交通事故で麻痺の後遺障害…脊髄損傷などの原因と慰謝料請求を解説
もっとも、「麻痺」といっても実はいろいろな種類の症状があり、症状によって認定される後遺障害等級が異なってきます。
本コラムでは、麻痺症状の概要や種類、程度とともに、後遺障害認定とは何かなどを弁護士が解説します。
1、交通事故による麻痺
交通事故によって怪我をした場合、麻痺の症状があらわれることがあります。以下では、麻痺の原因と症状について説明します。
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(1)原因
交通事故によって麻痺が生じる原因としては、以下の2つが考えられます。
脊髄損傷による麻痺
脊髄とは、背骨(脊柱)によって保護された神経の束(中枢神経)のことをいいます。
脊髄は、脳から送られる信号を身体の各部に伝達する重要な神経です。そのため、脊髄を損傷することによって、脳からの信号が身体の各部位にうまく送られなくなり、麻痺の症状を生じることがあります。外傷性脳損傷による麻痺
交通事故によって脳に強い衝撃を受けることによって、脳が傷ついたり、出血したりすることによって脳が圧迫されることがあります。このような状態を外傷性脳損傷といいます。
脳は、人の精神機能や運動機能をつかさどる非常に重要な器官です。そのため、交通事故によって脳を損傷した場合、脳の各機能に影響を与え、身体性機能に障害を残し、麻痺の症状を生じることがあります。 -
(2)症状
麻痺は、その症状に応じて次の2つに分類されます。
完全麻痺
完全麻痺とは、対象の部位の運動機能や感覚機能が消失した状態をいいます。「手足が全く動かない」という状態が完全麻痺です。
不全麻痺
不全麻痺とは、対象部位の運動機能や感覚機能の低下が生じた状態をいいます。「手足が重い」、「手足の動きが鈍い」などの状態が不全麻痺です。
2、麻痺の種類と程度
交通事故によって麻痺が残ってしまった場合、麻痺の種類と麻痺の程度によって後遺障害が何級に該当するかが判断されます。
(参考元:厚生労働省「神経系統の機能及び精神の障害に関する障害等級認定基準について」)
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(1)種類
四肢麻痺
四肢麻痺とは、両側の四肢すべてに麻痺の症状がでることをいいます。
片麻痺
片麻痺とは、右側または左側のいずれかの上下肢に麻痺の症状がでることをいいます。いわゆる半身不随の状態のことを指します。
単麻痺
単麻痺とは、上肢または下肢のいずれにおける一肢のみに麻痺の症状がでることをいいます。
対麻痺
対麻痺とは、両側上肢または両側下肢に麻痺の症状がでることをいいます。ただし、通常は両側下肢の麻痺を指します。
なお、脳の損傷による麻痺については、四肢麻痺、片麻痺又は単麻痺が生じ、通常、対麻痺が生じることはないと言われています。 -
(2)程度
麻痺は症状の程度により、高度・中等度・軽度の三段階にわかれます。
高度
麻痺が高度とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢または下肢の基本動作(上肢は物を持ち上げて移動させること、下肢は歩行や立位)ができないものをいいます。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。- 完全強直又はこれに近い状態にあるもの
- 上肢においては、三大関節及び5つの手指のいずれの関節も自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
- 下肢においては、三大関節のいずれも自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
- 上肢においては、随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
- 下肢においては、随意運動の顕著な障害により一下肢の支持性及び随意的な運動性をほとんど失ったもの
中等度
麻痺が中等度とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるものをいいます。 具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 上肢においては、障害を残した一上肢では仕事に必要な軽量の物(概ね500g)を持ち上げることができないもの又は障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
- 下肢においては、障害を残した一下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには歩行が困難であること
軽度
麻痺が軽度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度失われているものをいいます。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 上肢においては、障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
- 下肢においては、日常生活は概ね独歩であるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく、速度も遅いもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの
3、麻痺症状が残ったら、後遺障害の認定を受けよう
交通事故によって麻痺症状が残った場合には、後遺障害認定を受ける必要があります。以下では、後遺障害認定を受けなければならない理由と具体的な後遺障害の認定基準について説明します。
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(1)後遺障害認定とは何か。 なぜ取得するべきなのか
交通事故によって怪我をして、懸命に治療を続けた場合であっても、残念ながら完治せずに後遺症が残ってしまうことがあります。しかし、後遺症が残ったということだけでは、当該後遺症に応じた賠償を受けることは困難です。
交通事故による後遺症については、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)による「後遺障害等級認定」を受けなければ、適切な賠償金の支払いを受けることは非常に難しくなります。
そのため、治療を継続し症状固定の段階になった場合には、必ず後遺障害等級認定を受けるようにしましょう。
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(2)麻痺が該当する後遺障害の等級と認定基準
麻痺が残ってしまった場合の後遺障害の等級は、「麻痺の生じた範囲」と「麻痺の程度」、及び「介護の要否と程度」によって等級認定を判断しています。
なお、同じ軽度の四肢麻痺であっても、外傷性脳損傷によるものは5級、脊髄損傷によるものは3級とされていますので、麻痺の原因となった障害に応じて、検討する必要があります。
脊髄損傷が原因の麻痺
別表第1第1級1号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」
