手・腕(手指)の後遺障害
目次
1、手指の後遺障害とは
以下では、手指に後遺障害が生じる可能性のある主な傷病例と日常生活や仕事に及ぼす影響について説明します。
(1)交通事故で手指に生じる主な傷病例
交通事故で手指に生じる主な傷病としては、以下のようなものがあります。
- 手指の骨折
- 手指の脱臼
- 手指の切断
- 屈筋健や伸筋腱の断裂
- 神経損傷
(2)手指の構造と可動域制限などの症状
手指の構造は5本の指すべてに中手骨(手のひら部分にある骨)が1本あり、さらに、以下のような骨があります。
- 母指(親指)には指骨が2本(それぞれ掌から見て順に基節骨・末節骨)
- 母指(親指)を除いた4本の指には指骨が各3本(それぞれ手のひらから見て順に基節骨・中節骨・末節骨)
指骨は、指の付け根の関節から指先までの関節数で考えましょう。
母指(親指)の場合、母指(親指)の付け根の関節以外だと、指先までの関節は1つです。付け根の関節を除くと、関節で区切られている部分は指先までで2か所あることになります。この区切られている部分が指骨ですので、母指(親指)の指骨は2本ということになります。
なお、関節についてもそれぞれ名称があります。
母指(親指)の場合
- 基節骨と中手骨との間に一つ(中指節関節=MP)
- 2本の指骨である基節骨と末節骨間に一つ(指節間関節=IP)
母指(親指)を除いた4本の指の場合
- 基節骨と中手骨との間に一つ(中手指節関節=MP)
- 基節骨と中節骨の間に一つ(近位指節間関節=PIP)
- 中節骨と末節骨との間に一つ(遠位指節間関節=DIP)
手指を骨折し、MP関節・PIP関節・DIP関節・IP関節などの関節内にまで及ぶと、痛みや可動域制限が生じる可能性があります。また、指節骨の骨幹部で骨折すると、骨折部において腱が癒着し、隣接する関節の可動域制限を併発する可能性もあります。
さらに、手指を動かす筋肉を支配する神経が傷つくと、手指のしびれや麻痺などの症状があらわれることもあるようです。
(3)手指の後遺障害が日常生活や職業に与える影響
手指は、物を掴む、握る、押す、叩く、引っかける、触るなどの動作を行う重要な部位になります。交通事故により、手指を切断すれば、そのような動作に著しい支障が生じてしまいますので、事故前のような日常生活を送るのが困難になります。
また、切断にまで至らなかったとしてもしびれや可動域の制限などが生じれば、同様に日常生活への支障は避けられません。
物を持つ、パソコン操作をするなどの基本的な動作は、仕事をする上でも不可欠なものになりますので、事故前と同様に働くことができなくなる可能性もあります。
2、手指の後遺障害等級の認定基準
手指の怪我で後遺症が生じた場合、どのような後遺障害等級が認定されるのでしょうか。以下では、手指の怪我で認定される可能性のある後遺障害等級とその手続きについて説明します。
(1)手指の欠損障害と機能障害の違い
手指の後遺障害には、欠損障害と機能障害の2つがあります。
欠損障害とは、身体の一部が失われてしまった状態をいいます。手指の欠損障害では、失われた手指の本数や範囲に応じて後遺障害等級が決められます。
機能障害とは、身体の可動域が制限されたり、動かくなってしまった状態をいいます。手指の機能障害では、怪我をしなかった側と怪我をした側の可動域を比較して後遺障害等級が決められます。
(2)各等級の具体的な認定基準と該当する症状
手指の後遺障害には、以下のようなものがあります。
【欠損障害】
等級 | 認定基準 |
---|---|
3級5号 | 両手の手指の全部を失ったもの |
6級8号 | 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの |
7級6号 | 1手の親指を含み3の手指を失ったもの又は親指以外の4の手指を失ったもの |
8級3号 | 1手の親指を含み2の手指を失ったもの又は親指以外の3の手指を失ったもの |
9級12号 | 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの |
11級8号 | 1手の人差し指、中指又は薬指を失ったもの |
12級9号 | 1手の小指を失ったもの |
13級7号 | 1手の親指の指骨の一部を失ったもの |
14級6号 | 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
「手指の用を廃した」とは、以下のいずれかの状態をいいます。
- 手指を中手骨または基節骨で切断したもの
- 近位指節間関節(母指の場合は指節間関節)で、基節骨と中節骨とを離断したもの/2以下に制限されているもの
「手指の一部を失ったもの」とは、1指骨の一部を失っていることが確認できるものをいいます。
【機能障害】
等級 | 認定基準 |
---|---|
4級6号 | 両手の手指の全部の用を廃したもの |
7級7号 | 1手の5の手指又は親指を含み4の手指の用を廃したもの |
8級4号 | 1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの又は親指以外の4の手指の用を廃したもの |
9級13号 | 1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの又は親指以外の3の手指の用を廃したもの |
