保険会社は交通事故後にどう対応する? 慰謝料増額交渉のポイント

更新:2024年09月10日 公開:2016年12月02日
示談交渉
保険会社は交通事故後にどう対応する? 慰謝料増額交渉のポイント
日本損害保険協会の発表によると、令和3年度に自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)から支払われた保険金の合計は5900億円でした。

交通事故の保険金は、自賠責保険からのみならず、加害者が加入している任意保険会社からも支払われます。ただし、事故の被害者が治療などと同時並行で、自身の保険会社と相手方の保険会社の担当者とそれぞれ連絡・交渉していかなければなりません。

相手方の保険会社から、事故後連絡があるはずですが、想定したような対応をしてくれないこともあるでしょう。本コラムでは、交通事故で加害者側の保険会社が行う可能性がある対応と起こりうること、問題が起きたとき被害者側がとれる対応について、ベリーベスト法律事務所 交通事故専門チームの弁護士が解説します。
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1、予想される保険会社の対応

(1)専門用語を使ってくる

保険会社と示談交渉をするとなると、専門用語・法律用語が飛び交います。

交通事故の示談でよく出てくる専門用語としては、たとえば、「過失相殺」や「逸失利益」、「後遺障害」などです。これらの用語やその意味については、保険会社を含め、交通事故の問題に関わっている人ならば当然知っています。

しかし、被害者の方が日常生活でこれらの言葉を使うことはほとんどありません。ところが、示談交渉になると、これらの用語はもちろん、他にも専門用語・法律用語がたくさん出てきます。

もし保険会社がそのような対応をしてきたり、威圧的な態度をとってきたりしても、決して担当者に対して感情的にはならないでください。確かに、気分は良くないですし、怒りを担当者に向けたい気持ちはお察ししますが、担当者との関係が悪化したところで、今後の示談交渉に有利に働くことはありません。

あくまで被害者の本来の目的は、適切な示談金を受け取って問題を解決することだからです。

(2)一定期間が経過すると治療費の支払いを打ち切られる

交通事故によって怪我を負い、通院をしていると、当初は相手方の保険会社が治療費を支払ってくれていても、一定期間がたつと、保険会社から「そろそろ症状固定して示談交渉を開始したい」と言われることがあります。むちうちの場合には通院治療期間が約3か月以上、骨折の場合だと通院期間が約6か月以上でそのように言われることがあります。

では、なぜ保険会社はそのようなことを言うのでしょうか。

それは、自賠責保険から支払われる治療費の金額に限度があるためです。
通常、加害者は自賠責保険に加入していますが、自賠責保険からは、傷害部分については120万円までしか保険金が支払われません。そして、120万円を超える部分については保険会社が支払うことになるので、保険会社としては、それを超えないように治療費を抑えたいのです。

そこで、治療期間が長引いてくると、保険会社は、被害者に対して治療の打ち切りを求めてきます。今後も治療が必要と考えられる場合であっても、一方的に打ち切られてしまうこともあります。

(3)休業損害を払い渋る

相手方の保険会社と示談交渉する際、休業損害もよく問題になります。

休業損害とは、交通事故が原因で仕事ができなくなったために、本来ならば得られていた収入分の損害のことです。
専業主婦や兼業主婦、専業主夫等の家事従事者の場合、1日あたり1万円程度の休業損害が認められることが多いのですが、保険会社は、主婦は実収入がないことを理由として、休業損害を支払わないと言ってくることがあります。

また、専業主婦以外の場合でも、休業日数を限定的にしか認めないなどの対応をしてくる場合もあります。

(4)逸失利益を減額してくる

交通事故のケースの中でも治療を続けていたにもかかわらず、後遺障害が残った場合には、逸失利益を請求することができます。

逸失利益とは、後遺障害が残らなければ得られたはずの利益のことです。
後遺障害が残ってしまい労働能力の一部または全部が失われると、それまでのようには働けなくなるのですが、たとえば骨折によって鎖骨等に変形が生じている場合や、醜状痕(傷跡)が残っている場合などでは、実際に労働力が失われているとはいえない、などと主張されることがあります。

