保険会社が弁護士費用特約を嫌がる3つの理由と嫌がられたときの対処法

保険会社が弁護士費用特約の利用を嫌がったとしても、保険料を支払っているのは契約者の方ですので、保険会社に遠慮することなく弁護士費用特約を利用するようにしましょう。ただし、事案によっては弁護士費用特約が使えないケースがあることに注意が必要です。
本コラムでは、保険会社が弁護士費用特約を嫌がる3つの理由と嫌がられたときの対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、保険会社が弁護士費用特約の利用を嫌がる3つの理由
保険会社に「弁護士費用特約を使いたい」と伝えると、担当者から嫌がられることもあるでしょう。それには主に、以下のような理由が考えられます。
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(1)示談交渉で争いが生じていない
保険会社が弁護士費用特約の利用を嫌がる1つ目は、加害者側との示談交渉で争いが生じていない場合です。
被害者と加害者双方の保険会社間である程度話が付いており、特に争う部分もない場合には、「弁護士が介入しても結果に大きな違いは生じない」「弁護士が介入すると話がこじれて長引いてしまう」と感じて、弁護士費用特約の利用を嫌がることがあります。 -
(2)軽微な事故で損害額が少ない
保険会社が弁護士費用特約の利用を嫌がる理由の2つ目は、軽微な事故で損害額が比較的少ないことが挙げられます。
軽微な物損事故や人身事故でも軽傷の場合は、賠償額が少なく、弁護士に依頼しても大幅な増額は期待できません。「弁護士費用の支出に見合うメリットが乏しい」「弁護士費用の負担の方が大きくなる」と保険会社が判断した場合、弁護士費用特約の利用を嫌がることがあります。
しかし、これはあくまでも保険会社側の事情であるため、被害者が弁護士費用特約の利用を諦めなければならない理由にはなりません。 -
(3)保険会社が弁護士費用を負担しなければならない
保険会社が弁護士費用特約の利用を嫌がる理由の3つ目は、保険会社が弁護士費用を負担しなければならないからです。
弁護士費用特約を利用すれば、通常、被害者は費用を負担することなく弁護士に交通事故の対応を依頼することができます。しかし、その分の費用は保険会社が負担しなければなりません。
弁護士費用特約を利用しても、契約者の保険料がすぐに増額されることはなく、保険会社にとっては「支出が増えるだけでメリットがない」と感じてしまうことがあります。
2、そもそも弁護士費用特約を利用できない主な5つのケース
弁護士費用特約の利用を嫌がられたのではなく、契約条件上、そもそも弁護士費用特約を利用できないケースが存在する点にご留意ください。以下に該当する場合は、保険会社と交渉をしても、弁護士費用特約を利用することはできない、または非常に難しいとされています。
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(1)被害者に故意または重大な過失がある事故
被害者に過失があったとしても、通常の事故であれば、問題なく弁護士費用特約を利用することができます。
しかし以下のような、被害者に故意または重大な過失が認められる事故においては、契約上、特約が適用除外となることがあります。- 飲酒運転
- 無免許運転
- 薬物の影響により、正常な運転ができないおそれがある状態での運転
- あおり運転などの犯罪行為に該当する運転
- 急な飛び出しなどの自殺行為
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(2)自動車事故以外の事故
自動車事故以外の事故であった場合、原則として、弁護士費用特約を利用できません。
弁護士費用特約は、通常、自動車保険に付帯する特約です。そのため、弁護士費用特約が利用できるのは、自動車やバイクを運転している際に発生した自動車事故になります。
以下のような事故は「自動車事故」に該当せず、原則として特約は適用されません。- 自転車と歩行者の事故
- 自転車同士の事故
ただし、保険契約の内容によっては、自動車事故以外の事故でも利用できる可能性があります。この点は、保険会社に確認するようにしてください。
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(3)事業用自動車での事故
事業用自動車での事故では、弁護士特約が利用できない可能性があります。
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(4)事故後に弁護士費用特約に加入
事故後に弁護士費用特約に加入した場合、弁護士費用特約は利用できません。
弁護士費用特約を利用できるのは、交通事故が発生した時点において、弁護士費用特約に加入している場合に限られます。後から弁護士費用特約に加入しても、利用することはできませんので、ご注意ください。 -
