交通事故被害者が利用可能! 保険の種類と具体的な使用方法

更新:2025年05月22日 公開:2017年05月22日
基礎知識
交通事故被害者が利用可能! 保険の種類と具体的な使用方法
国土交通省の「自賠責保険・共済ポータルサイト」では、交通事故の当事者が利用できる保険会社や共済組合が合計17社紹介されています。

交通事故の被害者は、加害者と示談交渉をすることで、事故で受けた損害に対する賠償金を請求することが可能です。このとき、受け取ることのできる賠償金の金額は、加害者と被害者がそれぞれどのような保険に加入しているか、また保険会社との交渉の進め方などの要素によって、変わってきます。被害者としては、できるだけ自分に有利な内容の賠償金を得たいところです。

本コラムでは、交通事故の示談交渉に関わる保険の種類や特徴、保険会社のやり取りとの注意点について、解説します。

1、交通事故の被害者が使える保険の種類は?

まず、交通事故の被害者が使える保険の種類について簡単にご紹介します。

  1. (1)加害者側の自賠責保険や任意保険

    加害者側が任意保険に加入していた場合、基本的には加害者側の任意保険を利用することで、損害の補償を受けることができます。

    他方、加害者が任意保険に加入しておらず、誠意を持って対応してくれない、加害者との示談が成立しない、といったケースでは、被害者はいつまでたっても損害賠償金を受け取ることができません。
    そのような場合、被害者は加害者側の自賠責保険会社に対して直接保険金を請求することができます。これを「被害者請求」といい、加害者を通さなくても迅速に請求ができるという利点があります。
    加害者との話し合いがまとまらないような場合には、加害者側の自賠責保険の利用を検討しましょう

    ただし、加害者側の自賠責保険と任意保険を併用して、賠償金の二重取りをすることはできません。自賠責保険と任意保険のどちらを使えばよいかわからない方は、以下のコラムをご参照ください。

  2. (2)ひき逃げ・無保険事故の場合は自動車損害賠償保障事業

    加害者が自賠責保険に未加入の場合や盗難車を運転していたような場合、さらにはひき逃げ事故で加害者が特定できない場合には、被害者は政府の自動車損害賠償保障事業を利用することができます

    自動車損害賠償保障事業とは、交通事故により被害者に生じた損害を国が加害者に代わって補塡(ほてん)する制度です。支払限度額は、自賠責保険と同じですが、自動車損害賠償保障事業には、以下のような特徴があります。

    • 請求できるのは被害者のみ
    • 国が支払ったお金は、国から加害者に対して求償する
    • 労災保険や健康保険による給付金があれば、その金額が差し引かれる
  3. (3)被害者側の任意保険

    もしご自身が「搭乗者傷害保険」「人身傷害補償保険」などに加入している場合は、その保険会社に対して保険金を請求することができる場合があります。
    どのようなシーンで被害者側の任意保険を使うべきかについては、後述します。

  4. (4)健康保険

    怪我の治療については、交通事故の場合でも「健康保険」を使うことができます。
    手続きが煩雑になるため自由診療での治療を勧めてくる病院もありますが、健康保険を使えないということはありません。
    被害者にも過失がある場合には、健康保険を使ったほうが過失相殺分を少なく抑えることができ、結果的にもらえる賠償金が多くなります
    また、健康保険では「高額療養費制度」を使うことが可能です。そのため、怪我の治療費が高額になりそうな場合には、健康保険を使ったほうが有利になります。
    加害者側の任意保険会社が対応してくれない場合には、必ず健康保険を使うことを申し出るようにしましょう。

    なお、交通事故で健康保険を使う場合の流れや詳しいメリットについては、こちらのコラムをご参照ください。

    交通事故の治療で健康保険は使える?メリット・デメリットと必要書類

  5. (5)仕事中・通勤中の事故なら労災保険

    仕事中や通勤中の事故の場合には「労災保険」が使える場合があります。
    労災保険は、任意保険と併用することもできますが、同じ給付内容については二重取りができません。また、労災保険が適用されるケースには、健康保険を利用することはできないため、注意が必要です。