このような場合には保険会社は「実際には労働能力が失われていないので、逸失利益は発生しておらず、支払いはできない」と言ってくることがあります。

(5)被害者の過失割合を大きく主張してくる

交通事故で相手方保険会社と示談交渉をしていると、当事者双方の過失割合も大きな争点になります。

過失割合とは、事故の当事者(加害者・被害者を問いません)のいずれにどの程度の責任(過失)があるのかという問題のことです。
相手方に損害賠償請求をしようとしても、請求する側に過失があると、その過失の分だけもらえる賠償金の金額は減ってしまいます。

ところが、被害者が法律に詳しくなければ、この過失相殺の点について知らないこともあるでしょう。そうすると、保険会社は、被害者の無知につけ込んで、通常の過失割合の判断基準よりも大幅に被害者に不利な過失割合を主張してきたりします。

被害者に法的な知識がなければ、場合によっては保険会社が提示した不利な条件をそのまま受け入れてしまうことになるでしょう。

(6)任意保険基準で計算する

交通事故の慰謝料を算定するにあたっては、3つの基準があります。それぞれ自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準と呼ばれています。

裁判所基準がこの中では一番高い金額での計算方法になります。

任意保険会社が慰謝料などの計算をする場合には、任意保険会社の計算基準で計算することが通常です。任意保険基準は、各任意保険会社によってまちまちですが、裁判所基準より大幅に少ない額であることがほとんどです。

被害者がこのような3つの計算基準のことを知らない場合には、任意保険基準での損害賠償金額の計算結果に何の疑問も持たずに受け入れることになってしまいます。

2、相手方保険会社と交渉するとき念頭に置いておくべきこと

(1)保険会社はあくまで相手(加害者)の代理人!

交通事故の被害者がやり取りをすることになる相手方の保険会社は、事故の相手、つまり加害者の代理人です。ですので、基本的に被害者にとって有利に話を進めてくることはありません。

したがって、相手方の保険会社はあくまで加害者の代理人であって、被害者の肩を持ってはくれないことを意識してください。

(2)保険会社はあくまで営利目的の組織!

相手方保険会社は、営利目的の組織ですので、基本的には自分が得をするか損をするかという観点から行動します。もちろん、こちらに対して同情的になってくれることもありますが、それは真に同情心からというよりは、被害者を納得させて、示談を早く済ませたいという意図からのこともあります。

もしこちらが感情的になって示談ができないと保険会社に判断されると、保険会社も弁護士を立ててしまうこともありえます。

(3)感情的にならないよう冷静に対応する

相手方の保険会社と対応するとき、どうしても保険会社を敵視して感情的になってしまうかもしれませんが、そのようにならないようにしましょう。
こちらが感情的になると、保険会社も不快に感じて関係が悪くなってしまいます。

関係が悪くなってしまってもいいことはありません。保険会社に対しては冷静に対応するようにしましょう。

3、あなたが損をしない保険会社への対処方法

(1)交通事故の知識を得る

被害者が自分で保険会社と示談交渉をする場合、こちらが素人だと知識がないことから、不利な条件を押しつけられたりします。

たとえば、休業損害を少なく計算されたり、逸失利益を不当に減額されたり、通常の判断基準よりも被害者に不利な過失割合を主張されたりといったことです。しかし、こうした内容を相手方から告げられたところで、自分に知識がないのであれば、相手方保険会社の主張が正当なのか不当なのかを判断できかねてしまいます。

正確な知識は赤い本や青い本などの専門書などを読まないと理解が難しいでしょうが、法律に詳しくない方向けの本やサイトなどもあるので、利用してみてはいかがでしょうか。

(2)やり取りの記録を残す

相手方保険会社と示談交渉をする際には、示談交渉のやり取りの記録を残しておきましょう。示談交渉がこじれて揉めた場合などには、それまでどのような経過で話し合いが進んできて、相手方がどのような主張をしてきたかなどを確認するためです。