(5)損害賠償の請求相手が被害者の親族
損害賠償の請求相手が被害者の親族である場合、弁護士費用特約の対象外となることがあります。たとえば、以下のような関係がある場合には、弁護士費用特約を利用することはできません。
- 被保険者の配偶者
- 被保険者の父母
- 被保険者の子ども
- 被保険者の同居の親族
親族間で発生した事故は、家庭内の問題として処理されるために対人賠償保険の対象にならず、同様に弁護士費用特約も適用されないとする契約が多いためです。
3、弁護士費用特約を嫌がられても利用すべき5つのケース
保険会社に弁護士費用特約の利用を嫌がられたとしても、以下のようなケースは被害者にとって大きなメリットがあるため、積極的に弁護士費用特約を使っていくべきといえます。
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(1)人身事故
人身事故は、治療費や休業損害、慰謝料など、被害者に生じる損害額が高額になる傾向があります。適正な賠償額を獲得するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
特に慰謝料については、弁護士が介入した場合、保険会社が算定に用いる基準とは異なる弁護士基準で算定することで、大幅な増額が期待できるため、弁護士特約を利用して弁護士に依頼する必要性が高くなります。 -
(2)軽微な事故
軽微な事故では、損害額が低く、弁護士が介入しても大幅な増額は期待できません。また、弁護士に依頼すると費用倒れになってしまう可能性があるため、自己負担での弁護士の依頼は避けるべきと言えます。
ただし、このようなケースで弁護士費用特約を利用すれば、自己負担なしで弁護士に依頼でき、費用倒れのリスクがないことが弁護士費用特約の大きなメリットです。
「軽微な事故なら、弁護士はいらないのではないか」と考える方も多いですが、過失割合や修理費の妥当性などを巡って争いになることがあるため、弁護士のサポートが必要になる場合もあります。 -
(3)被害者側で無過失
追突事故など被害者に過失がない事故の場合、保険会社による示談代行サービスを利用することができません。そのため、被害者自身で加害者側の保険会社と交渉する必要があります。
しかし、交渉に慣れていない一般の方が、経験豊富な保険会社の担当者を相手に、対等に交渉することや金額の妥当性を判断することは簡単ではないため、示談交渉は弁護士に任せるべきでしょう。
弁護士費用特約を利用すれば、費用を負担することなく、弁護士に保険会社との示談交渉任せることができます。 -
(4)加害者側が任意保険無加入
加害者が任意保険に加入していない場合、示談交渉は加害者本人と直接交渉することになります。
しかし、加害者によっては誠実な対応をしてくれない方もいますので、交渉が難航するケースも少なくありません。また、賠償金を支払えるだけの資産がない方だと、賠償金の支払いを確保するための対策も必要になります。
このようなケースでは、法的手続きを含めた対策が求められるため、弁護士費用特約を利用して、早い段階から弁護士に関与してもらった方がよいでしょう。 -
(5)高級車での事故
高級車で事故の被害を受けた場合、修理費用だけでなく、「評価損」が争点になることがあります。
評価損とは、修理歴により、車両価格が事故前の価格を下回ることによる損害のことです。普通車では、事故で評価損が発生したとしても、ほとんど認められることはありませんが、高級車であれば、評価損の支払いが認められるケースがあります。
ただし高級車であっても、簡単には支払いに応じてもらうことはできません。
保険会社との交渉は、専門家である弁護士に任せるべきです。弁護士費用特約を利用すれば、費用倒れになるリスクを心配することなく弁護士に依頼することができます。
4、保険会社に弁護士費用特約の利用を嫌がられたときの対処法
保険会社に弁護士費用特約の利用を嫌がられたときは、以下のような対処法を検討してみましょう。
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(1)弁護士費用特約の内容を確認する
2章で解説したとおり、弁護士費用特約を利用することができない、以下のようなケースが存在します。
- 被害者に故意または重大な過失がある事故
- 自動車事故以外の事故
- 事業用自動車での事故
- 事故後に弁護士費用特約に加入した
- 損害賠償の請求相手が被害者の親族である
保険会社の担当者から「弁護士費用特約は使えません」と言われたときは、保険証券や保険約款の内容を確認して、本当に弁護士費用特約が使えないケースなのかをチェックしてみましょう。
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(2)担当者に弁護士費用特約の利用を嫌がる理由を聞く
