交通事故で労災は使える? 弁護士が教える任意保険と労災保険の併用法

結論からいえば、通勤途中や業務中の交通事故では労災保険も使えます。しかし、「労災保険も使える」ということを知らないと、本来受け取れたはずのお金に気づかなかったということもありえるでしょう。
本コラムでは、交通事故と労災保険にまつわる疑問を解消し、適切な補償を受けるために知っておくべきことを、ベリーベスト法律事務所 交通事故専門チームの弁護士が解説します。
- 仕事中・通勤中の交通事故は、任意保険と労災保険の両方が使える
- 保険会社との示談を締結してしまうと、労災保険への請求ができなくなる点に注意
- 労災と交通事故の両方に詳しい弁護士への依頼がおすすめ
1、交通事故で労災保険は任意保険と併用して両方使える!

仕事中・通勤中に交通事故に遭った場合には、加害者が加入する任意保険(+自賠責保険)と労災保険の両方を使うことができます。
ただし、たとえば交通事故によるケガで休まざるを得なくなり給料が払われなかったときに、任意保険(+自賠責保険)と労災保険の両方が使っていたとしても、任意保険(+自賠責保険)からの休業損害の支払いと、労災保険からの休業(補償)給付が二重に支払われることにはなりません。これを「支給調整」といいます。
これだけ聞くと、加害者の任意保険(+自賠責保険)と労災保険を両方使えるといっても、意味がないように思えるかもしれません。
しかし、労災保険から支給される「特別支給金」や「アフターケア」、「労災就学等援護費」、「長期家族介護者援護金」などについては、休業(補償)給付のように損害填補のために支給されているものではなく、社会福祉的観点から拠出されているものであるため、支給調整はなされず、単純にもらった分だけお得です。
そのため、任意保険(+自賠責保険)から治療費や休業損害についての支払いを受けているとしても、せめて「特別支給金」についてだけは、労災保険からの支給を受けないと損をすることになります。
2、任意保険(+自賠責保険)と労災保険の違いを徹底比較

相手方の任意保険(自賠責保険)と労災保険では何がどのように違うのでしょうか。
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(1)自賠責保険と任意保険、労災保険の補償内容はどう違う?
任意保険(+自賠責保険)と労災保険の主な違いは以下のとおりです。
- 1. 労災保険における休業(補償)給付は、事故前の給与の6割+2割(特別支給金)と定められており、休んだ分の満額が出るわけではないが、任意保険(+自賠責保険)であれば満額が支給される。
- 2. 労災保険においては入院中の諸雑費が支給されないが、任意保険(+自賠責保険)であれば、日額1100円が支給される。
- 3. 労災保険は無制限に支給されるが、自賠責保険には傷害部分で120万円という限度額がある。
- 4. 自賠責からの支給額は、自身の過失が7割以上あると減額されてしまう(重過失減額)が、労災保険にはそのような制限はない。
- 5. 後遺障害について、労災保険で7級以上が認定されれば障害(補償)年金が支給されるが、自賠責は全ての等級で一時金しか支払われない。
- 6. 死亡の場合、労災保険であれば一定の要件を満たせば遺族への年金が支給されるが、自賠責からは3000万円を限度額とする一時金のみが支払われる。
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(2)労災保険と任意保険、どちらから申請すべき?
任意保険(+自賠責保険)と労災保険のうち、まずどちらから申請すべきかについては、上記のような違いを理解して、自身が置かれている状況を踏まえて選択するべきです。
たとえば、①に関連して、「毎月給料が全額なくなってしまうようなギリギリの生活をしていた」というのであれば、任意保険(+自賠責保険)から給料満額と同額の休業損害を支払ってもらわなければ休業中の生活が維持できないということになります。
③に関連して、労災保険を使って通院したほうが自賠責と違って限度額がない分、比較的長めに通院することを認めてくれることが多いので、「骨折や腱の断裂がレントゲンやMRIではっきり写っていないため、長く通院することについて保険会社に難色を示されるかもしれない」というケースについては、労災保険からの療養(補償)給付にて通院をしたほうがよいということになります。
とはいえ、ケガの治療をしている最中ご自身で判断することは非常に難しいことでしょう。自分にとってどの順番で申請したほうがよいのか、悩まれた場合は、交通事故問題だけでなく労災問題にも知見が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
3、労災保険を使う場合の必要書類

