交通事故で腕を切断。今後の生活・賠償はどうなる? 弁護士が解説
失ってしまった腕を元に戻すことはできませんが、今後の生活への支障を少しでも軽減するためにも適切な賠償金の支払いを受けることが大切です。
今回は、交通事故で腕を切断した場合の賠償手続きの流れや支払われる賠償金などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、交通事故で腕を切断した後の治療・賠償の全体の流れ
交通事故で腕を切断した場合、以下のような流れで手続きが進みます。
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(1)病院での治療
交通事故で怪我をした場合には、まずは病院での治療を行います。腕を切断するような大怪我をした場合には、自分だけでは病院に行くことは困難ですので、すぐに救急車を呼んで病院に搬送してもらいましょう。
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(2)症状固定の診断
腕を切断するような大怪我だと、しばらくは病院での入院生活が続くことになります。また、病院を退院したとしても、定期的な通院も必要になるでしょう。
このような通院は、医師から症状固定(症状がこれ以上良くならない状態)と診断されるまで継続して行うことが大切です。自分の判断で治療を中断してしまうと、症状が悪化してしまったり、適切な賠償金の支払いを受けられないおそれもあります。 -
(3)後遺障害申請
腕を切断することになってしまうと、失った腕は元には戻りませんので、後遺障害申請が必要です。後遺障害申請をすると、腕を切断した部位や他の症状を踏まえて、後遺障害等級が認定されます。
どのような後遺障害等級が認定されるかによって、その後加害者に請求できる賠償額が大きく異なりますので、適切な後遺障害等級認定を受けましょう。 -
(4)保険会社と示談交渉
後遺障害等級認定を受けた段階で、加害者が加入している保険会社から賠償額の案内が書面で送られてきます。被害者は、保険会社から送られてきた書面の内容を検討して、示談に応じるかどうかを判断します。
提示された賠償額に納得できれば示談書に署名・押印をして示談成立となりますが、納得できないときは、示談交渉により賠償金の増額を求めていきます。 -
(5)訴訟
保険会社との示談交渉では、納得いく金額が提示されない場合は、損害賠償請求訴訟を提起します。訴訟では、当事者双方からの主張立証を踏まえて、裁判所が適正な賠償額を認定してくれます。
2、腕を切断した場合には、後遺障害等級認定を適切に受けることが大事
交通事故で腕を切断した場合には、適切な後遺障害等級認定を受けることが重要です。
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(1)後遺障害等級認定とはどのような制度なのか
後遺障害等級認定とは、交通事故で負った怪我が完治せずに何らかの後遺症が生じてしまったときに、後遺症の部位や程度に応じた後遺障害等級(1~14級)の認定を受けることができる手続きです。
後遺障害等級認定を受けることにより、治療費、休業損害、入通院慰謝料などの一般的な損害項目に加えて、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の請求が可能になります。
後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は、認定された等級に応じて金額が異なり、交通事故の賠償金の中でも大きな割合を占めるものになりますので、適切な後遺障害等級認定を受けることが重要です。 -
(2)後遺障害等級認定の手続きの流れ
後遺障害等級認定の手続きは、以下のような流れで進んでいきます。
① 治療・症状固定
交通事故で怪我をした場合には、医師から症状固定(症状がこれ以上良くならない状態)と診断されるまで、治療を続けます。
② 後遺障害診断書の取得
医師から症状固定と診断されたら、後遺障害診断書の作成を医師に依頼します。
後遺障害等級認定の手続きは、基本的には書面審査ですので、後遺障害診断書の記載内容がとても重要です。必要な項目が記載されているかどうかを、被害者自身でもしっかりとチェックしましょう。
③ 後遺障害等級認定の申請
後遺障害診断書などの必要書類の作成・収集ができた段階で、自賠責保険会社に後遺障害等級認定の申請を行います。
後遺障害等級認定の申請方法には、「被害者請求」と「事前認定」という2種類の方法があります。被害者請求は、被害者自身で後遺障害等級認定の申請を行う方法で、事前認定は、加害者側の保険会社に後遺障害等級認定の申請を任せる方法です。
提出する書類が同じであれば、どちらの方法でも結果は変わりませんが、適正な後遺障害等級認定を受けるには、被害者自身で書類の収集や提出を行うことができる、被害者請求の方法がおすすめです。
④ 後遺障害の等級認定
自賠責保険会社に提出された書類は、損害保険料率算出機構で審査され、その結果が自賠責保険会社に報告されます。自賠責保険会社では、損害保険料率算出機構での調査結果を踏まえ、どのくらいの等級にするか決定します。 -
(3)腕切断で認められる可能性がある後遺障害等級
交通事故で腕を切断した場合に認められる可能性がある後遺障害等級は以下の通りです。
① 1級3号|両上肢をひじ関節以上で失ったもの
交通事故により両上肢をひじ関節以上で失った場合、後遺障害等級1級3号と認定されます。
上肢をひじ関節以上で失ったものとは、以下のいずれかに該当する状態です。- 肩関節において、肩甲骨と上腕骨を離断したもの
- 肩関節とひじ関節との間において上肢を切断したもの
- ひじ関節において、上腕骨と橈骨および尺骨とを離断したもの
(引用:厚生労働省ホームページ障害等級認定基準の一部改正について)
② 2級3号|両上肢を手関節以上で失ったもの
交通事故により両上肢を手関節以上で失った場合、後遺障害等級2級3号と認定されます。
上肢を手関節以上で失ったものとは、以下のいずれかに該当する状態です。- ひじ関節と手関節の間において上肢を切断したもの
- 手関節において、橈骨および尺骨と手根骨とを離断したもの
(引用:厚生労働省ホームページ障害等級認定基準の一部改正について)
③ 4級4号|1上肢をひじ関節以上で失ったもの
交通事故により1上肢をひじ関節以上で失った場合、後遺障害等級4級4号と認定されます。「上肢をひじ関節以上で失った場合」の考え方は、上記と同様です。
④ 5級4号|1上肢を手関節以上で失ったもの
交通事故により1上肢を手関節以上で失った場合、後遺障害等級5級4号と認定されます。「上肢を手関節以上で失った場合」の考え方は、上記と同様です。
3、加害者には何を請求できる?
