事故による記憶喪失は高次脳機能障害かも? 後遺障害等級認定のポイント
高次脳機能障害になると日常生活においてさまざまな支障が生じます。将来の生活のためにも適正な賠償金の支払いを受けることが重要です。
今回は、事故による記憶喪失と高次脳機能障害の関係および後遺障害等級認定のポイントについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、記憶喪失(記憶障害)とはどのような状態をいうのか
記憶喪失の原因として、頭部外傷によるものと精神的ストレスが挙げられます。以下では、記憶喪失の具体的な症状について説明します。
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(1)前向性健忘
前向性健忘とは、障害発症後を対象とする記憶障害です。
すなわち、交通事故前の出来事は思い出すことができるものの、交通事故後の新しい情報や物事を覚えられなくなる状態です。 -
(2)逆行性健忘
逆行性健忘とは障害発症前を対象とする記憶障害です。
すなわち、交通事故後の新しい情報や物事を覚えることには支障はないものの、交通事故前の出来事や経験を思い出すことができなくなる状態です。 -
(3)全健忘
全健忘とは、一時的に新しい記憶ができなくなる状態をいいます。
自分の名前、年齢、職業などは覚えているものの、自分が今どこにいて、何をしているのかがわからないというのが主な症状です。全健忘は、24時間以内に症状が回復する一過性のものが多いです。 -
(4)解離性健忘
解離性健忘とは、特定の出来事や期間の記憶が失われる状態をいいます。
解離性健忘は、心的外傷や強いストレスを伴う出来事をきっかけに生じます。
交通事故の被害に遭うと強いストレスにさらされますので、一時的に記憶喪失の状態になることも少なくありません。このような場合には、適切な治療と自己管理によって数週間から数か月で症状が改善することが多いです。
しかし、精神的ストレスではなく頭部外傷により記憶喪失が生じた場合、後述する高次脳機能障害の状態である可能性があります。
2、高次脳機能障害とは
頭部外傷より記憶喪失が生じている場合、高次脳機能障害の状態になっている可能性があります。以下では、高次脳機能障害の症状にはどのようなものがあるかなどについて説明します。
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(1)高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、交通事故などで脳が損傷されることで引き起こされる、人格変化や認知障害などを指す言葉です。
高次脳機能障害は、主に以下のような原因によって生じます。- 脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
- 外傷性脳損傷(交通事故、転倒、転落)
- その他(脳炎、低酸素脳症、脳腫瘍)
交通事故前後の記憶が失われた状態であれば、一時的な記憶喪失といえますが、新しい出来事を覚えられないような状態だと、高次脳機能障害である可能性があります。
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(2)高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害の代表的な症状は、以下のとおりです。
① 記憶障害
記憶障害とは、過去の出来事を思い出せなくなったり、新たな出来事を覚えられなくなったりする状態です。記憶障害の具体的な症状としては、以下のものがあります。- 物忘れが激しくなる
- 日時や場所がわからなくなる
- 約束を忘れてしまう
- 同じことを繰り返し質問する
② 注意障害
注意障害とは、集中力が続かず、ひとつのことに集中できない状態です。注意障害の具体的な症状としては、以下のものがあります。- 作業を長く続けられない
- 二つのことを同時に行うことができない
- ぼんやりしていてミスが多い
③ 遂行機能障害
遂行機能障害とは、物事を効率的に遂行するための機能に障害があり、計画に沿って効率的に行動することが難しくなる状態です。遂行機能障害の具体的な症状としては、以下のものがあります。- 計画を立てて物事を実行できない
- 約束の時間に間に合わない
- 人に指示してもらわないと何もできない
④ 社会的行動障害
社会的行動障害とは、感情のコントロールが難しいなど社会に適応することが難しい状態をいいます。社会的行動障害の具体的な症状としては、以下のものがあります。- 思い通りにならにないと大声を出す
- 自己中心的になる
- すぐに怒って暴力を振るう
⑤ 言語障害
言語障害とは、発声や発音に支障が生じる状態です。いわゆる「失語症」がこれにあたります。言語障害の具体的な症状としては、以下のものがあります。- 言葉が出てこない
- 聞き取った言葉を理解できない
- 読み取った文字を声に出せない
⑥ 行動障害
行動障害とは、普段は当たり前のようにできていた日常的な動作ができなくなってしまう状態です。行動障害の具体的な症状としては、以下のものがあります。- 衣服の脱ぎ着ができなくなる
- 箸やスプーンが持てなくなる
- 指示されたとおり動けなくなる
⑦ 失認症
失認症とは、物事を認識したり、理解したりすることが難しくなる障害です。失認症の具体的な症状としては、以下のものがあります。- 家族の顔を見ても誰かわからない
- 歩きなれた道で迷う
- 見慣れたものが認識できない
3、交通事故が原因で記憶障害になったら|後遺障害等級認定
交通事故が原因で記憶障害になったときは、後遺障害等級の認定の申請を検討しましょう。
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(1)高次脳機能障害の後遺障害等級認定の認定基準
高次脳機能障害で認定される可能性のある後遺障害等級とその認定基準は、以下のとおりです。
等級 認定基準 後遺障害慰謝料 自賠責基準 弁護士基準 1級1号 神経系統の機能、または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 1650万円 2800万円 2級1号 神経系統の機能、または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 1203万円 2370万円 3級3号 神経系統の機能、または精神に著しい障害を残し、まったく就業できないもの 861万円 1990万円 5級2号 神経系統の機能、または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務には就労できるが、それ以外の労務に服することができないもの 618万円 1400万円 7級4号 神経系統の機能、または精神に障害を残し、軽易な労務には就労できるが、それ以外の労務はできないもの 419万円 1000万円 9級10号 神経系統の機能、または精神に障害を残し、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの 249万円 690万円 -
