自転車事故における適切な示談金の相場は? 計算方法を解説
交通事故の加害者となれば、たとえ自転車であっても厳しく責任を問われるのは当然です。近年では、危険な自転車運転に対する社会の目が一層厳しくなっている状況がうかがえます。
本コラムでは、自転車が加害者となる交通事故の被害に遭った場合の示談の流れや示談金の相場・計算方法などを弁護士が解説します。
1、加害者が自転車だった場合の事故における示談とは?
歩道を歩いていたら後ろから走ってきた自転車に追突された、見通しの悪い交差点に進入してきた自転車と衝突したなど、自転車が加害者となる交通事故の被害に遭ってしまうケースがあります。
しかし、自転車には、自動車では加入が義務付けられている自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)のような制度がありません。そのため、加害者が自転車だった場合、加害者本人、もしくは加害者が加入する保険会社に損害賠償請求していく必要があります。
まずは加害者が自転車だった場合の交通事故における「示談」について、被害に遭った方が疑問を感じやすい点を解説します。
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(1)「示談」とは?
これまでに交通事故に遭った経験がなければ「示談」とはどのようなものなのか、示談金を提示されたが「慰謝料とは違うのか?」といった疑問も生じるはずです。
「示談」とは、トラブルの当事者同士が裁判所の手続きを経ることなく話し合いによって和解を目指すことをいいます。交通事故における示談では、事故の加害者と被害者が話し合いを進め、加害者は事故を起こしてしまったことに対する責任を果たし、被害者はその後の法的手続きを進めないことを約束するのが一般的です。
したがって、一般的に示談を通じて支払われる金銭には、いわゆる慰謝料も含まれています。治療中などの状態で示談を持ちかけられることがあるかもしれませんが、示談後の治療費等を見据えて示談を成立させる必要があるでしょう。
自転車の保険加入を条例で義務化している自治体が増加しています。平成31年4月にau損害保険株式会社が実施した調査によると、自転車保険への加入率は全国で56.0%でした。条例によって義務化されている地域では64.3%、非義務化の地域でも49.8%となっており、原動機付自転車の自賠責加入率に迫っているため、任意保険による賠償が十分期待できます。
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(2)示談の一般的な流れ
ケガのある交通事故の示談は、次のような流れで進みます。
- 警察への通報
- 治療の開始
- 治療の終了
- 後遺障害認定
- 示談の開始
- 示談成立
- 示談金の受け取り
交通事故が発生したら、まずはその場で直ちに警察に通報しましょう。
そして、現場における事故処理が終わったら、完治を目指してケガの治療に専念します。医師の判断次第では入院して治療に取り組むべきです。残念ながら完治できずに後遺症が残ってしまったら、後遺障害認定を受けることで等級に応じた補償が請求できます。
治療が完了、または後遺障害の等級が認定されれば示談交渉の開始です。
事故の加害者が加入している保険会社か、加害者本人と示談を進めていきます。お互いの条件に納得できれば示談が成立するので、示談書を交わしたうえで加害者側から支払われる示談金を受け取って示談が終了します。 -
(3)「示談金」と「慰謝料」の違い
交通事故の示談では、加害者側が「示談金」を支払うことになりますが、ここで多くの方が疑問を感じるのは「示談金」と「慰謝料」の違いです。
そもそも慰謝料とは、民法第709条の定めに基づいて、不法行為を行った当事者が、精神的苦痛を与えた相手に支払うべき賠償金のひとつです。交通事故の被害者は、重いケガや後遺障害によって強い精神的苦痛を受けることになります。慰謝料は、これらの精神的苦痛に対する賠償金です。つまり、基本的には交通事故被害にあった場合でも、ケガのある交通事故=人身事故のみにおいて発生します。
他方、示談金とは、示談交渉において加害者が支払う金銭全体を指すものです。ケガの治療費や入院費、事故の衝撃で壊されてしまった持ち物の弁償などに加えて、先述の通り、精神的苦痛に対する慰謝料も示談金には含まれます。
「示談金=慰謝料」ではなく、慰謝料は「示談金の一部」にすぎないことを心得ておきましょう。
2、交通事故の加害者に請求できるお金の内訳
交通事故の加害者に対しては、事故によって生じたさまざまな損害に対する賠償を請求できます。
自転車が加害者となった交通事故の被害に遭い、加害者に請求できるお金について挙げていきましょう。
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(1)入通院にかかる治療費
自転車は、市街地でも時速10~20キロメートル程度の速度が出る乗り物です。クロスバイク・ロードバイクといったスポーツタイプのものであれば、時速30キロメートルを超える速度を出すことも難しくないでしょう。
