反
ながら運転が「安全運転義務違反」に該当すると、違反点数として2点が加算され、普通車の場合は、9000円の反則金を納付しなければなりません。 -
(3)ながら運転とみなされるシーン
ながら運転とみなされる例として、以下のようなシーンが挙げられます。
- 運転中、通話のためにスマートフォンを使用する
- 運転中にスマートフォンを操作し、画面を注視する
- 運転中にカーナビの画面を注視する
- イヤホンをしながら運転する
- 食事をしながら運転する
- 化粧をしながら運転する
なお、信号待ちで停止している間のスマートフォンの操作や通話、ハンズフリー通話をする行為については、ながら運転には該当しません。
2、自動運転における「ながら運転」の規制は?
近年は自動運転技術の開発が進み、自動運転システムを搭載している車も販売されています。自動運転システムを搭載した車の場合、ながら運転についてどのような規制がなされているのか気になる方もいるでしょう。
以下では、自動運転システム搭載車における、ながら運転の規制や基準について解説します。
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(1)自動運転システムのレベルにより条件が異なる
そもそも自動運転とは、人が車を運転するときに行う以下の要素を、運転者に代わってシステム(制御プログラム)が行う運転のことです。
- 目や耳による「認知」
- 脳での「予測」と「判断」
- ハンドルやアクセル制御などの「操作」
このような自動運転システムは、6段階のレベルで区別されます。数字が大きいほど、システムが運転者に代わって行う要素が増えていきます。
運転自動化レベル 概要 運転操作の主体 レベル0 運転者がすべての運転操作を行う 運転者 レベル1 システムがハンドル操作またはアクセル・ブレーキ操作のいずれかを条件下で部分的に行う 運転者 レベル2 システムがハンドル操作またはアクセル・ブレーキ操作の両方を条件下で部分的に行う 運転者 レベル3 ・システムがすべての運転操作を一定の条件下で行う
・作動継続が困難な場合は、システムの介入要求などに運転者が適切に対応するシステム(作動継続が困難な場合は運転者) レベル4 システムがすべての運転操作および作動継続が困難な場合への対応を一定の条件下で行う システム レベル5 システムがすべての運転操作および作動継続が困難な場合への対応条件なしで行う システム レベル3の自動運転システム搭載車は、令和2年4月から公道での走行が可能になりました。レベル3の自動運転システム搭載車の場合、高速道路などの一定の条件下であれば、運転者がハンドルから手を離してシステムに運転操作を任せることが可能です。
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(2)使用条件に満たない状況での自動運転には罰則も
レベル3以降の自動運転システムの使用条件を満たしているときに限り、運転者は、システムに運転を任せることができます。その間は、運転者がスマートフォンの操作・通話、カーナビの画面注視などのながら運転をしても、違反行為にはなりません。
なお、自動運転システムの使用条件が高速道路に限るとされているのに、それ以外の道路で自動運転システムを使用すると、「自動運転装置使用条件違反」となり、以下のような罰則が科されます。- 3か月以下の懲役または5万円以下の罰金(過失の場合:10万円以下の罰金)
- 違反点数2点
- 反則金9000円(普通車の場合)
3、ながら運転の被害に遭ったときにやるべきこと
ながら運転の車が衝突してきた、ながら運転をしていた車に追突されてしまったといった被害に遭った場合は、どのように行動するべきなのでしょうか。
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(1)警察に通報して事故発生を報告する
まずは、どのような状況でも交通事故が発生したことを警察に通報する必要があります。
負傷者の救護、二次的な事故が発生しないための安全措置を講じたうえで、直ちに110番通報をして警察官の臨場を求めましょう。 -
(2)氏名や連絡先を確認する
被害者、加害者ともに、話ができる状態であれば、氏名や連絡先を確認します。加害者が加入している自動車保険(任意保険)会社の情報も、あわせて確認しておくと良いでしょう。
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(3)医療機関を受診する
臨場した警察官に事故の状況を説明したら、可能な限り当日中に整形外科等の医療機関を受診しましょう。
事故の直後はどこも痛くない、大したケガではないと思っていても、翌日になると痛みや違和感をおぼえるケースも少なくないので、必ず受診することが大切です。
事故直後に医療機関を受診していないと、ケガと交通事故の因果関係を明らかにすることが難しくなります。 -
(4)弁護士に交渉を依頼する
交通事故の被害に遭った場合、慰謝料、ケガの治療費や車の修理費用、治療のために仕事を休んだための減収分の補償などを含めた損害賠償の請求が可能です。
また、事故によって家族が死亡した、後遺障害が残ったという場合は、慰謝料に加えて将来得られるはずだった収入(逸失利益)を請求できます。