保険証券や保険約款を確認して、弁護士費用特約を利用できるケースに該当する場合には、保険会社の担当者に弁護士費用特約の利用を嫌がる理由を聞いてみるとよいでしょう。
そのときに、保険会社の担当者が以下のような回答をしたときは、弁護士特約の利用を拒否できる理由にはなりません。- 損害額が低く、弁護士をつけても大幅な増額は期待できない
- 示談交渉が順調であるため、弁護士をつける必要はない
- このケースでは、弁護士費用特約の利用を認めていない
弁護士費用特約は、保険契約者が保険料を支払って得た正当な権利です。契約条件に該当しているのであれば、保険会社に遠慮せず、積極的に利用すべきでしょう。
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(3)保険会社のカスタマーセンターに連絡する
担当者とのやり取りで納得のいく回答が得られなかった場合は、保険会社のカスタマーセンターに連絡するのも有効です。
保険会社のカスタマーセンターに連絡すれば、本当に弁護士費用特約を利用できないのかを調査したうえで、弁護士費用特約を利用できるケースであれば、担当者に替わって手続きを進めてくれる可能性があります。 -
(4)弁護士に相談して、保険会社に連絡してもらう
弁護士費用特約の利用を嫌がられてしまい、自分で交渉しても弁護士費用特約を使わせてもらえないという場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談すれば、本当に弁護士費用特約を利用できないのかを判断してもらうことができます。また、弁護士費用特約を利用できるケースであれば、保険会社に直接連絡して、交渉してもらうことも可能です。
5、【デメリットなし】弁護士費用特約が使えるなら弁護士に依頼するべき
弁護士費用特約を利用することで、デメリットが生じることはありません。弁護士費用特約が使えるなら、活用すべきでしょう。5章では、弁護士費用特約のメリットを紹介します。
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(1)弁護士費用の負担を気にすることなく弁護士に依頼できる
弁護士費用特約を利用するメリットは、弁護士費用の負担を気にせずに済むことです。
特に、軽微な人身事故や物損事故で弁護士に依頼すると、損害額が低いために、費用倒れになるケースがあります。しかし、弁護士費用特約を利用すれば、費用倒れのリスクを心配することなく、弁護士費用を支払わずに弁護士に依頼することが可能です。
また、弁護士に依頼すれば、加害者側の保険会社との交渉はすべて弁護士が対応するため、自身で交渉する負担がなくなります。
なお、弁護士費用特約は、保険会社にもよりますが、通常300万円までの費用を負担してくれます。最終的に費用が300万円を超える場合(例として常に介護を必要とする重度の後遺障害が残る事故や死亡事故などの場合)には、ご自身の負担が生じる可能性があります。事前に依頼する弁護士に確認しておくのがよいでしょう。 -
(2)弁護士費用特約を使っても保険等級は変わらない
弁護士費用特約の利用を検討しているときに、弁護士費用特約を使うことで保険等級が下がるのではないかと心配される方もいます。
しかし、弁護士費用特約を使っても保険等級が下がることは通常ありません。保険料が増える心配もないため、安心して弁護士費用特約を利用してください。 -
(3)依頼する弁護士は自由に選べる
「弁護士費用特約を利用したい」と保険会社に伝えると、保険会社から弁護士の紹介を受けることがあります。しかし、保険会社から紹介を受けた弁護士に依頼しなければならないという決まりはなく、依頼する弁護士は自由に選ぶことができます。
弁護士の知見や経験によって結果が左右される可能性がありますので、交通事故問題に詳しい弁護士に依頼するようにしましょう。 -
(4)保険会社の提示額よりも賠償額を増額できる可能性がある
保険会社から示談金の提示を受けた場合、すぐに応じてはいけません。
弁護士に依頼すれば、裁判所基準(弁護士基準)に基づく慰謝料を請求することが可能であるため、保険会社の提示額から賠償額を増額できる可能性があります。少しでも多くの賠償金をもらいたいという方は、保険会社と示談をする前に弁護士に相談するようにしましょう。
6、まとめ
弁護士費用特約を使うと、保険会社が弁護士費用を負担することになるため、事案によっては弁護士費用特約の利用を嫌がる様子を見せることもあります。
しかし、弁護士費用特約を利用するのは保険契約者の権利です。弁護士費用特約を利用できるケースであれば、保険会社に遠慮せず、積極的に利用しましょう。
弁護士費用特約の利用を検討中の方は、交通事故問題に強いベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。交通事故専門チームの弁護士が、親身になって対応いたします。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。