交通事故の治療で健康保険は使える?メリット・デメリットと必要書類
怪我の治療で病院に行く場合、健康保険を使うことがほとんどです。それでは、交通事故での怪我のケースでも、健康保険を使うことはできるのでしょうか。
交通事故の治療で健康保険を使用できるのか、使用する場合に必要となる書類などをベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
1、交通事故の治療に健康保険は使えない?
結論を先に述べますと、交通事故による治療の場合も、健康保険の使用は可能です。ただし、通勤中、業務中に発生した交通事故によってケガをした場合の治療には、健康保険は使えません。その場合は労災給付が優先されます。また、保険診療外の治療を受けた場合も健康保険は使用できません。
(1)健康保険とは
健康保険とは、国民全員を公的医療保険で保障する制度です。
日本では、国民皆保険制度が整備され、ほとんどの方が国民健康保険や企業の健康保険組合、健康保険共済等に加入しています。健康保険に加入していれば、保険対応の医療機関で治療を受けた場合、基本的には治療費の7割を健康保険が負担しますので、被保険者は3割のみ支払うことになります。ただし、高齢者や母子家庭世帯などは、自己負担割合が1割や2割となるケースもあります。
(2)交通事故によるケガの治療に健康保険は使用できる
健康保険法と国民健康保険法では、交通事故の治療費を健康保険から給付することを除外していません。また、昭和43年に厚生労働省から出された通知においても、交通事故によるケガ等は健康保険の給付対象になるとされています。したがって、交通事故によるケガの治療でも健康保険の使用は可能です。
(3)健康保険が使えないケース
交通事故の治療に限らず、健康保険の適用範囲外の治療を受けた場合は健康保険を使うことができません。代表的なものが以下の様な治療です。なお、これらの治療は保険金の支払いについても対象外になる可能性が非常に高い(自己負担になるおそれが高い)ので、避けたほうがよいでしょう。
- カイロプラクティック
- 整骨院や接骨院以外のマッサージ
- 健康保険適用外の医薬品の使用
2、健康保険を使用するにあたり必要となる書類
交通事故の治療に健康保険を使用するためには、通常の診療を受けるときと同様に、医療機関へ健康保険証を提示する必要があります。またそれ以外に、健康保険機関へ「第三者行為による傷病届」を提出しなければいけません。
(1)第三者行為による傷病届とは
健康保険機関が支払った治療費を加害者に請求するために必要な書類が、「第三者行為による傷病届」です。
健康保険法第57条等では、第三者の行為によって生じたケガや病気について保険給付を行った場合は、第三者に請求する権利を取得すると規定しています。
本来、交通事故によってケガを負った場合、治療にかかる費用は加害者が支払うのが原則です。しかし、被害者が健康保険を使って治療を受けると、本来加害者が支払うべき費用を健康保険機関が立て替えることになるため、この立て替え分を後日加害者へ請求することが法律で定められているというわけです。
(2)第三者行為による傷病届とともに提出が必要な書類
健康保険機関には、第三者行為による傷病届とともに、以下の書類を提出します。
負傷原因報告書
通勤中、業務中の事故でないことを確認するための書類です。
事故発生状況報告書
事故の状況を確認するために必要な書類です。双方の過失割合を判断するために必要な書類ですので、正確かつ詳しく事故の状況を記載します。
損害賠償金納付確約書・念書
損害賠償金納付確約書は、事故の加害者に記入してもらう書類で、治療費を必ず支払うことを約束するという内容の書類です。過失割合に関して揉めているケースなどでは、相手方が記入を拒否することがあります。その場合は、相手方が記入しない理由を記載する必要があります。
同意書(被害を受けた側が記入する)
健康保険機関が保険会社や加害者に対して支払った治療費等を請求する際に、医療費の内訳を添付します。それらの個人情報を取り扱うことに関する同意書です。
交通事故証明書
交通事故証明書とは、各都道府県の自動車安全運転センターが発行する交通事故が発生したことを証明する書類です。事故が起きたことを警察に届け出て警察が事故状況や双方の氏名等を確認した場合に発行されます。
交通事故証明書は自動的に発行されるものではありませんので、ご自身で自動車安全運転センターに請求しなければなりません。
3、交通事故の治療に健康保険を使ったほうがよい理由
(1)慰謝料が増える可能性がある
