交通事故の慰謝料いくらもらった? 傷病別相場と交渉で増額する理由
交通事故の場合、傷病に応じて受け取ることができる慰謝料の相場は決まっています。さらに、慰謝料の算定基準には3つの種類があり、どの算定基準に基づいて計算をするのかによって、慰謝料の金額が大きく変わるケースが多々あるのです。
本コラムでは、交通事故の慰謝料の算定基準と傷病別の相場について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。相手方保険会社が提示する金額に同意する前に、ぜひ参考にしてください。
1、交通事故被害を受けたとき請求できるお金
交通事故の被害を受けた場合には、被害者が被った損害に関し、慰謝料を含む賠償金を請求することができます。なお、この賠償金は、大きく分けて「物損」に関する賠償金と「人身傷害」に関する賠償金に区別されています。
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(1)物損に関する賠償金
物損に関する賠償金としては、以下のものが挙げられます。
修理費
交通事故によって車が破損した場合には、破損部分を修理するための費用が損害として認められます。ただし、修理費の金額が、車の時価額と買替諸費用の合計を上回っている場合には、経済的全損として、時価額と買替諸費用の合計が損害となります。
買替諸費用
車を修理することができない場合には、車を買い替えることになります。その際には、検査・登録費用、車庫証明費用、登録手続代行費用などの買替諸費用がかかります。修理費の金額が、車の時価額と買替諸費用の合計を上回っている場合には、経済的全損として、時価額と買替諸費用の合計が損害となります。
評価損
車の修理ができたとしても、機能や外観に欠陥が生じてしまうことや事故歴によって中古車市場での価値が低下してしまうことがあります。その場合には、事故前の車両価額と修理後の車両価額の差額が評価損として認められることがあります。
代車使用料
修理や買い替えのために車が使用できなかった期間について、代車を使用した場合には、必要かつ相当な範囲内で代車使用料が損害として認められます。
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(2)人身傷害に関する賠償金
人身傷害に関する賠償金としては、以下のものが挙げられます。
治療費
怪我の治療として必要かつ相当な実費全額が損害として認められます。
通院交通費
車で通院をした場合には、1キロメートルあたり15円のガソリン代が損害として認められます。また、公共交通機関を利用した場合には、実費分が損害として認められます。
休業損害
会社を休んで収入が減少した場合には、減収分について損害として認められます。給料を得ていない専業主婦についても、平均賃金を基礎として休業損害が認められます。
逸失利益
交通事故によって後遺症が残存してしまった場合には、労働能力の全部または一部を失うことになりますので、将来得られるはずの利益を失ってしまうことになります。そこで、このような将来の減収分については、逸失利益として請求することができます。
慰謝料
交通事故によって被害者に生じた精神的苦痛は慰謝料として請求することができます。慰謝料には被害者が死亡したときの死亡慰謝料、入通院したときの傷害慰謝料(入通院慰謝料とも呼ばれます。)、後遺症が残った場合の後遺症慰謝料があり、詳細は後述します。
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(3)慰謝料の意味と内容
慰謝料とは、精神的苦痛を慰謝することに対して支払われる賠償金のことをいいます。交通事故によって負傷した被害者は、さまざまな場面で精神的苦痛を被ることになりますので、それに応じた慰謝料が支払われることになります。
ただし、交通事故における慰謝料は、身体的な被害を受けたことによって生じる精神的苦痛に対して支払われるものです。したがって、物損については、原則として慰謝料は生じないと考えられています。
① 負傷したとき
交通事故によって負傷すると、被害者は、怪我の治療のため一定期間入院や通院を余儀なくされ、それに伴って精神的苦痛を被ります。この場合には、傷害慰謝料(入通院慰謝料)を請求することができます。
② 死亡したとき
交通事故によって死亡すると、死亡した本人とその遺族が精神的苦痛を被ります。この場合には、死亡慰謝料を請求することができます。
③ 後遺症が残存した場合
交通事故の怪我のなかには、治療を継続しても完治することなく、後遺症として残ってしまうことがあります。このような後遺症が残存してしまうと、その後も痛みやしびれなどを伴うなどの精神的苦痛を被ることは間違いありません。場合によっては、日常生活への影響を受けてしまうこともあるでしょう。この場合には、後遺症慰謝料を請求することができます。
2、慰謝料の相場は算定基準により異なる
交通事故の慰謝料はどのように決めることになるのでしょうか。
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(1)慰謝料は主観ではなく客観的な基準によって決める