ここまで、腕を切断した場合の治療と賠償の流れ、後遺障害等級認定について解説してきました。
では、加害者に請求できる賠償金にはどのような項目があるのでしょうか。本章で詳しく解説します。
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(1)入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故により怪我をして、入通院を余儀なくされた精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。入通院慰謝料は、入通院期間や入通院実日数に基づいて、金額を計算するのが一般的です。
ご家族が付き添いをする場合には、付添看護費も認められることがあります。 -
(2)後遺障害慰謝料
後遺傷害慰謝料とは、後遺障害を起因とした精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて金額が決められますので、適正な後遺障害等級認定を受けることが大切です。
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(3)後遺障害逸失利益
後遺障害で労働能力が低下した場合、本来であれば得られるはずだった収入が得られなくなってしまいます。後遺障害逸失利益とは、この収入減少に対する賠償金です。
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で計算されます。基礎収入(事故前年度の年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
「労働能力喪失率」は、認定された後遺障害等級に応じて変わってきますので、後遺障害慰謝料と同様に、後遺障害逸失利益でも適正な後遺障害等級の認定を受けることが大変重要になってきます。
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(4)義手などの装具・器具等購入費
交通事故により腕を切断した場合には、義手の購入が必要ですが、この場合の装具・器具等購入費用についても、加害者に対して請求可能です。
義手などの装具は、身体の成長や耐用年数の関係で将来買い替えが必要になることもありますので、それも考慮して金額を算定する必要があります。 -
(5)家屋・車両改造費
交通事故で腕を切断した場合、日常生活にも大きな支障が生じます。日常生活上の困難を解消するために、家屋や車両を改造する必要があり、その費用が相当な範囲内であれば、加害者側に家屋・車両の改造費を請求することができます。
なお、ケースによっては、そのほかにも請求できる項目が発生する可能性があります。弁護士に依頼する場合には、その点も確認しましょう。
4、交通事故の賠償請求は弁護士に依頼するべき理由
治療賠償の流れや加害者に請求できるものについて、これまで解説してきましたが、これをすべてひとりで対応するのは、大変な負担となってしまうでしょう。弁護士に依頼すれば、この負担を軽減できます。
また、弁護士に依頼すると、そのほかにもメリットがあります。本章では弁護士依頼のメリットを解説します。
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(1)慰謝料を請求するときに一番高い基準で請求できる
慰謝料の算定基準は、以下の3つの基準があります。
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準(弁護士基準)
このうち、もっとも慰謝料額が高くなる基準は、裁判所基準です。
被害者としては、裁判所基準を用いて、保険会社との示談交渉を行いたいと考えると思いますが、裁判所基準を用いることができるのは、弁護士が代理人として示談交渉をした場合に限られます。そのため、慰謝料を増額したいという場合には、弁護士への依頼が不可欠です。 -
(2)弁護士は代理人となれるので、相手方との交渉を任せられる
交通事故の示談交渉は、被害者と加害者側保険会社との間で行われます。
しかし、たいていの方は交通事故の交渉など初めてで、保険会社から提示された賠償額が適正なものであるかどうか判断できず、不利な条件で示談に応じてしまうリスクがあります。
弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人となって保険会社との交渉を行うことができますので、そのような心配はありません。被害者自身で交渉をする必要もなくなりますので、精神的負担も大幅に軽減されるでしょう。 -
(3)後遺障害等級認定で適切な等級で認定されるようサポートできる
適正な後遺障害認定を受けるためには、加害者側の保険会社にすべて任せてしまう「事前認定」ではなく、「被害者請求」の方法で行うのがおすすめです。
しかし、被害者請求の方法だと被害者自身ですべての手続きを行わなければなりませんので、被害者にとって大きな負担となります。
弁護士に依頼すれば、このような面倒な手続きをすべて弁護士に任せることができますので、被害者請求の方法でも被害者自身の負担はほとんどありません。適切な後遺障害等級認定を受けるためにも、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
交通事故で腕を切断するほどの大怪我を負ってしまった場合には、まずは適切な治療を行うようにしましょう。
その後、症状固定と診断されたら後遺障害等認定の手続きが必要になります。
適切な後遺障害等級認定を受けるには、弁護士のサポートが必要になりますので、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。交通事故により腕を切断してしまったという方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。