これらの賠償金は、ほとんどの加害者が自身の契約している自動車保険でまかなうことになりますが、保険会社が提示してくる示談金の額は必ずしも十分な金額ではありません。
弁護士に交渉を依頼すれば、慰謝料額がもっとも高額になる「弁護士・裁判所基準」による請求が可能なので、示談金・賠償金の増額が期待できます。
加害者と裁判で争う事態に発展した場合でも、弁護士に対応を一任すれば証拠収集や法廷での対応といった負担が軽減できるでしょう。
なお、ご自身の自動車保険に「弁護士特約」が付いている場合は、ぜひ使用してください。
弁護士特約とは、交通事故に遭い弁護士に依頼する場合、保険会社が弁護士費用を負担してくれる制度です。
一定の限度額が設定されていますが、弁護士費用が限度額を超えてしまうケースは多くなく、実質負担額0円で弁護士に依頼することができるでしょう。
4、ながら運転の被害者・遺族が請求できる損害賠償
ながら運転による事故の被害者や遺族は、加害者に対して、以下のような損害賠償請求をすることができます。
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(1)事故でケガをした場合
ながら運転による事故で被害者がケガをした場合、主な賠償金の費目は、以下のとおりです。
①治療費
治療費には、診察料、手術料、投薬料、応急手当費、整骨院での施術費用などが含まれます。
交通事故によるケガの治療に必要かつ相当な範囲の治療については、実費全額が損害として認められます。
②休業損害
休業損害とは、交通事故によるケガで、仕事を休まなければならなくなった期間に生じた減収分の損失を補塡(ほてん)するものです。
会社員や自営業者など、実際に減収が生じた人だけではなく、専業主婦(主夫)なども休業損害を請求することができます。
③入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故によるケガで入通院を余儀なくされた際、それにより生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
入通院慰謝料の金額は、入通院期間や入通院日数に応じて算定するのが一般的です。 -
(2)事故で後遺障害が残った場合
ながら運転による事故で被害者がケガを負うだけでなく、そのケガが完治せずに後遺障害が生じることもあるでしょう。後遺障害が残った際の主な賠償金の項目は、以下のとおりです。
①後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故による後遺障害で生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
事故による後遺障害が生じたときは、後遺障害等級申請を行うことで、症状の内容や程度に応じた後遺障害等級認定を受けることができます。後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級(1~14級)に応じて金額が決められています。
②後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、交通事故による後遺障害の影響で労働能力が低下し、本来得られたはずの収入が得られなくなることに対する補償です。後遺障害慰謝料と同じく、認定された後遺障害等級や、被害者の前年の年収などをもとに計算されます。 -
(3)事故で被害者が死亡した場合
ながら運転による事故で被害者が死亡した場合、主な賠償金の項目は、以下のとおりです。
①死亡慰謝料
死亡慰謝料は、交通事故で被害者が亡くなったことによる、被害者本人および遺族の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
死亡慰謝料の金額は、被害者の家庭内での地位や属性によって以下のように変動します。- 一家の支柱……2800万円
- 母親、配偶者……2500万円
- 子ども、高齢者、そのほか……2000~2500万円
②死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、交通事故で被害者が死亡したことにより、将来得られるはずの収入が得られなくなったことに対する補償です。被害者の事故前の年収や、事故がなければ被害者が就労できていたであろう期間などを考慮して計算されます。
5、まとめ
ながら運転は、死亡事故につながるリスクが高い行為です。また、ながら運転で道路交通法違反となれば、懲役や罰金などの刑罰が科されるおそれがあるため、絶対にしてはいけません。
一方、ながら運転を原因とする事故に巻き込まれてしまった方は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、被害者に代わって保険会社との交渉を行うことができ、有利な弁護士基準に基づく慰謝料を請求することも可能です。
ベリーベスト法律事務所では、実績と経験豊富な交通事故専門チームの弁護士が在籍しています。交通事故の被害に遭った方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。