慰謝料は、被害者の精神的苦痛に対して支払われる賠償金ですので、被害者の主観を基準に決めるようにも思うかもしれません。しかし、被害者の主観を基準に慰謝料の額を決めてしまうと、同じような事故であっても被害者ごとに金額が異なる事態が生じるなど、不公平な結果になってしまうと考えられます。
そこで、交通事故の慰謝料については、被害者主観ではなく、傷害の部位・程度、入通院の別、入通院期間の長短などを基準として客観的に算定することになっています。
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(2)3つの慰謝料の算定基準
慰謝料を客観的に算定するためには、ある程度基準化された慰謝料の算定基準が必要となります。交通事故の賠償実務においては、以下のような3つの慰謝料の算定基準が存在しています。
① 自賠責保険基準
自賠責保険基準とは、自賠責保険から慰謝料が支払われる場合の基準です。自賠責保険は、加害者が負うべき賠償を補填することによって、交通事故の被害者に対する最低限の救済を行う保険です。したがって、自賠責保険基準による慰謝料額は、他の算定基準と比べると最も低い金額となっています。
② 任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険会社が被害者に対して慰謝料を支払う場合の基準です。任意保険基準は、任意保険会社ごとに独自に設定されている基準であり、その内容は外部には公表されていません。したがって、具体的な基準の内容については不明です。一般的には、自賠責保険基準と同程度か若干上乗せした程度の金額になることが多いでしょう。
③ 裁判所基準(弁護士基準)
裁判所基準とは、交通事故の裁判例の蓄積によって基準化された慰謝料の算定基準です。弁護士が保険会社との示談交渉に用いる基準でもあることから、弁護士基準とも呼ばれています。
裁判所基準は、他の算定基準と比べると最も実情に即した、慰謝料の金額が最も高くなる基準です。
3、主な傷病別受け取れる慰謝料相場の違い
以下では、主な傷病別に受け取ることができる慰謝料相場の違いについて、傷害の程度ごとに一例を紹介します。
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(1)後遺症が残らなかった場合
後遺症が残らなかった場合には、入通院したときの傷害慰謝料(入通院慰謝料)を請求することができます。傷害慰謝料(入通院慰謝料)は入通院した日数に基づいて算定されます。ただし、慰謝料額の算定には様々な事情を考慮するため、必ずしも基準に基づいて計算して相場どおりになるわけではありません。
傷害慰謝料(入通院慰謝料)は以下の金額が相場となります。自賠責保険基準
4300円×入通院した期間の日数
ただし、入通院した実日数の2倍が入通院した期間の日数を下回る場合は、入通院した期間の日数ではなく入通院した実日数の2倍で算定します。
また、令和2年4月1日以前に発生した事故の場合、日額は4300円ではなく4200円で算定をします。裁判所基準
裁判所基準は『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準』(いわゆる「赤い本」)に掲載された別表などの基準に基づいて算定します。自賠責保険基準のように一定の日額×入通院した期間の日数といった方法で計算するわけではありませんが、入通院した日数が増えると慰謝料も増えるようになっています。
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(2)後遺障害等級14級9号(むちうち)の場合
交通事故で最も多い症状として、むちうちが挙げられます。交通事故によって強い衝撃を受けると頭が揺さぶられ、首に負担がかかり痛みやしびれなどの不調が出ることがありますが、それがむちうちです。
懸命な治療にもかかわらず、痛みやしびれ等の後遺症が残存した場合において、レントゲンやMRIからは異常所見は見られないものの、症状固定後もむちうちの症状が残っており、それが連続・一貫していて症状の存在が医学的に推定されれば、後遺障害等級14級9号が認定されます。後遺障害が残った場合には、傷害慰謝料(入通院慰謝料)に加えて、後遺障害慰謝料も請求することができます。
この場合の後遺症慰謝料としては、以下の金額が相場となります。
- 自賠責保険基準:32万円
- 裁判所基準:110万円
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(3)後遺障害等級12級13号(むちうち)の場合
むちうちの症状について、神経損傷や神経圧迫が認められ、神経学的検査所見などの他覚所見が存在し、医学的にむちうちの症状を証明することができる場合には、後遺障害等級12級13号が認定されます。
この場合の後遺症慰謝料としては、以下の金額が相場となります。- 自賠責保険基準:94万円
- 裁判所基準:290万円
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(4)後遺障害等級3級3号(高次脳機能障害)の場合