交通事故で労災保険を使うために必要な手続きと書類について解説します。なお、労災保険を任意保険と併用して使用したい場合は、弁護士に相談しながら進めたほうがスムーズに申請を行えるケースが多いでしょう。
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(1)「第三者行為災害届」という書類が必要
仕事中・通勤中に交通事故に遭ってケガをした場合、加害者という第三者の行為によって労災が発生した点で、建築現場において資材が崩れてきてケガをした場合などとは状況が異なります。したがって、ケガの治療費や休業補償、後遺障害が残った際の補償などについては、本来なら加害者が負担すべきということになります。
そのため、労災保険は、建前として「一時的に労災保険から治療費等を支給するものの、労災保険から支払った分については、後で第三者から払ってもらう」という態度を取っています。労災保険が立て替えた分を第三者に対して請求することを、「求償」といいます。
この「求償」がスムーズに進むようにするためなどの理由から、仕事中・通勤中に交通事故に遭ってケガをしたような場合には、「第三者行為災害届」という書類を出す必要があります。 -
(2)「第三者行為災害届」のほかに必要な書類
前述の「第三者行為災害届」のほかにも、交通事故で労災保険を使用する際には、以下の書類が必要です。
- 1. 交通事故証明書
- 2. 念書(兼誓約書)
- 3. 自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書または保険金支払通知書
- 4. 死体検案書または死亡診断書(被災者死亡の場合)
- 5. 戸籍謄本(被災者死亡の場合)
もっとも、必要な書類や添付資料については管轄の労働基準監督署に直接聞くのが一番確実ですので、問い合わせてみましょう。
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(3)会社が労災保険の使用を拒んだら?
なお、交通事故で労災を使用するか否かについての相談を受けている際によく「仕事中・通勤中に交通事故に遭ってケガをしたが、会社が労災への申請を渋っているので労災が使えない」との相談を受けることがあります。
しかし、前述のとおり、仕事中・通勤中に交通事故に遭ってケガをした場合、第三者の行為により災害が発生している以上、会社の責任ではないといえます。したがって、第三者行為災害による労災を申告したとしても会社の支払う労災保険料が上がることはありません。
したがって、会社が労災の申請に消極的である場合には、その辺りをしっかりと説明して申請に協力するように促してみましょう。
なお、それでも会社が申請に応じない場合には、労働基準監督署に直接相談して申請をしてしまうことができます。その場合には、労働基準監督署の担当者が会社に協力を要請して、手続きを先に進めてくれます。
4、通勤・勤務中の事故で後遺障害が残ったら|等級認定と慰謝料

仕事中・通勤中に交通事故に遭い、そのケガが完治せずに後遺障害が残ってしまった場合には、労災保険と自賠責の両方に後遺障害認定申請を行うべきです。
なぜなら、労災保険における障害(補償)給付にも特別支給金があるため、どちらか片方だけに申請する場合に比べて受け取ることのできる額が大きくなるためです。
また、ケガがかなりの重傷で高次等級の認定が予想される場合は、必ず労災保険への申請を行いましょう。自賠責からの一時金はもらってしまえば終わりですが、労災保険からの年金は受給権者が生きている限り支給されますので、労災保険からの年金を受け取ることで適切な生活の補償を受けることができます。
もっとも、「自賠責よりも労災のほうが認定される等級が高いことが多い」という傾向があるといえなくもありません。したがって、自賠責において認定される等級の見込みと労災において認定される等級の見込みが異なる場合には、戦略的に労災のみに申請をして訴訟を提起するという手段もありえます。なぜなら、後遺障害等級によって受け取れる慰謝料額が大きく変わるためです。
しかし、これはかなり高度な手段ですので、そのような手段を検討している場合には、労災と交通事故の両方について知見が豊富な弁護士に依頼して進めていくことをおすすめします。
交通事故に遭ったタクシー運転手Mさんが、労災保険の申請で困り、弁護士に依頼した事例
最終示談金額:709万円
Mさんは勤務中に交通事故に遭い、労災保険の利用を希望しましたが、勤務先が協力的でないため、弁護士に相談しました。弁護士は、Mさんの権利を主張し、労災保険による治療費の支給を実現しました。
この事例から得られること
- 労災保険は、労働者が業務中に負った怪我に対して適用される保険制度である
- 勤務先が労災保険の利用を拒む場合でも、弁護士に相談することで解決できる可能性がある
- 労災保険を利用することで、より多くの補償を受けることができる場合がある
弁護士に相談するメリット
- 労災保険の手続きや、損害賠償請求に関する専門的な知識に基づいたアドバイスを受けることができます。
- 保険会社との交渉を代行し、より有利な条件で示談を結ぶことができます。
- 法律的な手続きに詳しくない被害者にとって、弁護士の存在は大きな心の支えとなります。
- 解決事例を詳しく見る
5、加害者と示談をするときの注意点

ケガが症状固定となり後遺障害の認定申請の結果も踏まえた示談案が相手方保険会社から出てきたら、後はサインをして示談金を受け取るだけで終わりとお思いかもしれませんが、示談の際には注意すべき点があります。
それは、「示談をしてしまったら、原則として労災保険への請求はできなくなってしまう」ということです。
そのため、仕事中・通勤中に発生した交通事故において、相手方保険会社から送られてきた示談書(「免責証書」というタイトルであることが多いと思います)にサインをするときには、労災保険への請求をしなくてよいのかについてもう一度冷静に検討する必要があるといえます。不安であれば、弁護士に相談してみるとよいでしょう。
6、まとめ
通勤中や勤務中に交通事故被害者になった場合、相手の保険会社と労災保険の両方が使えます。しかし、その分、複雑で理解が難しい部分が多々あったかもしれません。本コラムでご案内している部分はほんの導入であって、実際にはもっともっと考えなければならないことや踏まなければならない手続きがあります。
また、最初は相手方保険会社が治療費を負担していたケースでも途中から労災保険に切り替えるということも不可能ではありません。その場合の処理も、途中から労災保険が治療費を負担したり、さかのぼって治療費の全額を労災保険が負担したりということもありえます。
このように、ケース・バイ・ケースでとりうる選択肢は多数存在し、どれがご自身にとって最も有利かというのは専門家でなければ判断することは非常に難しいといえるでしょう。したがって、仕事中・通勤中に交通事故にあってしまったときには、交通事故と労災の両方の知見が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、豊富な経験を有する交通事故専門チームと労働災害専門チームがタッグを組み、適切な対応が可能です。ぜひ一度ご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。