被害者に一切過失がない事故の場合、健康保険を使用しなくても加害者側の自賠責保険や任意保険から治療費が支払われます。そもそも、加害者側から治療費が全額支払われるのであれば、わざわざ煩雑な手続きを行ってまで健康保険を使う理由がないのではと考えるかもしれません。
しかしその場合においても、健康保険を使用する大きなメリットがあります。それが、「受け取ることができる慰謝料が増額する可能性があること」です。ご自身に若干でも過失が発生し、過失相殺される可能性がある事故の場合、受け取ることができる慰謝料が増額する可能性はさらに高まります。
健康保険使用と自由診療の違い
そもそも医療機関は、「健康保険使用」と「自由診療」(健康保険を使わない診療)では、同じ診療行為、治療でも異なる治療費を設定しています。健康保険を使用する場合は、診療項目、治療を点数化して、1点10円で治療費を計算します。どこの医療機関を受診しても、同じ治療であれば同じ治療費になります。
しかし、自由診療の場合は、1点の単価を病院が自由に決めることができるのです。自由診療の1点あたりの単価は、健康保険使用の場合の2倍程度としている病院が多いようです。したがって、同じ治療内容でも自由診療になれば、加害者に請求する治療費も増大します。
慰謝料と治療費の関係
被害者に過失が一切ない場合、加害者側に請求する治療費が増額しても、被害者の慰謝料には影響がないように思えます。しかし、交通事故の示談交渉の実務においては、治療費と慰謝料は密接な関係があります。それが、自賠責保険の上限金額です。
後遺障害が残らなかった場合、自賠責保険の上限金額は120万円です。
加害者側の保険会社は、被害者に支払う損害賠償金の総額が120万円を超えそうになると、自身の自腹分が出ることを避けるために、治療の打ち切りや治療費の支払いの打ち切りを宣告することがあります。
自賠責保険は、通院日数や治療期間によって慰謝料が計算されますので、通院を早期に打ち切られれば受け取ることができる慰謝料も少なくなってしまいます。しかし、健康保険を使用して治療費を圧縮すれば、十分に通院することができ、結果的に慰謝料が増える可能性があるのです。
自賠責保険の上限金額である120万円を有効に活用するためには、健康保険を使用することにも検討の余地があるのです。
(2)自己負担が少なくなる
交通事故の場合、加害者が加入している任意保険会社が自賠責保険の窓口も一括して対応し、被害者に治療費の負担が発生しないように手続きします。このサービスを、一括対応といいます。
しかし、ご自身の過失が大きい事故の場合や、加害者側が任意保険に加入していない場合など、医療機関の窓口でご自身が治療費を支払う必要が生じることがあります。
その場合、健康保険を使用しなければ自由診療の治療費を全額自己負担しなければなりません。自由診療の治療費は高額になりますし、さらにその10割を負担しなければならないとなると、負担が大きく思うように通院できないという事態にも陥りかねません。しかし、健康保険を使用することで、治療費の総額が半額程度になる上に、その3割を負担すればよいことになりますので、負担を大幅に軽減することができるでしょう。
4、健康保険を使うことによるデメリットは?
健康保険を使うことによるデメリットとしては、書類の作成や手配といった事務手続きが煩雑であるという点が挙げられます。
交通事故で健康保険を使用する場合、先述したようにさまざまな書類を用意して健康保険機関に提出しなければなりません。任意保険会社が介在している場合は、任意保険会社が書類作成のサポートを行いますが、保険会社による対応がない場合は、ご自身で作成しなければならないでしょう。
5、まとめ
交通事故に遭いケガをして治療を受ける場合、健康保険を使用することが望ましいことがあります。特に治療が長期にわたる場合や、しっかりと治療を受けたい場合は健康保険を使用したほうがよいでしょう。ただし、保険診療対象外の治療では健康保険を使用することができず、また、交通事故による治療に健康保険の使用を拒否する病院もあるため、注意が必要です。
ご自身が受け取ることができる慰謝料の金額や、保険会社との交渉等に不安を抱えている方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。交通事故対応についての知見が豊富な交通事故専門チームの弁護士が、あなたが適切な保障を受けられるようサポートします。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。