2、加害者側の自賠責保険の内容・請求方法

一般的には自賠責保険と呼ばれていますが、正式には「自動車損害賠償責任保険」といいます。
自動車やバイクの所有者が必ず加入しなければならない強制保険で、自賠責保険に加入せずに自動車等を運転すると罰則が科せられます。

自賠責保険は、加害者の資力が乏しい場合でも、被害者が補償を受けられるようにするために国が定めた保険制度です。そのため、補償の範囲は最低限度の補償に限られ、補償の対象は対人賠償、つまり「人」に関するものに限られます

被害者側の運転者はもちろん、その同乗者や歩行中に事故に遭ってしまった場合にも請求することができますが、被害者に100%の過失があった場合には補償を受けることができません。
一方、対物賠償は補償対象に含まれないことから、自動車の修理費など、物損については補償されません。

  1. (1)自賠責保険への請求方法は2つ!

    ①請求方法は被害者請求と加害者請求
    自賠責保険への請求方法は2種類あります。それぞれ解説しましょう。

    ●被害者請求
    被害者請求とは、加害者側の自賠責保険会社に対して、被害者側が直接保険金の請求を行うことをいいます。

    なお、傷害の場合は事故日から3年、後遺障害の場合は症状固定日から3年、死亡の場合は死亡日から3年が経過すると時効によって請求権が消滅するので注意が必要です。

    ●加害者請求
    加害者請求とは、加害者が被害者に対して損害賠償金を支払った場合に、加害者が自賠責保険会社に対して保険金を請求する方法のことをいいます。
    加害者側が任意保険に加入していれば、その任意保険会社が被害者に対して補償をした後、加害者請求として自賠責保険会社から求償を受けるという形が一般的です。

    ②被害者請求と加害者請求、どちらを選ぶ? メリット・デメリット
    被害者請求と加害者請求には、それぞれメリットだけではなくデメリットも存在します。どちらの手続きをとるべきか迷っている方は、以下の内容を比較して検討するようにしましょう。

    ●被害者請求のメリット・デメリット
    【メリット】
    被害者請求のメリットは、示談を待たずに賠償金がもらえる点です。
    通常は、加害者側の任意保険会社との間で示談が成立するまでは、賠償金の支払いを受けることができません。しかし、被害者請求を選択すれば、自賠責保険の限度額の範囲で、示談に先行して支払いを受けることができます。
    また、後遺障害等級認定の申請をする際にも、被害者自身が収集したカルテや意見書などを提出するため、適切な認定を受けられる可能性が高いといえるでしょう。

    【デメリット】
    被害者請求のデメリットは、手間がかかる点です。
    被害者請求をする場合には、被害者自身で書類の収集や作成を行わなければなりません。複数の病院に通院しているようなケースでは、それぞれの病院から資料の取り寄せをしなければならず、大きな負担となるでしょう。

    ●加害者請求のメリット・デメリット
    【メリット】
    加害者請求のメリットは、手間がかからない点です
    書類の収集・作成・提出などすべての手続きを加害者側の任意保険会社に任せることができるため、被害者にはほとんど負担が生じません。

    【デメリット】
    加害者請求のデメリットは、後遺障害等級認定の申請手続きが不透明である点です。
    後遺障害等級認定の申請をする際も、すべての手続きを加害者側の任意保険会社に任せることになります。そのため被害者は、任意保険会社がどのような書類を提出したのかチェックすることができず、資料の追加提出をすることもできません。
    任意保険会社の対応方法によっては、適正な後遺障害認定を受けられないリスクがあるでしょう。