(2)後遺障害等級認定のポイント(必要な書類、受ける検査など)
高次脳機能障害で後遺障害等級の認定を受けるためには、以下のようなポイントがあります。
① 画像所見
MRIやCTなどの画像所見により、脳損傷が確認できることが重要です。搬送先の病院でMRIやCT検査が行われていない場合には、早めに実施するよう医師に求めていきましょう。
② 意識障害
高次脳機能障害は、頭部外傷により意識障害が生じるような場合に発症しやすいと考えられています。そのため、事故直後の意識状態や事故直後に意識を失っていた場合には、その程度なども重視されます。
③ 神経心理学的検査の実施
後遺障害等級の認定の申請にあたっては、一般的な後遺障害診断書のほかに、以下のような書類の提出が必要になります。- 日常生活状況報告書
- 神経系統の障害に関する医学的意見書
- 頭部外傷後の意識障害についての所見
これらは事故の前後をとおして、被害者にどのような認知障害、行動障害、人格変化が生じたのかを明らかにするための重要な書類ですので、専門の医師や近親者などがしっかりと記入することが必要になります。
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(3)逸失利益の考え方
交通事故の被害に遭った場合、加害者(加害者加入の保険会社)から交通事故の賠償金の支払いを受けることができる可能性があります。
交通事故の賠償金は、基本的には一括払いの一時金として支払われますので、示談成立時等でまとまったお金を受け取るのが原則です。
逸失利益とは、事故によって後遺障害が残ってしまった場合に、それによって将来的な減収が生じてしまうことについての損害を指します。後遺障害によって減収する分の損害の賠償を求めることになります。
逸失利益についても、示談成立時等でまとまって賠償を受けるのが原則となります。他方で、上記のとおり、将来の減収分に対する賠償ですので、本来的には減収が生じる都度賠償がなされるべきであり、これを一括で受け取る場合、中間利息を控除しなければ、当該利息分についてもらいすぎとなってしまいます。
中間利息とは、実際にお金を受け取った時点から、本来受け取るはずだった時期までに発生するはずの利息を指し、一括で逸失利益の賠償を受ける場合は、この中間利息を控除した形で損害額の計算がなされることになります。
もっとも、高次脳機能障害のように、将来的に症状の変化があり得るような症状の場合、逸失利益について、一括でまとめてもらうのではなく、定期的な賠償を受けることができる場合もあります。
そして、一括でまとめてもらうよりも、定期的に賠償を受ける方が、中間利息を控除しなくて済むため、トータルの賠償額が大きくなり得ます。
定期的な賠償を受けることができる場合は限定的であり、かつ、メリット・デメリットをきちんと踏まえる必要もあるため、どのような請求にすればいいのかについて、弁護士に相談するといいでしょう。
4、交通事故での悩みは弁護士へ相談を
交通事故に関するお悩みは、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)慰謝料には3つの算定基準がある
交通事故の慰謝料の算定基準には、以下の3つの基準があります。
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判所基準)
保険会社との示談交渉では、一般的に自賠責保険基準またはそれと同等の任意保険基準により算定された慰謝料が提示されることが多いです。しかし、自賠責保険基準および任意保険基準で算定した慰謝料と弁護士基準で算定した慰謝料との間には、2倍以上もの金額差が生じるケースもあります。
少しでも多くの慰謝料を請求したいという場合には、弁護士基準で慰謝料を算定する必要がありますが、そのためには弁護士への依頼が必要です。
保険会社から提示された慰謝料に納得できない場合には、慰謝料を増額できる可能性がありますので、まずは弁護士にご相談ください。 -
(2)交通事故は弁護士がトータルサポートできる
交通事故の被害に遭った場合には、保険会社との示談交渉を行わなければなりません。また、後遺障害が残存している場合には、後遺障害等級の認定申請の手続きを行うべきです。
さらに、保険会社との示談交渉が決裂した場合は、裁判所に訴えを提起することも検討する必要があります。
弁護士に依頼すれば、このような交通事故に関する手続きをすべて任せることができます。被害者自身の負担を軽減するためにも、弁護士に依頼するのがおすすめです。 -
(3)記憶障害が生じた場合は家族のサポートが重要
記憶障害が生じたり、高次脳機能障害になってしまった場合には、被害者自身で交通事故に関する手続きを進めていくのは難しいケースも多いです。このような場合、被害者の家族が本人に代わって、保険会社との交渉や申請手続きなどを行っていかなければなりません。
しかし、付添や介護が必要な状況だと保険会社との交渉に時間を割く余裕はありません。特に高次脳機能障害の症状に対して、適正な後遺障害等級の認定を受けるためには、専門的な知識が必要になりますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。
ご家族が対応することが難しい法的な手続きについては、弁護士が代わりに行うことができますので、本人の介護などに専念することが可能になります。
5、まとめ
交通事故により生じる記憶喪失には、主に頭部外傷によるものと精神的なストレスによるものがあります。このうち頭部外傷により記憶喪失が生じた場合、高次脳機能障害などの重篤な障害が生じている可能性もありますので注意が必要です。
高次脳機能障害になってしまった場合には、症状に応じた慰謝料や逸失利益を請求することができますが、そのためには適正な後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
それには、弁護士のサポートが必要になりますので、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。