10級7号 | 1手の親指又は親指以外の2の手指の用を廃したもの |
12級10号 | 1手の人差し指、中指又は薬指の用を廃したもの |
13級6号 | 1手の小指の用を廃したもの |
14級7号 | 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
「手指の用を廃した」とは、以下のいずれかの状態をいいます。
- 手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
- 中手指節間関節または近位指節間関節(母指の場合は指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
- 母指については、橈側外転または掌側外転のいずれかが健側の1/2以下に制限されているも
- 手指の末節の指腹部および側部の深部感覚および表在感覚が完全に脱失したもの
「手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなった」とは、以下のいずれかの状態をいいます。
- 遠位指節間関節が強直したもの
- 屈伸筋の損傷等の原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないものまたはこれに近い状態にあるもの
(3)後遺障害等級認定の手続きと必要な書類
医師から症状固定と診断されたら、後遺障害診断書の作成を依頼して、後遺障害等級の手続きを行います。
後遺障害等級認定には、事前認定と被害者請求という2つの方法があります。
事前認定とは、加害者の任意保険会社に書類の収集・作成などのすべての手続きを任せる方法で、被害者請求は、被害者自身で書類の収集・作成などを行う方法です。事前認定であれば被害者の負担はほとんどありませんが、有利な医証などの提出ができません。適切な後遺障害等級を獲得するためにも、被害者請求で認定申請を行うことをおすすめします。
被害者請求では、以下のような書類を収集・作成し、加害者が加入する自賠責保険会社に提出しましょう。
- 後遺障害診断書
- 支払請求書
- 交通事故証明書
- 交通事故状況報告書
- 診断書
- 診療報酬明細書
- 休業損害証明書
- 通院交通費明細書
- レントゲン写真などの検査結果
- 印鑑証明書
3、手指の後遺障害に対する慰謝料の相場
手指の怪我で後遺障害等級が認定されれば、後遺障害慰謝料を請求することが可能です。以下では、手指の後遺障害に対する慰謝料の相場とその他の補償項目について説明します。
(1)後遺障害等級ごとの慰謝料の目安
後遺障害慰謝料には、自賠責保険基準・任意保険基準・裁判所基準(弁護士基準)という3つの基準があります。任意保険基準は、一般には公表されていませんので、以下では、自賠責保険基準と裁判所基準による手指の後遺障害慰謝料の目安を紹介します。
【欠損障害】
等級 | 認定基準 | 後遺障害慰謝料 | |
---|---|---|---|
自賠責保険基準 | 裁判所基準 | ||
3級5号 | 両手の手指の全部を失ったもの | 861万円 | 1990万円 |
6級8号 | 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの | 512万円 | 1180万円 |
7級6号 | 1手の親指を含み3の手指を失ったもの又は親指以外の4の手指を失ったもの | 419万円 | 1000万円 |
8級3号 | 1手の親指を含み2の手指を失ったもの又は親指以外の3の手指を失ったもの | 331万円 | 830万円 |
9級12号 | 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの | 249万円 | 550万円 |
12級10号 | 1手の人差し指、中指又は薬指の用を廃したもの | 93万円 | 690万円 |
11級8号 | 1手の人差し指、中指又は薬指を失ったもの | 136万円 | 420万円 |
12級9号 | 1手の小指を失ったもの | 94万円 | 290万円 |
13級7号 | 1手の親指の指骨の一部を失ったもの | 57万円 | 180万円 |
14級6号 | 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの | 32万円 | 110万円 |
【機能障害】
等級 | 認定基準 | 後遺障害慰謝料 | |
---|---|---|---|
自賠責保険基準 | 裁判所基準 | ||
4級6号 | 両手の手指の全部の用を廃したもの | 737万円 | 1670万円 |
7級7号 | 1手の5の手指又は親指を含み4の手指の用を廃したもの | 419万円 | 1180万円 |
8級4号 | 1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの又は親指以外の4の手指の用を廃したもの | 331万円 | 830万円 |
9級13号 | 1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの又は親指以外の3の手指の用を廃したもの | 249万円 | 690万円 |