最終的に示談に応じるか判断する際にも、これまでのやり取りの経過を見直すと、相手方からの提示内容に納得しても良いのかどうかを判断する助けになります。

(3)納得できない示談には合意しない

示談交渉によってなるべく多くの賠償金を受け取りたいならば、納得できない示談には合意しないことです。被害者本人で示談交渉をしていると、保険会社が提示している示談金額が妥当なのか判断することは困難です。

しかし、示談金が正当なのかわからずに示談に応じてしまうと、実際に請求できる金額を知らないまま示談してしまうことになりかねません。

(4)弁護士に示談交渉を依頼する

示談交渉を進める際、相手方保険会社は「任意保険基準」をもとに慰謝料を提示してきますが、この任意保険基準で計算すると裁判所基準よりも損害賠償の金額が大幅に下がってしまいます。
慰謝料等を裁判所基準額で請求していくためには、示談交渉を弁護士に依頼する必要があります。

その他にも、早い段階から弁護士に依頼すれば、後遺障害等級認定手続きも適切に行ってくれますし、休業損害や逸失利益、過失割合などの問題についても、被害者に有利になるように上手に進めてくれるでしょう。

このように、弁護士に示談交渉を依頼すれば、最も手っ取り早く、そして確実に相手方へ増額交渉が可能です。

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4、保険会社の対応に納得できない場合の相談先一覧

(1)相手方保険会社の苦情相談窓口

まず、保険会社の対応に不満があるようでしたら、各保険会社には苦情相談窓口(名称は、カスタマーセンターやお客さま相談室、お客さま相談窓口などさまざまあります。)に直接電話をして、担当者の態度がどのように悪いのかを具体的に伝えるようにしましょう。

ただ、保険会社の対応が悪いといっても、それは担当者の態度が悪いといったレベルの話であって、たとえば、損害賠償金の金額が低いといった場合には苦情になりません。
損害賠償金の問題はあくまで示談交渉のレベルの話になりますので、苦情の対象にはならないのです。この点にはご注意ください。

(2)日本損害保険協会(SONPO)

日本損害保険協会の「そんぽADRセンター」でも、保険会社の苦情についての相談に乗ってくれます。
そんぽADRセンターは、日本損害保険協会の相談窓口になります。センターに所属する専門の相談員が、損害保険や交通事故の相談に乗ってくれます。

また、保険会社とのトラブルがなかなか解決しない場合には、苦情を受け付けてくれたり保険会社との間の紛争解決の支援をしてくれたりします。
具体的には、苦情相談を受けた段階で、保険会社へ苦情を受けた旨とその内容を通知して対応を求めることで、トラブル解決を促進してくれます。

(3)交通事故対応の知見が豊富な弁護士

相手方保険会社との交渉を弁護士に依頼しましょう。
弁護士へ依頼することで、ご自身が保険会社と直接対応する必要がなくなり、話し合い等のストレスから開放されます。

保険会社の対応に納得できないときの対処法として弁護士に依頼することもひとつの手段として検討してみてはいかがでしょうか。

5、まとめ

事故後、相手方の保険会社から連絡が来て、治療費を支払うなどの話を聞くと、安心するかもしれません。しかし、場合によっては、専門用語が多すぎてご自身の状況をどう伝えればよいのかわからなかったり、治療中であるにもかかわらず治療費を打ち切られてしまったりすることもあるでしょう。

お金の話をすることはなかなか難しく、相手が専門的であればあるほど躊躇してしまいがちです。しかし、適切な慰謝料や損害賠償金を受け取れなければ、大切なあなたの体や今後の生活に大きな影響を及ぼしかねません。少しでも疑問を持ったら、相手方保険会社の提案に合意せず、その提案が本当に自身の状況にとって適切なのか、交通事故対応についての知見が豊富な弁護士などへ相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所では、交通事故対応についての知見が豊富な弁護士を中心とした交通事故専門チームに所属する弁護士が、あなたが治療に専念できるようサポートするとともに、適切な損害賠償金を受け取れるよう力を尽くします。まずはお気軽にご相談ください。

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この記事の監修者
外口 孝久
外口 孝久
プロフィール
外口 孝久
プロフィール
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
所属 : 第一東京弁護士会
弁護士会登録番号 : 49321

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。

この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。

この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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