納得できない!交通事故で示談しない場合、リスクや他の選択肢は?
それでは、示談交渉の内容に納得がいかなくても、泣き寝入りするしかないのでしょうか。そのような場合、示談を拒否することは可能なのでしょうか。
本コラムでは、示談交渉の結果に納得ができない場合に、示談の申し入れを拒否することはできるのか、拒否した場合にとりうる選択肢やリスクについて解説します。
1、示談交渉の流れ
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(1)示談とは
「示談」というのは法律用語ではなく、法律的には「和解契約」といいます。もっとも、裁判においても「示談が成立した」などと一般的に使われているので、間違いということではありません。意味合いとしては、当事者が話し合いによって合意し、紛争を自主的に解決することをさします。
示談の金額は、客観的な損害賠償額をベースにしながらも、最終的には当事者が納得する金額で合意することになります。たとえば、損害額について、被害者は100万円と考えていて、相手方保険会社は30万円と考えている場合、間をとって65万円とするなどです。双方ともに100%満足はしていないかもしれませんが、当事者同士がある程度調整をしながら、紛争解決を目指します。
示談が成立すれば、その内容には法的な効力が認められ、双方その内容に拘束されることになります。
相手方保険会社は数多くの事件を処理しているため交渉に慣れており、できるだけ保険金の支払いを抑えるべく交渉してきます。しかし、納得ができない場合は簡単に承諾をせず、再度交渉することが大切です。 -
(2)示談の一般的な流れ
交通事故における示談までの一般的な流れは、次のとおりです。
- 交通事故発生
- 治療(通院・入院)
- 症状固定
- 後遺障害の等級認定
- 示談交渉
- 示談の成立
治療により完治した場合には、3と4を経ず、治療終了後に示談交渉が始まります。完治しない場合には、症状固定と後遺障害の等級認定の申請を行うこととなります。症状固定というのは、これ以上治療を継続しても症状の改善が見込めない状態のことです。その場合、改善されない部分への補償として、後遺障害部分に対する損害賠償(後遺症慰謝料・逸失利益)が支払われることになります。
症状が固定し後遺障害が残ったとき、治療費を永遠にもらい続けることはできないため、後遺障害として認定を受けて、それに見合う補償を受けることになります。その場合、後遺障害の程度に応じて第1級から第14級までの「等級」が定められています。
第1級がもっとも症状が重く、いわゆる植物状態となってしまった場合や両目を失明したときなどに認められます。数字が上がるにつれて症状は軽くなり、もっとも軽い場合は第14級です。
2、示談しない場合の選択肢
保険会社の提示する内容に納得がいかず、示談をしない場合、損害賠償の額が確定しませんので、相手も当然お金を支払ってきません。加害者(相手方保険会社)にお金を支払ってもらうためには、所定の手続きをとる必要があります。
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(1)交通事故紛争処理センター
裁判をせずに解決する方法としては、「交通事故紛争処理センター」を利用するという方法があります。交通事故紛争処理センターは、公益財団法人で、公共の福祉のため、交通事故に関係する人々の利益を保護し、交通事故によって生じた紛争を適正に処理することを目的としています。全国に11か所の相談拠点がありますので、お近くの交通事故紛争処理センターを利用することができます。
交通事故紛争処理センターでは、被害者からの和解あっせんの申し込みがあると、嘱託弁護士が当事者双方の出席の上で、和解あっせんを始めます。そして弁護士は、双方の話を聞いた上で、中立的な立場で和解のあっせん案を提示します。双方が、その案に納得すれば、その内容で示談が成立し、加害者(相手方保険会社)から損害賠償金が支払われます。
あっせん案に納得がいかない場合には、審査会に審査を申し立てることができ、審査会で裁定を出してくれます。その内容に納得すれば、示談が成立します。裁定の内容に同意できない場合には、訴訟等で解決するしかありません。
交通事故紛争処理センターを使うメリットとして、費用がかからず、迅速に相当程度適切な解決が図れるという点が挙げられます。
もっとも、あくまでも中立的な立場であっせんを行うにとどまるため、望む結果が得られない可能性もある点には注意が必要です。 -
(2)民事調停
民事調停は、簡易裁判所で行われます。調停委員を中心に話し合いが行われますが、裁判官も関与しますので、公正な判断が期待できます。ただし、話し合いという点では、示談段階と変わりはなく、調停で合意に至らない場合、調停不成立となり、裁判をせざるを得なくなります。