  2. (2)被害者請求の流れ

    以下では、被害者自身で請求を行う、被害者請求を選択した場合の流れを紹介します。

    ①請求用書類の取寄せ
    被害者請求をする前提として、加害者側の自賠責保険会社を特定する必要があります。

    警察に事故の届出を行っていれば、自動車安全運転センターで交通事故証明書を発行してもらうことができますので、加害者が加入している自賠責保険会社を確認することができます。そして、その自賠責保険会社に被害者請求をしたい旨の連絡をすると、必要書類が送られてきます。

    ②書類の提出
    自賠責保険会社から届いた書類に必要事項を記入するほか、被害者側でも必要な書類を集めなければなりません。被害者請求をするためには、一般的に以下のような書類が必要です。

    • 自賠責保険金等支払請求書(自賠責保険会社から送られてきます)
    • 印鑑証明書
    • 交通事故証明書
    • 事故発生状況報告書(自賠責保険会社から送られてきます)
    • 診断書
    • 診療報酬明細書
    • 通院交通費明細書、休業損害証明書等の損害を証明する書類
    • 死体検案書または死亡診断書(被害者が死亡した場合)
    • 籍(除籍)謄本(被害者が死亡した場合)

    ※上記はあくまで一例です。書類の具体的な内容については自賠責保険会社へ問い合わせて確認しましょう。

    これらの必要書類を揃え、自賠責保険会社に請求をすると、自賠責保険会社は損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所というところに調査を依頼します。

    ③自賠責損害調査事務所による調査
    自賠責保険会社から書類を受け取った自賠責損害調査事務所は、事故状況や本件事故が自賠責保険の支払対象になるかどうか、また、損害額などを公正中立な立場で調査をします。被害者の症状が後遺障害に該当するか調査をする際には、受付から数ヶ月程度かかることもあります。

    ④調査結果報告と保険金の支払い
    調査が終わると、自賠責損害調査事務所は自賠責保険会社に対して結果を報告します。自賠責保険会社はこの報告に基づき支払額を決定し、請求者に対して保険金を支払います。

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3、加害者側の任意保険の内容

加害者側の任意保険には以下のような種類があります。

  1. (1)対人賠償保険

    交通事故によって歩行者や相手の自動車の搭乗者を怪我・死亡させ、法律上の損害賠償責任を負ってしまった場合の損害を補償してくれる保険です。
    なお、対人賠償保険の補償の対象は他人の損害に対してのみなので、事故の相手が家族の場合は補償の対象外になります。

  2. (2)対物賠償保険

    交通事故によって相手の車両や家屋など、他人の物に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負ってしまった場合に保険金が支払われる保険です。修理費だけでなく、お店に車が突っ込み、休業した場合の休業損害などの間接的な損害も補償されます。
    交通事故の被害者は、一般的にこれらの保険によって補償を受けることができます。

  3. (3)任意保険への連絡は加害者が行う

    加害者側の任意保険への連絡は、加害者が行います。
    加害者が加害者側の任意保険会社に事故の連絡をすると、加害者側の任意保険会社から被害者に連絡がきます。被害者は、加害者側の任意保険会社から車の修理や怪我の治療についての連絡が来るまで待ちましょう。

4、被害者側の任意保険の種類・使うべきシーン

一方、被害者側の保険からも補償を受けることができます。
加害者側の保険だけでは補償が十分でない場合、被害者側にも過失がある場合などは被害者側の任意保険を利用することを検討するとよいでしょう。

  1. (1)搭乗者傷害保険

    保険契約をしている自動車に搭乗している最中に交通事故に遭い、怪我をしたり死亡したりした場合に、契約金額に応じて定額で補償される保険です。
    運転者が家族の場合、前述のように対人賠償保険では補償されませんが、搭乗者傷害保険では補償を受けることができます。
    搭乗者傷害保険は、以下のようなシーンで使うべきでしょう。

