10対0事故でむちうちになったら? 示談金・慰謝料相場を弁護士が解説

むちうちのように比較的軽症であっても、数十万円から数百万円以上の損害賠償を請求できる可能性があります。適正額の損害賠償を得るためには、弁護士にご相談ください。
本記事では、過失割合10対0の交通事故の示談金相場について、むちうちになったケースを中心にベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、過失割合10対0の交通事故における示談金の3つの基準
交通事故の示談金とは、加害者側と被害者側の間の合意に基づき、損害賠償に代えて支払われる金銭です。後述するように、示談金には治療費・慰謝料・逸失利益などさまざまな損害への補償が含まれます。
交通事故の損害賠償額は、一定の基準をもとに算定されます。基準は3つあり、それぞれ「自賠責保険基準」「任意保険基準」「裁判所基準(弁護士基準)」です。過失割合10対0の交通事故の示談金額も、これら3つの基準によって計算した損害額を踏まえて決定されます。各基準について、詳しく解説しましょう。
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(1)自賠責保険基準
自賠責保険基準は、自賠責保険から支払われる保険金の額を計算するために用いられます。
自賠責保険は、自動車を運転する人に加入が義務付けられている強制保険です。交通事故で人身損害を負った被害者に、最低限の補償を提供することを目的としています。
自賠責保険から支払われる保険金額は、あくまでも最低限の補償に過ぎません。そのため、自賠責保険基準による金額は、3つの基準でもっとも低く設定されています。
なお、自賠責保険による補償の対象は、人身事故のみです。被害者にけががない物損事故については、自賠責保険の保険金を請求することができません。 -
(2)任意保険基準
任意保険基準は、加害者側の任意保険会社が独自に定めている損害額の算定基準です。
任意保険基準によって計算される保険金額は、自賠責保険基準よりは幾分高いものの、以下の裁判所基準(弁護士基準)と比較すると通常低額となります。 -
(3)裁判所基準(弁護士基準)
裁判所基準(弁護士基準)は、過去の裁判例などに基づき、弁護士が交通事故の民事訴訟において用いる損害額の算定基準です。
裁判所基準による損害額が、3つの基準の中でもっとも高く、被害者にとって有利です。しかし、弁護士に依頼せずに被害者本人が相手方保険会社と直接交渉した場合に、裁判所基準による示談金が提示されることは基本的にありません。
一方で、弁護士に示談交渉などを依頼すると、裁判所基準に基づいた損害額の計算を行って、示談金の請求を行うため、裁判所基準による損害賠償を受けられる可能性が高まります。納得ができる金額を受け取るためにも、示談金の請求は弁護士に依頼しましょう。
2、10対0の交通事故でむちうちになった場合の示談金相場
交通事故を原因とするむちうちは、完治する場合もありますが、後遺障害が残ってしまうこともあります。後遺障害が残り後遺障害等級が認定されると、認められる損害賠償は高額となる傾向にあります。
まずは、むちうちの後遺障害が残らなかった場合に、どの程度の示談金(損害賠償)を請求できるのか目安を紹介しましょう。
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(1)示談金に含まれる損害の項目
後遺障害がない場合の交通事故の示談金には、治療費などの損害賠償が含まれます。自賠責保険基準、裁判所基準における各種損害に対する補償額は、以下のとおりです。なお、任意保険基準の補償額は非公開となっています。
損害の項目 自賠責保険基準による額 裁判所基準による額 治療費 必要かつ妥当な額 実費 通院交通費 必要かつ妥当な額 実費 装具・器具購入費 必要かつ妥当な額 実費 付添費用 入院時:日額4200円
通院時:日額2100円入院時:日額6500円
通院時:日額3300円入院雑費 日額1100円 日額1500円 休業損害 原則として日額6100円
※超過することを証明した場合は、最大で日額1万9000円原則として実際の減収額 入通院慰謝料 以下のうち少ない日数に応じて、日額4300円
- 入院日数+通院期間の日数
- 入院日数+実通院日数を合わせた日数の2倍
入院・通院の期間に応じて、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」に定められた別表を用いて計算
例:むちうちなどの軽症で、入院せず通院期間が1~6か月の場合
→19万円~89万円物的損害 対象外 実際の損害額 - ※自賠責保険による傷害補償の上限は、総額120万円まで