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(3)民事裁判
民事裁判を利用する場合は、管轄の裁判所に訴状を提出することで裁判手続きが始まります。その後、原告と被告がお互いに主張・立証を行い、審理が尽くされると判決という流れになります。判決に不服があれば、「控訴」することも可能です。
判決が確定すると、被害者(原告)は加害者(被告)に対して、判決に基づいて損害賠償の支払いを請求することができます。実際に支払いをするのは相手方保険会社ですが、これで、支払いが完了すれば事件は全て解決となります。もし、加害者側が支払わない場合、強制執行をすることができます。
もっとも、多くのケースでは、裁判官主導の和解協議の場が設けられるため、和解で解決するケースも数多くあります。
3、示談しない場合のリスク
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(1)注意するべきこと
示談をしなければ、当然ながら示談金を受け取ることはできません。たとえば、民事裁判によって解決を図ることになった場合、訴え提起から判決まで、1年程度かかるのが一般的です。この間、損害賠償金は支払われません。
感情的には示談に応じたくないという場合でも、時間と費用を考えて最低限の譲歩をするということも考える必要があります。また、特に注意しなければいけないのが時効です。交通事故による人身部分の損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから5年間、物損部分の損害賠償請求権は3年間で時効により消滅します。そのため、示談内容に納得ができないからと放置するのは得策ではありません。しっかりと対策を練ったうえで、対応するべきといえるでしょう。
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(2)示談を急ぐべきではないケースもある
ただし、示談を急ぐべきではないケースもあります。
たとえば、示談内容に不明な点がある場合やあまりにも低い示談金を提示されているような場合には、安易に示談はせずしっかりと相手側に根拠を求めるようにしましょう。また、後遺障害等級認定の結果に納得できない場合は、その結果が適切であるか、詳細を確認するべきといえます。示談しないことにはリスクがあることを理解しつつ、どのような対策を講じることができるのかを、しっかりと考えることが大切です。
4、示談しない場合は早めに弁護士へ相談を
保険会社から治療費の支払いを止められたり、納得のいかない慰謝料を提示されたりして「今すぐに示談はしない」という選択を考えている場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の対応実績が豊富な弁護士であれば、保険会社とどのように交渉するべきかを熟知しています。また、弁護士が入るだけで、交渉がスムーズに進むことも少なくありません。
そして、弁護士に依頼することによる最大のメリットとも言えるのが、慰謝料の額がもっとも高い、「裁判所基準」(裁判で認められた場合の基準)で算定・交渉できることです。状況にもよりますが、より高額での示談を勝ち取る方が結果的には被害者にとって有利といえるでしょう。
事故によるケガの治療をしながら相手方の保険会社と交渉することは精神的に大きな負担となるだけでなく、法律に関する専門知識も求められますので、早い段階で弁護士に相談するのが賢明です。
なお、弁護士に依頼するとなると、心配になるのは弁護士費用かもしれません。しかし、最近の自動車保険には、弁護士費用が補償される「弁護士費用特約」が付いているものも多いので、まずはご自身が加入している保険を確認することをおすすめします。特約が付いている場合には、通常、最大300万円まで弁護士費用が補償されるので、多くの場合、ご自身での負担はなく、弁護士に対応を一任することができます。
5、まとめ
交通事故に遭った場合、車の損傷やケガなどで精神的にも物理的にもダメージを受けることになります。そのうえ、保険会社から納得のいくような慰謝料が提示されなければ、さらなるストレスを抱えることになってしまうでしょう。
示談に応じない場合、いくつかの対応策はありますが、まずは弁護士に相談し、状況に応じた適切なアドバイスを得ることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、交通事故の対応実績が豊富な専門チームが、最後の解決までサポートします。示談内容に納得できない、相手の保険会社と話し合いがこじれているなどお悩みの場合は、ぜひご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。