交通事故で車椅子生活に… 慰謝料はもらえる?その方法は?
このような場合、今後の生活にかかる費用をどこまで加害者に請求できるのでしょうか。また、示談までの流れはいったいどうなっていくのでしょうか。
本記事では交通事故によって車椅子生活となった場合の慰謝料や示談の流れについて、弁護士が詳しくご説明します。
1、車椅子生活となってしまった場合、慰謝料はもらえる?
交通事故による怪我で後遺症が残り、車椅子が必要になった場合には、加害者に対して損害賠償を請求可能です。交通事故との因果関係が認められる範囲内で、損害の賠償を請求できます。
慰謝料も、交通事故による精神的損害として、加害者に対する請求が認められています。また、慰謝料以外にも、以下のような損害について賠償を受けられる可能性があります。
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(1)車椅子にかかわるお金
車椅子の購入費
事故によって車椅子生活を余儀なくされた場合、1台目の車椅子の購入費は当然、加害者に請求することが可能です。ただし、被害者の症状や生活状況から見て、車椅子の性能などについて必要性を欠く場合には、必要相当額を超えた部分は支払われない点に注意しましょう。
また、車椅子の一般的な耐用年数は5~6年とされており、そのたびに買い替えが必要です。そのため、平均余命までの将来の買い替え費用についても、交通事故による損害として認められ、加害者に請求することができます。
自宅改造費
足が不自由となり車椅子での生活を強いられる場合、今まで住んでいた自宅が車椅子での生活に適さない場合があります。その場合は、車椅子生活のための自宅の改造費用を請求することができます。自宅改造にかかる費用は、後遺症の程度などを具体的に検討して、必要な範囲内での請求が認められています。
また、改造設置した器具や設備の中で耐用年数が明らかなものは、車椅子と同様に、将来の買い替え費用を併せて請求することも可能です。ただし、あくまで被害者の不便を解消し、生活を補助する目的が対象となるため、たとえばエレベーターの設置やお風呂の拡張などは、被害者に関連した部分のみが認められます。たとえば、たまたま高齢者や障害者の同居人がいた場合には、自宅改造の際に高齢者・障害者にとっても使いやすい仕様にしたいというニーズもあるかもしれませんが、あくまで本人のための改造費用だけが賠償の範囲であり、同居人の利益にもなる部分は損害として認められません。
なお、自宅の改造ではなく、転居を余儀なくされた場合にも、転居に必要となった費用を請求することができます。
車の改造費
住宅だけでなく、車椅子にあわせて車両の改造が必要になる場合もあります。その際は、車両改造にかかったお金の請求ができます。
車両改造に関しても、損害として認められるためには、 後遺症残存や車椅子利用のための改造となっていることや、仕様が過度でないことが重要です。過度な仕様は損害の範囲外とされることがあるので、注意が必要です。
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(2)治療にかかわるお金
治療費は、必要かつ相当な実費全額について認められます。そのため、治療の必要性と相当性が認められなければ、過剰診療、高額診療として、賠償義務が否定されることもあります。過剰診療とは、医学的必要性または合理性がない治療を指します。高額診療とは、診療行為に対する医療の報酬額が、特段の事由がないにもかかわらず、一般の医療機関の診療費水準に比して、著しく高額なことを指します。
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(3)休業にかかわるお金
治療やリハビリのために仕事を休んで減収となった場合、休業損害を請求できます。
なお、会社員の場合、有給休暇を使用して現実的に収入が減っていない場合であっても、有給休暇を利用する権利自体が消失したと考えられるので、休業損害として認められます。専業主婦の場合も、家事労働には経済的価値が認められているため、通院日数などに応じて休業損害が認められます。
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(4)後遺障害にかかわるお金
後遺症が残存した場合には、後遺障害等級の認定申請を行います。そして、認定された後遺障害の等級に従って、後遺症逸失利益と後遺症慰謝料を請求できます。
後遺症逸失利益とは、後遺症のために、将来得られるはずであったのに得られなくなってしまった収入のことをいいます。後遺症逸失利益は、基礎収入に労働能力喪失率と労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて算出します。
後遺症慰謝料は、基本的には、認定された等級に応じて基準が決まっています。
2、慰謝料や賠償金を請求する流れ
慰謝料等の賠償金は、事故後すぐに支払われるわけではありません。賠償金を請求するためには、治療をし、後遺症が残れば後遺障害等級認定を受ける必要があります。順番に流れを見ていきましょう。
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(1)治療
交通事故で受傷した場合は、しっかりとした治療を続けることが何よりも大事です。また、治療中に適切な検査を受け、後遺障害の認定に備える必要もあります。
そのため、どんな検査をどの時点で受けるべきか、医師だけでなく弁護士にも相談しながら進めることが重要です。
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(2)症状固定
交通事故による治療は、いずれ終了の時期を迎えます。完治によって終了することもあれば、残念ながら完治せず、これ以上治療しても改善見込みがないという理由で治療を終えることもあります。後者の理由で治療が終了する段階を、「症状固定」と呼びます。
いずれにしても、治療の終了については自己判断せず、医師から症状固定の診断を受けるまで通院を続けることが大事です。たとえ相手方加入の任意保険会社から示談をもちかけられても、症状固定の診断を受けるまでは治療を継続しましょう。
後遺障害等級の認定を受けるには、一般的には、半年以上の治療期間が必要な場合が多いです。治療の終了時期についても、医師と弁護士に相談しながら慎重に検討すべきでしょう。