- 高度の四肢麻痺が認められるもの
- 高度の対麻痺が認められるもの
- 中程度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
- 中程度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
別表第1第2級1号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」
- 中程度の四肢麻痺が認められるもの
- 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
- 中程度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
別表第2第3級3号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
- 軽度の四肢麻痺が認められるもの(要介護状態を除く)
- 中程度の対麻痺が認められるもの(要介護状態を除く)
別表第2第5級2号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
- 軽度の対麻痺が認められるもの
- 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
別表第2第7級4号「神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
- 一下肢の中程度の単麻痺が認められるもの
別表第2第9級10号「神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
- 一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの
別表第2第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
- 運動性、支持性、巧緻性、及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺
- 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの
外傷性脳損傷が原因の麻痺
別表第1第1級1号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」
- 高度の四肢麻痺が認められるもの
- 中程度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
- 高度の片麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
別表第1第2級1号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」
- 高度の片麻痺が認められるもの
- 中程度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
別表第2第3級3号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
- 中程度の四肢麻痺が認められるもの(要介護状態を除く)
別表第2第5級2号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
- 軽度の四肢麻痺が認められるもの
- 中程度の片麻痺が認められるもの
- 高度の単麻痺が認められるもの
別表第2第7級4号「神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
- 軽度の片麻痺が認められるもの
- 中程度の単麻痺が認められるもの
別表第2第9級10号「神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
- 軽度の単麻痺が認められるもの
別表第2第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
- 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
- 運動障害を伴わないものの、間隔障害が概ね一上肢又は一下肢の全域にわたって認められるもの
4、後遺障害慰謝料の請求は弁護士へ
後遺障害の等級認定を受けることができた場合、後遺障害の等級に応じた後遺障害慰謝料を請求することができます。後遺障害慰謝料請求を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
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(1)弁護士に依頼することで賠償額がアップする可能性がある
交通事故の後遺障害慰謝料の金額は、一律に決まっているわけではありません。後遺障害慰謝料の支払い基準としては、「自賠責保険基準」と「裁判所基準」(これは「弁護士基準」と呼ばれることもあります。)などがあります。
自賠責保険が被害者の必要最低限の補償を目的とする保険であることから、自賠責保険基準は、基本的には、裁判所基準と比較すると低い金額となります。
これに対して、裁判所基準は、過去の交通事故の裁判例などで認められてきた賠償額を基準としたもので、概ね自賠責保険基準よりも高額な賠償額となっています。たとえば、交通事故により脊髄を損傷し、別表第2第5級2号の後遺障害等級の認定を受けた場合、自賠責保険基準では、618万円であるのに対し、裁判所基準では1400万円の後遺障害慰謝料を請求することが可能です。
相手方加入の任意保険会社は、自賠責保険基準に基づく後遺症慰謝料の金額の限度でしか提示しないことも多く、個人で交渉したとしても、なかなか増額は見込めません。
一方で、弁護士に依頼することで、最終的には裁判を起こすことも視野に入れることができるため、裁判所基準で算定した後遺障害慰謝料を請求し、交渉することができ、結果として、賠償額がアップする可能性があります。 -
(2)後遺障害認定から示談交渉までトータルにサポート
麻痺の症状が残ってしまった場合に、適切な後遺障害慰謝料を獲得するためには、後遺障害等級認定の手続きをしなければなりません。
しかし、後遺障害等級認定の手続きをするためには、さまざまな書類を準備しなければならず、煩雑な手続きです。適切な書類を準備して手続きをしなければ、本来得られるはずであった、後遺障害等級を認定してもらえないという可能性もあります。
ただでさえ、麻痺の症状で日常生活に支障が生じているにもかかわらず、煩雑な後遺障害等級認定の手続きや保険会社との交渉まで自分でやらなければならないというのは非常に大変です。弁護士に依頼することで、後遺障害等級の認定からその後の示談や裁判手続きまで、サポートを受けることができ、被害者の方の負担が大きく軽減されます。
5、まとめ
今回は、交通事故で麻痺が残ってしまった場合の後遺障害について説明しました。麻痺が残ってしまった場合、日常生活に多大な支障が生じてしまいます。適切な賠償金を獲得するため、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。