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(2)自賠責保険基準による示談金額(後遺障害なし)の目安
自賠責保険基準をもとに、各種損害が支払われた場合の例を挙げましょう。
【設例1】
交通事故によってむちうちになり、後遺症は残らなかったが、以下の損害が生じた場合
- 治療費として5万円の自己負担が発生した。
- 通院交通費として2万円を要した。
- 通院のために10日間仕事を休み、計20万円分収入が減少した。
- 3か月間にわたり通院し、精神的損害を被った(実際の通院日数は12日だった)。
- 交通事故によって車が破損し、50万円の修理費が発生した。
自賠責保険基準によれば、設例1の被害者に対して支払われる自賠責保険の保険金額は、以下のとおりです。
- 治療費:5万円
- 通院交通費:2万円
- 休業損害:19万円
- 入通院慰謝料:10万3200円(1日4300円×12日×2)
合計:36万3200円
※車の修理費は補償されない -
(3)裁判所基準による示談金額(後遺障害なし)の目安
裁判所基準によって設例1の示談金額(損害賠償額)を計算すると、以下のようになります。
- 治療費:5万円
- 通院交通費:2万円
- 休業損害:20万円
- 入通院慰謝料:53万円
- 修理費:50万円
合計:130万円
※うち、人身損害については80万円人身損害のみで比較した場合、自賠責保険基準による金額は36万3200円にとどまるのに対して、裁判所基準による金額は80万円と高額になります。
また、自賠責保険では対象の範囲外となる、車の修理費50万円の賠償も請求できるため、トータルの示談金額は130万円とさらに高額です。
3、むちうちで後遺障害が残った場合の示談金相場
交通事故によるむちうちで長期間(目安として6か月以上)の通院を続けたにもかかわらず、症状が完治しない場合、後遺障害が残ったとして後遺障害の認定を受けることがあります。ここからは、むちうちの後遺障害が残った場合に受け取れる示談金について解説します。
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(1)むちうちの後遺障害について認定され得る後遺障害等級
むちうちによる後遺障害が残った場合は、症状の重さによって、以下の後遺障害認定等級を受ける可能性があるでしょう。
後遺障害等級 認定の目安 12級13号 レントゲン・MRI・CTなどの画像検査によって、痛みやしびれなどの原因が客観的な記録から明らかとなっている場合 14級9号 12級13号には該当しないものの、痛みやしびれが交通事故によって発生したと医学的に説明できる場合 後遺障害等級の認定は、加害者側の任意保険会社に任せる「事前認定」か、または被害者自ら申請を行う「被害者請求」によって申請します。
被害者自身が納得できる形で後遺障害等級認定の申請を行うには、資料を準備する手間はかかりますが被害者請求を選択しましょう。適切な認定を受けるために、事案ごとに必要な書類を加えて申請を行うことができます。なお、弁護士に依頼すれば、被害者請求にかかる資料を準備する手間を大幅に軽減できます。 -
(2)後遺障害がある場合に賠償請求できる損害の項目
後遺障害が残ると、後遺障害がない場合に請求できる各種損害に加えて、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できます。逸失利益とは、事故がなければ本来得られるはずだった収入などを補填する利益のことです。
逸失利益及び後遺障害慰謝料の具体的な内容は以下のとおりです。損害の項目 自賠責保険基準による額 裁判所基準による額 後遺障害慰謝料 下表のとおり 下表のとおり 逸失利益 年間収入額又は年相当額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 - ※自賠責保険による後遺障害補償の上限は、後遺障害等級に応じて4000万円(要介護1級)~75万円(14級)
【後遺障害慰謝料の額】後遺障害等級 自賠責保険基準 裁判所基準 1級(要介護) 1650万円 2800万円 2級(要介護) 1203万円 2370万円 1級 1150万円 2800万円 2級 998万円 2370万円 3級 861万円 1990万円 4級 737万円 1670万円 5級 618万円 1400万円 6級 512万円 1180万円 7級 419万円 1000万円 8級 331万円 830万円 9級 249万円 690万円 10級 190万円 550万円 11級 136万円 420万円 12級 94万円 290万円 13級 57万円 180万円 14級 32万円 110万円 - ※自賠責保険基準の場合、1~3級に該当した被害者に扶養する家族がいると増額されます。