10級7号 | 1手の親指又は親指以外の2の手指の用を廃したもの | 190万円 | 550万円 |
12級10号 | 1手の人差し指、中指又は薬指の用を廃したもの | 94万円 | 290万円 |
13級6号 | 1手の小指の用を廃したもの | 57万円 | 180万円 |
14級7号 | 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの | 32万円 | 110万円 |
(2)逸失利益や将来介護費用などの補償項目
手指の怪我で後遺障害等級が認定された場合、後遺障害慰謝料以外にも以下のような損害を請求することができます。
①逸失利益
逸失利益とは、後遺障害により労働能力が失われたことで将来の収入が減ってしまうことへの補償です。手指の後遺障害は、その程度よっては事故前までの仕事に就くことができず、退職や配置転換により減収が予想されます。
このような将来の減収分については、逸失利益として、相手に請求することが可能です。逸失利益は、以下のような計算式により計算します。
逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
- 基礎収入 ・・・・・・ 事故前の年収が原則。学生や主婦は賃金センサスの平均賃金により計算
- 労働能力喪失率 ・・・・・・ 後遺障害により失われた労働能力を数値化したもの。後遺障害等級に応じて決められている
- 労働能力喪失期間 ・・・・・・ 原則として症状固定時から67歳までの期間が基準
- ライプニッツ係数 ・・・・・・ 中間利息控除をするための係数
②将来介護費
手指の後遺障害には、両手の手指の全部を失ったものや両手の手指の全部の用を廃したものなど重篤な症状も存在します。このような状態になると一人では日常生活を送るのが困難になりますので、具体的な状況によっては介護が必要になることがあります。 介護が必要なケースでは、将来の介護に要する費用として、将来介護費を請求できる可能性があります。
(3)慰謝料算定に影響を与える要因
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じた目安が存在しますが、必ずその金額でなければならないわけではありません。
後遺障害により被る精神的苦痛は、被害者によってさまざまですので、被害者の年齢、職業、生活への影響を具体的に主張・立証することで、相場を上回る慰謝料を請求できる可能性もあります。
4、適切な後遺障害等級を得るためのポイント
適切な後遺障害等級を得るためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
(1)症状固定までの治療とリハビリの重要性
適切な後遺障害等級を得るには、症状固定まで適切な頻度で通院・治療を行うことが重要です。途中で通院をやめたり、通院頻度が少なすぎると何らかの症状が残っていたとしても、後遺障害として認められない可能性があります。
また、症状固定後であってもリハビリは続けるようにしてください。なぜなら、後遺障害等級認定で非該当になった場合、異議申し立てをすることができますが、その際に、リハビリをしていることを新たな医証として提出することで認定が覆る可能性があるからです。
(2)医師による後遺障害診断書の作成ポイント
後遺障害等級認定の手続きは、基本的には書面審査になりますので、「後遺障害診断書」の内容が特に重要になります。
後遺障害診断書は、医師に記載をお願いすることになりますが、医師は後遺障害等級認定の手続きを熟知しているわけではありません。記載内容に不備や不足があることもあります。そのため、後遺障害診断書の内容は、被害者自身でもしっかりとチェックし、不明点がある場合には、 後遺障害等級認定に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
5、弁護士に依頼するメリット
以下のようなメリットがありますので、手指に後遺障害が生じたときは、弁護士に依頼することをおすすめします。
(1)適切な後遺障害等級認定が受けられる
後遺障害等級認定を受けることで、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することができます。これらの損害項目は、認定された後遺障害等級に応じて金額が左右されますので、適切な後遺障害等級認定を受けることが重要です。
弁護士に依頼すれば、治療段階からアドバイスやサポートが受けられますので、適切な後遺障害等級認定を受けられる可能性が高くなります。また、被害者請求により後遺障害等級申請をする場合でも、弁護士が手続きを行いますので被害者に負担が生じることはありません。
(2)慰謝料を増額できる可能性がある
慰謝料の算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)という3つの基準があります。
慰謝料の金額は、どの算定基準を用いるかによって大きく変わり、一般的には裁判所基準がもっとも高く、自賠責保険基準がもっとも低い金額になるといわれています。 保険会社から提示される慰謝料の金額は、自賠責保険基準とほぼ同水準ですので、裁判所基準による慰謝料とでは大きな開きがあります。
弁護士に依頼すれば、保険会社との示談交渉で高額になりやすい裁判所基準による慰謝料請求が可能です。