高次脳機能障害とは、交通事故による脳外傷、脳血管障害などが原因となり、部分的に脳が損傷を受けることによって生じる障害です。
高次脳機能障害となった場合には、以下のような症状が生じえます。- 記憶障害
- 失認症
- 注意障害
- 遂行機能障害
- 言語障害
- 失行症
- 半側空間無視
- 社会行動障害
高次脳機能障害によって、食事、入浴、用便、着衣などの生命維持に必要となる行動をある程度1人でできるものの、神経や精神に重い障害が残り、生涯就労することができないと判断される場合には、後遺障害等級3級3号が認定されます。
この場合の後遺症慰謝料としては、以下の金額が相場となります。- 自賠責保険基準:861万円
- 裁判所基準:1990万円
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(5)死亡した場合
交通事故によって死亡した場合には、死亡慰謝料が支払われます。
たとえば40代女性(母親・配偶者)が交通事故によって死亡した場合の死亡慰謝料としては、以下の金額が相場となります。自賠責保険基準
死亡した本人の慰謝料として400万円
遺族(本人の父母、配偶者、子どもに限る)の慰謝料として、請求者1名の場合は550万円、請求者2名の場合は650万円、請求者3名以上の場合は750万円とし、被害者に被扶養者がいる場合には上記金額に200が加算されます(葬儀費や逸失利益などを合計した支払限度額は3000万円)。裁判所基準
2500万円
家族構成や事故の状況など具体的な状況によって増減されるべきとされており、これは死亡慰謝料のみの金額相場となります。
4、適切な慰謝料を受け取るためには弁護士に依頼を!
適切な慰謝料を受け取るためには、弁護士に依頼をすることをおすすめします。
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(1)裁判所基準(弁護士基準)での請求が可能
慰謝料の算定基準のうち、最も被害の実情に沿った基準は、裁判所基準です。被害者としては、当然、裁判所基準を使って慰謝料の請求をしたいと考えますが、被害者個人が保険会社と交渉をしても、裁判所基準で計算した慰謝料の支払いにはなかなか応じてくれません。
一方、弁護士が代理人として保険会社と交渉をすると、裁判所基準ないしそれに近い金額で示談ができることも多いです。そのため、裁判所基準による慰謝料の増額を希望する場合には、弁護士への依頼が不可欠となります。
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(2)保険会社との交渉を弁護士に任せ治療に専念できる
弁護士に交通事故の事案を依頼することによって、保険会社との交渉をすべて弁護士に任せることができます。被害者の方は、それによって治療に専念することができるだけでなく、保険会社とやり取りをしなければならないというストレスからも解放されます。
また、保険会社から賠償額の提示を受けたとしても、一般の方ではそれが適正な金額であるか判断することが困難です。不利な条件であったとしてもそれに気付かず提示された金額に了承して示談を成立させてしまうと、後悔することもあります。
そのため、保険会社との示談交渉については、専門家である弁護士に任せるのが安心といえるでしょう。
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(3)後遺障害等級認定のサポートが可能
後遺症が残存してしまった場合は、自賠責保険に対し後遺障害等級を認定してもらう手続きを行います。
交通事故の賠償では、後遺障害等級認定の手続において認定された等級に応じて、後遺症慰謝料、逸失利益を算定するという流れになります。したがって、適切な賠償額を得るためには、適切な等級認定を受けることが必要不可欠です。
依頼を受けた弁護士は、相手方保険会社との交渉だけでなく、治療段階から後遺障害等級認定の段階までにおいてもサポートすることが可能となります。相手方保険会社に後遺障害等級認定の手続を任せることもできますが、あなた自身の代理人として対応する弁護士のほうが、適切な等級認定を受けることができる可能性が高くなるといえるでしょう。
5、まとめ
交通事故の被害に遭ってしまった方は、同じような事故で慰謝料としていくらもらったのかが気になるところです。交通事故の慰謝料については、客観的な算定基準に基づく、一定の相場がありますので、金額の相場を理解しておけば不利な条件で示談をしてしまうリスクを回避することができるでしょう。
ただし、裁判所基準による慰謝料の増額は、弁護士でなければなかなか応じてもらうことはできません。少しでも実態に即した慰謝料を受け取れる方向で示談をしたいとお考えであれば、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、交通事故への対応について知見が豊富な弁護士と医療コーディネーターが連携し、あなたが受けてしまった被害回復に力を尽くします。弁護士特約にご加入であれば、自己負担金は0円で対応できるケースがほとんどです。まずはお気軽にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。