【労働能力喪失率】後遺障害等級 労働能力喪失率の目安 1級(要介護を含む) 100% 2級(要介護を含む) 100% 3級 100% 4級 92% 5級 79% 6級 67% 7級 56% 8級 45% 9級 33% 10級 27% 11級 20% 12級 14% 13級 9% 14級 5%
労働能力喪失率とは、交通事故により後遺障害が残ったことが原因で、被害者の将来の労働能力がどのくらい低下したか、割合で示したものをいいます。
また、ライプニッツ係数は、逸失利益から中間利息を差し引くための数値です。
本来であれば被害者は、事故がなければ毎月の給料日で収入を得ていたことになります。他方、逸失利益は一括で支払われることがほとんどです。
将来得るべき収入を一括で受けるとなると、本来より早いタイミングでまとまった金額が手に入るため、お金を運用して利益を得られる可能性が生じます。
損害の公平な分担という考え方では、事故により被害者に不要な利益が発生する状態は望ましくないとされます。このような事情から、被害者が不要な利益を得ることを防ぐために、中間利息を差し引くライプニッツ係数を利用して逸失利益を計算するのです。 -
(3)自賠責保険基準による示談金額(後遺障害あり)の目安
後遺障害が残り、自賠責保険基準をもとに示談を進めた場合の例を挙げましょう。
【設例2】
交通事故によってむちうちになり、後遺障害を含む以下の損害が生じた場合
- 治療費として15万円の自己負担が発生した。
- 通院交通費として3万円を要した。
- 通院のために15日間仕事を休み、計30万円分収入が減少した。
- 6か月間にわたり通院し、精神的損害を被った(実際の通院日数は24日だった)。
- 後遺障害として痛みが残り、後遺障害14級9号の認定を受けた(1年あたりの基礎収入は500万円、労働能力喪失期間は5年)。
- 交通事故によって車が破損し、50万円の修理費が発生した。
自賠責保険基準によれば、設例2の被害者に対して支払われる自賠責保険の保険金額は、以下のとおりです。
- 治療費:15万円
- 通院交通費:3万円
- 休業損害:28万5000円
- 入通院慰謝料:20万6400円
- 後遺障害慰謝料:32万円
- 逸失利益:114万5000円
合計:213万6400円
※車の修理費は補償されない -
(4)裁判所基準による示談金額(後遺障害あり)の目安
裁判所基準によって設例2の示談金額(損害賠償額)を計算すると、以下のようになります。
- 治療費:15万円
- 通院交通費:3万円
- 休業損害:30万円
- 入通院慰謝料:89万円
- 後遺障害慰謝料:110万円
- 逸失利益:114万5000円
- 物的損害:50万円
合計:411万5000円
※うち、人身損害については361万5000円人身損害のみで比較した場合、自賠責保険基準による金額は213万6400円であるのに対して、裁判所基準による金額は361万5000円と高額です。
また、自賠責保険では対象の範囲外となる、修理費50万円の賠償も請求できるため、トータルの示談金額は411万5000円とさらに高額になります。
4、交通事故の被害に遭ったら、弁護士に相談を
被害者に有利な裁判所基準で示談金を請求し、適正な損害賠償の金額を得るためには、弁護士に依頼したうえで、弁護士が法的な根拠に基づいて請求を行う必要があります。
特に過失割合10対0の交通事故においては、自分が加入している保険の示談交渉代行サービスを利用することができません。自分で示談交渉を行うには、多くの時間と労力を費やすことになるため、弁護士への相談を強くおすすめします。
弁護士への依頼には、原則として費用がかかりますが、自動車保険などに付帯されている弁護士費用特約を利用すれば、自己負担を大幅に抑えることが可能です。
納得できる損害賠償を得るためには、事故後なるべく早く弁護士に相談することが大切です。
5、まとめ
過失割合10対0の交通事故でむちうちになると、被害者は治療費などの損害賠償を受けることができます。特に後遺障害等級認定を受けた場合は、損害賠償が高額になる可能性があるため、弁護士のサポートを受けながら、適正額の損害賠償を請求しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、交通事故被害者のご相談を随時受け付けております。交通事故によってむちうちになり、加害者側に対して納得できる損害賠償を請求したい方は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。