当然、これだけの高速度で人と衝突すれば、被害者はかすり傷程度で済むはずがありません。事故の状況次第では重症を負い、医師の判断次第では入院して治療に取り組まなくてはならないこともあるはずです。
入通院によって医療機関に支払うべき治療費は、原則実費での請求が可能です。ただし、やみくもに入院・通院期間を長引かせるなど、必要性を欠く場合は請求が認められないことがあるので注意しましょう。
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(2)ケガ・後遺障害に対する慰謝料
交通事故によってケガや後遺障害を負うことになれば、精神的苦痛に対する賠償金として慰謝料の請求が可能です。
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(3)通院にかかる交通費
ケガの容体によっては、徒歩や車を運転して医療機関に通うのが難しいこともあるでしょう。
通院に交通機関を利用しなければならない場合は、原則実費で交通費の請求が可能です。家族が自家用車で送迎する場合でも距離に応じた交通費の請求が可能ですが、タクシーを利用する場合は、その必要性があるか、相当といえるか、を問われることになります。
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(4)ケガのために仕事を休んだことに対する休業損害
交通事故によるケガが回復しなければ、仕事に出ることもできないでしょう。出勤日数や稼働日数が減ってしまえば収入が減少するため、減収分を休業損害として請求可能です。
ただし、休業損害を請求できるのは、あくまでも「実際の減収分」に限られます。入院・通院のために休業したのに通常どおりの給料が支払われたといったケースでは、減収していないので休業補償の請求は認められません。
なお、入通院のために有給休暇を取得した場合は、減収が発生していなくても有給休暇分を休業損害として請求可能です。
他方、通勤途中に交通事故に遭った場合は労働災害として休業補償給付を受けられます。この制度によって補償された金額分は減収とみなされないので、休業損害から差し引くことになることは知っておきましょう。
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(5)働けなくなってしまった場合の逸失利益
ケガの程度が重篤で、今後は仕事ができないほどの後遺障害を負ってしまった場合は、健康に働くことができていれば得られるはずだった収入分を逸失利益として請求できます
ただし、後遺障害が認定されなかった、事故当時は無職で収入がなく就職の予定もなかった、生活保護によって生計を維持していたなどのケースでは逸失利益の請求が認められません。
3、請求すべき示談金の計算方法と相場
交通事故における示談では、加害者が自転車保険に加入している場合、加害者側の保険会社が一方的に示談金の額を決めて提示してくることが多いでしょう。「保険会社が提示してきた示談金の額は変えようがない」と思われるかもしれませんが、交渉によって増額される可能性があります。
自転車が加害者となった交通事故における示談金の計算方法や、症状別の示談金の相場をみていきましょう。
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(1)示談金を計算するうえでのポイント
交通事故における示談金は、事故によって生じたさまざまな損害を整理して算出する必要があります。加害者側の保険会社が提示する金額をうのみにすると、本来は受け取ることができるはずだった金額よりも大幅に低い示談金で決着させられてしまうからです。
事故の被害者として提示する示談金の額は、以下の3つのポイントを柱に計算しましょう。
- ケガの治療に要した入通院の日数
- 後遺障害がある場合は認定された等級
- ケガが完治するまでに休業した日数と減収額
ケガの治療に要した入通院の日数や後遺障害の等級は、慰謝料の額に影響します。後遺障害の等級は、さらに逸失利益の算出にも影響するので、適正な認定を受けることが重要です。
ケガが完治するまでに休業した日数と減収額は、休業補償に影響します。休業補償を計算する際は、有給休暇の取得日数や労災保険による休業補償も考慮する必要があるので、より計算が難しくなるでしょう。
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(2)慰謝料算定の2つの基準
加害者が任意保険に加入している場合、交通事故の示談金を算定するにあたっては、慰謝料の算定が大きく影響します。
慰謝料は被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金ですが、ケガや後遺障害による精神的苦痛の度合いには個人差があり、しかもその度合いを正確に評価する方法はありません。そこで、ケガの治療に要した日数や後遺障害の等級に照らして、2つの基準のいずれかを適用して金額を決定することになります。