    • 実際の損害額の賠償だけでは不十分な場合
    • 対人賠償保険では補償されない場合
  2. (2)人身傷害補償保険

    交通事故によって怪我・死亡してしまった場合に、過失割合に関係なく損害が補償される保険です。
    契約している自動車ではない他の自動車を運転しているときや同居する家族が歩行しているときの事故であっても補償されます。
    治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益などが補償され、加害者側との合意を待たずにスムーズに保険金を受け取ることができます。
    人身傷害補償保険は、以下のようなシーンで使うべきでしょう。

    • 相手のいない自損事故や単独事故の場合
    • 相手との示談交渉が長引いている場合
    • 被害者側にも過失があり、過失相殺で賠償額が減ってしまう場合
  3. (3)自損事故保険

    自賠責保険では補償されない相手がいない事故での損害を補償してくれます。
    自損事故保険は、以下のようなシーンで使うべきでしょう。

    • 相手のいない自損事故や単独事故の場合
    • 人身傷害保険が適用されない場合
  4. (4)無保険車傷害保険

    交通事故の相手が対人賠償保険に加入していない場合に保険金が支払われる保険です。
    無保険車傷害保険は、以下のようなシーンで使うべきでしょう。

    • 事故の相手方がわからない場合(ひき逃げや当て逃げ)
    • 相手が自動車保険に加入していないまたは補償内容が不十分な場合
    • 相手のいない自損事故や単独事故の場合
  5. (5)弁護士費用特約

    弁護士費用特約とは、任意保険のオプションとして契約できる補償のひとつです。交通事故被害にあったとき、あなた自身が加入している自動車保険に弁護士費用特約がついていれば、損害賠償請求の対応を弁護士に依頼したときに発生する弁護士費用が補償されます。ほとんどの方が実質0円で、相手方保険会社との対応から一任でき、適切な慰謝料を受け取れる可能性を高められる点が大きなメリットです。
    弁護士費用特約は、以下のようなシーンで使うべきでしょう。

    • 被害者側に過失がなく、保険会社の示談代行が使えない場合
    • 保険会社からの提示された賠償額に納得ができない場合
    • 過失割合でもめている場合
    • 費用負担なく弁護士に相談、依頼をしたい場合

5、交通事故の被害に遭ったら弁護士に相談を

交通事故の被害に遭ったときは、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に依頼するメリットについて、解説しましょう。

  1. (1)保険会社との交渉を代行してくれる

    保険会社との示談交渉は、被害者自身で行わなければなりません。交通事故による怪我の治療に追われている状態で、不慣れな示談交渉まで行うのは大きな負担といえるでしょう。
    弁護士に依頼すれば、保険会社との示談交渉をすべて任せることができ、負担を大幅に軽減可能です。また、保険会社の担当者が経験豊富な方であっても、弁護士であれば不利な条件で示談を成立させることを回避できます

  2. (2)示談金の増額が期待できる

    交通事故の慰謝料の算定基準には、以下の3つがあります。

    • 自賠責保険基準
    • 任意保険基準
    • 弁護士基準(裁判所基準)

    慰謝料の金額がもっとも高額になるのは、弁護士基準です。しかし、弁護士基準で示談交渉をするには、弁護士に依頼する必要があります。保険会社から提示された賠償額に納得できない場合は、弁護士に示談交渉を依頼することで、示談金の増額が期待できるでしょう。
    ご自身の加入する自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士費用の負担なく弁護士に依頼することができるため、確認してみてください。

6、まとめ

交通事故に遭ってしまった際に利用できる保険は複数あります。ご自身がどのような保険に加入しているかをしっかり把握しておくことで、より適切な慰謝料を受け取れる可能性を高めることができます。

ベリーベスト法律事務所では、たとえ弁護士費用特約に加入していなくても、初回60分まで無料で弁護士へ相談いただけます。お気軽にお問い合わせください。

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弁護士費用特約を利用されてご依頼となった場合には、特約から1時間1万1千円(税込)の相談料を頂戴いたしますが、お客様のご負担はございません。
この記事の監修者
パートナー弁護士
弁護士会登録番号 : 49321
この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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