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(3)後遺障害等級認定
後遺障害等級認定には、2つの方法があります。相手方加入の任意保険会社に手続を任せる事前認定と、被害者自身が手続きを行う被害者請求です。前者の事前認定においては、被害者は後遺障害診断書等を保険会社に提出するだけで、あとは保険会社が手続をしてくれます。
手続が楽という点はメリットですが、どんな申請が行われたのか被害者が知ることはできません。相手方加入の任意保険会社に対して、被害者の立場に親身に寄り添った、きめ細かい対応までを期待することは難しいです。後遺障害等級の認定申請を行うなら、被害者請求を選択すべきでしょう。
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(4)示談交渉
治療が終了し、後遺障害等級が認定されると、示談に進みます。示談交渉の開始時には、加害者側の保険会社が算出した賠償金額を記載した書類が、被害者に届きます。
記載されている内容をそのまま受け入れる場合は、書類に署名・捺印して返送をします。ただし、保険会社は営利企業ですから、相場よりも低めの金額を提示してくるのが一般的です。相手保険会社の提示額をそのまま受け入れることは決しておすすめできません。
保険会社との交渉で問題になるのは、賠償金の金額と過失割合です。いずれについても専門的な知識が必要となりますので、示談をする前に必ず弁護士に相談することをおすすめします。
3、後遺障害等級認定とは?
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(1)車椅子に関わる後遺障害等級認定
後遺障害等級認定とは、基本的には、自賠責損害調査事務所が調査を行い、相手方加入の自賠責保険から1から14級まである等級の認定を受けることです。等級ごとに認定基準が定められており、障害が重いほど数値の小さい等級となります。車椅子が必要な場合の等級としては、主に以下のような等級が考えられます。
車椅子に関わる後遺症等級(自賠法施行令別表第1より)
1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 1級2号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 2級2号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 車椅子に関わる後遺症等級(自賠法施行令別表第2より)
1級5号 両下肢をひざ関節以上で失ったもの 2級4号 両下肢を足関節以上で失ったもの 3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 4級5号 1下肢をひざ関節以上で失ったもの 4級7号 両足をリスフラン関節以上で失ったもの -
(2)後遺障害等級申請後の流れ
後遺障害等級認定申請後の流れとしては、自賠責損害調査事務所が提出書類に基づいて、事故の状況や被害者の怪我の状態、損害額を調査します。通常の調査は書面で行われています。
後遺障害等級が認定された後は、損害額の計算に入ります。示談の内容を相手任せにすることなく、ご自身でもしっかりと計算を行い、不当に低い金額で示談をしないようにしましょう。
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(3)不服申立制度
個別の案件で実際にどんな審査が行われたかどうかは非公開であり、内容や結果によっては納得できない結果が届くこともあります。
そのような場合には、異議申立てという手続をとることも可能です。異議申立てを行うためには、医学的な所見と法的な見解を主張する必要があります。
異議申立てを希望する場合は、弁護士のサポートを積極的に求めることをおすすめします。
4、弁護士に相談するメリット
加害者側との示談交渉などをご自身で行うことは可能です。しかし、慣れない専門用語や難しい書類作成に時間を取られますし、交渉がうまくいかなかったために十分な金額を得られない場合もあります。弁護士に依頼をすれば、そのリスクを抑えることが可能です。
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(1)裁判所基準での損害賠償請求が可能
後遺障害等級が認定された場合、後遺症慰謝料を受け取ることができます。この慰謝料には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準(「弁護士基準」と呼ばれることもあります。)の3つの基準があります。
基本的には、この中で最も高額となるのが裁判所基準で、最も低い自賠責保険基準と比べて3倍以上の差がある場合もあります。弁護士に依頼すれば、この裁判所基準で計算した慰謝料を請求することができ、被害者が自分で示談する場合に比べて、高い慰謝料を受け取れる可能性が高まります。
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(2)交渉を代理してもらえる
示談交渉は、被害者ご自身でも行うことができます。
しかし、相手方加入の任意保険会社は、示談交渉のプロなので、増額交渉をしてもなかなか思い通りにならないものです。その点、交渉のプロである弁護士に依頼することで、ご自身で交渉を行うよりも、増額されることが十分考えられます。また、示談交渉を代理してもらえることで、保険会社担当者と何度も電話をして対応を迫られるストレスからも解放され、精神的な負担をかなり軽減できるという点も大きなメリットでしょう。
5、まとめ
交通事故に遭い、残念ながら車椅子での生活を余儀なくされるような障害が残った場合、将来の収入が減るだけでなく、今後の生活様式が激変し、出費もかさむことが考えられます。
長い将来に備えるためには、しっかりとした賠償金を請求することが重要です。示談交渉は自分で行うことも可能ですが、法的な書類を適切に準備しなければならない上に、交渉のプロである保険会社と交渉するのは大変な労力が必要です。
そのため、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所では、交通事故によって車椅子生活となられた方の支援も積極的に行っています。ぜひ一度ご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。