示談交渉において、交通事故における慰謝料算定の基準は、次の2つです。
任意保険基準
加害者が加入している保険会社独自の基準で慰謝料額を算定します。ただし、各保険会社が設けた基準で慰謝料を計算するため、満足できる賠償が得られるとはいえません。
裁判所基準(弁護士基準)
もっとも充実した補償を得られるのが過去の裁判を参考に算出された裁判所基準(弁護士基準)です。過去に同じようなケースで争った裁判の結果をもとに作成された「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(通称:赤い本)」が示している慰謝料額の基準を適用します。任意保険の基準と比べると、同じ事故でも慰謝料額が格段に高くなります。
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(3)軽症事故の示談金の相場
「軽症」とは、治療に入院を必要としない程度のケガのことです。医療や救急などの現場で使われる用語で、警察が使う「軽傷」とは意味が異なります。
警察が使う「軽傷」とは、全治1か月未満のケガを意味しているので「軽症事故」と「軽傷事故」は似ているようでも同じではありません。たとえば、打撲や捻挫などのケガでは、全治までに1か月を要しないので警察の扱いでは軽傷事故にあたりますが、負傷した部位によっては入院を要するため軽症事故とはいえないこともあるわけです。
代表的な軽傷事故の示談金の相場をみてみましょう。打撲の場合
軽い打撲であれば、通院にかかる期間はおおむね2週間程度です。
赤い本によると、通院1か月・入院なしの場合の慰謝料は19万円なので、通院2週間だと約8万8000円になります。治療費・交通費・休業補償などを含めると、15万円程度が相場になるでしょう。捻挫(むち打ち)の場合
交通事故のケガとして代表的な「むち打ち」は頚椎捻挫と診断されるケースが多いでしょう。個人差はありますが、通院期間は1~3か月が一般的です。
赤い本による慰謝料額は、通院1か月で19万円、2か月で36万円、3か月で53万円になります。治療費も高額になりやすく、1か月で15万円、3か月では30~40万円程度になるでしょう。慰謝料・治療費・交通費・休業損害などを含めると、示談金は40~100万円以上が相場です。 -
(4)重症事故の示談金の相場
3週間以上の入院を必要とするケガは「重症」として扱われます。こちらも警察が全治1か月以上の負傷を指す「重傷」とは意味が異なっているので注意が必要です。事故によって骨折などの重傷にあたるケガを負った場合は、部位によっては長期の入院を余儀なくされるため重症事故として扱われるでしょう。
重症事故では、入院期間と通院期間を照らして慰謝料を算定します。たとえば、入院1か月・通院なしの場合、赤い本によると慰謝料額は53万円です。入院費用の相場が20~30万円、骨折部位や状況によってはさらに20~50万円程度の手術費用も必要になります。
さらに1か月間の休業補償も請求することになるので、手術を要した場合は150万円程度、手術を要しなかった場合でも100万円程度が相場です。
4、弁護士へ相談すべきケース
自転車が加害者となる事故の場合においても、まず通報すべきは警察です。そのうえで、双方の話し合いを通じて示談金を決めていくことになります。その場で示談に応じることは絶対に避けましょう。加害者の連絡先を受け取り、病院へ行き治療が終了してから示談するようにしましょう。
そのうえで、弁護士に相談したほうがよいケースは以下の通りです。
- 相手方の保険会社から示談の話がきたとき
- 長期にわたり入通院し後遺障害となりそうなとき
- あなた自身が加入している保険に弁護士特約が付いているとき
なお、相手方が任意保険に加入していない場合で相手方に支払い能力がない場合、いくら弁護士を立てて請求したところで、即時の支払いを受けられないことがあります。その場合、弁護士に依頼をしても費用倒れになってしまう可能性があることは否定できません。
ご自身が加入されている保険に弁護士特約が付いている場合は、利用できるかも含め、弁護士に相談してみることはひとつの手です。弁護士特約が利用できる場合、持ち出しは最小限に抑えられるかもしれません。
5、まとめ
たとえ相手が自転車でも、高速度で接触すれば無事では済まないでしょう。ケガの治療費、慰謝料、休業補償など、十分な補償を受けたいのに、加害者側の保険会社が提示してくる示談金をそのまま受け入れてしまうのは得策ではありません。しかし、数多くの交通事故を担当してきた保険会社と個人が対等に交渉を進めるのは困難です。
自転車が加害者になった交通事故で、保険会社から提示された示談金の額に満足できない場合は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。交通事故トラブルの解決実績を豊富にもつ専門チームの弁護士が、あなたの代理人として保険会社との交渉を進め、治療に専念するために十分な補償が得られるように最善を尽くします。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。