交通事故による脊髄損傷|適切な後遺障害認定と慰謝料を得るには
後遺症が残った場合、慰謝料や逸失利益などの損害賠償を十分に受けとるためには、症状に見合う適切な「後遺障害等級」の認定がされることが重要になります。後遺障害等級の認定を申請する際には、弁護士に依頼したうえで「被害者請求」の手続きによって行うことをおすすめします。
本コラムでは、交通事故によって生じた脊髄損傷やその後遺症のほか、その場合の損害賠償の対象項目や後遺障害等級が認定されるための手続きなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、脊髄損傷の主な症状・診断方法
脊髄とは、脳から連なる人間の中枢神経であり、背骨の中の空間(脊柱管)に保護されるような形で存在しています。
交通事故によって背骨の脱臼や骨折が生じると、脊髄が圧迫されて、損傷することがあります。そして、脊髄損傷が生じると、身体の一部または全体にしびれが生じて、可動性や感覚が失われてしまうおそれがあるのです。
脊髄損傷が発生しているかどうかの診断は、医師による患者に対する問診を通じてしびれが判明した際に、MRIやレントゲンなどの画像検査を通じて行われます。
2、交通事故で脊髄損傷が生じた場合に請求できる損害賠償
交通事故によってケガをした被害者は、加害者に対して損害賠償を請求できます。
-
(1)賠償の対象となる主な損害項目
交通事故の被害者が損害賠償を請求できる項目としては、主に以下のようなものがあります。
① 治療費
治療にかかった実費を請求できます。
② 通院交通費
通院時にかかった公共交通機関の利用料金などを請求できます。
③ 装具・器具購入費
ケガの治療やリハビリ、日常生活の補助などのために装具や器具を購入した場合には、それらの購入費用を請求できます。
④ 付き添い費用
家族が被害者に付き添った場合や、職業付添人に付き添いを依頼した場合には、必要性が認められる範囲で、付き添いにかかった費用を請求できます。
⑤ 将来介護費
後遺症によって要介護状態となった場合、将来の介護にかかる費用を請求できます。
⑥ 入院雑費
入院にかかる雑費などを請求することができます。
⑦ 休業損害
入通院等によって仕事を休んだ場合、休業期間に得られなかった収入が損害賠償の対象となります。
⑧ 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
ケガを負った事実による精神的苦痛、また治療のために入通院を強いられたことによる精神的苦痛に対する賠償として慰謝料を請求できます。
⑨ 後遺障害慰謝料
後遺障害が残ってしまったことによる精神的苦痛に対する賠償として慰謝料を請求できます。
⑩ 逸失利益
後遺障害によって労働能力が失われ、将来得られなくなった収入を損害賠償として請求できます。
-
(2)後遺障害等級が認定されると、損害賠償が高額に
交通事故の損害項目のうち、「後遺障害慰謝料」「逸失利益」「将来介護費」の3つは、特に賠償額が高額になりやすい項目です。ただし、これらの項目の損害賠償を請求するためには、後遺障害等級が認定される必要があります。
後遺障害等級の認定は、損害保険料率算出機構に対して申請します。申請すると、後遺障害の種類や程度に応じた等級が認定されます。
後遺障害慰謝料と逸失利益については、認定される等級によって、その金額が大きく上下します。また、将来介護費を請求するためには、原則として「要介護の後遺障害1級または2級」の後遺障害等級が認定される必要があります(一部、例外があります)。
特に脊髄損傷については、『身体のどこかに麻痺が残る可能性が極めて高い』という特徴があり、重症化しやすいです。そのため、今後のご自身のためにも、後遺症の内容に見合った後遺障害等級の認定を受けることが重要になるのです。
3、後遺症(後遺障害)が残った場合の賠償内容と金額目安
後遺障害が残った場合に請求できる後遺障害慰謝料・逸失利益・将来介護費の金額は、認定される後遺障害等級に応じて変わってきます。
-
(1)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料の金額は、認定される後遺障害等級に応じて、金額の目安が変わってきます。
これまでの裁判例の蓄積によって算出された「裁判所基準」(弁護士基準)による、等級別の後遺障害慰謝料の目安は、以下のとおりです。後遺障害等級 後遺障害慰謝料 1級(要介護を含む) 2800万円 2級(要介護を含む) 2370万円 3級 1990万円 4級 1670万円 5級 1400万円 6級 1180万円 7級 1000万円 8級 830万円 9級 690万円 10級 550万円 11級 420万円 12級 290万円 13級 180万円 14級 110万円 -
(2)逸失利益
後遺障害による逸失利益は、以下の計算式によって算出されます。
逸失利益
=1年当たりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数「1年当たりの基礎収入」とは、原則として、『事故前の年収の実額』になります。ただし、専業主婦(主夫)の場合は、賃金センサスの平均データを用いて算出することとなります。
ライプニッツ係数は、逸失利益を一括で受け取ることによって将来に発生する中間利息を控除するための係数となります。
ライプニッツ係数は被害者の年齢(就労可能年数)によって変動します。年齢ごとの具体的な数字については、国土交通省が公開している下記の資料を参照してください。
(参考:「就労可能年数とライプニッツ係数表」(国土交通省))また、逸失利益の計算に用いる「労働能力喪失率」は、認定される後遺障害等級によって基準が異なります。
等級別の労働能力喪失率は、以下のとおりです。ただし後遺症の部位や種類、被害者の職業など、具体的な事情によって異なる割合が適用される場合もあります。後遺障害等級 労働能力喪失率 1級 100% 2級 100% 3級 100% 4級 92% 5級 79% 6級 67% 7級 56% 8級 45% 9級 33% 10級 27% 11級 20% 12級 14% 13級 9% 14級 5% -
(3)(要介護の場合)将来介護費
交通事故により介護が必要となった場合には、将来にわたる介護費用を、前倒しで一括して請求することができます。
将来介護費の計算式は、以下のとおりです。将来介護費
=1日当たりの介護費用×365日×介護年数に対応するライプニッツ係数「1日当たりの介護費用」は、介護の必要性の程度や、介護を担当する人などによって個別に決定されます。
家族が介護を担当する場合であれば、常時介護が必要な場合は9000円程度、随時介護が必要な場合は7000円程度が一つの基準となります。専門の介護士に依頼する場合は、もう少し高額の費用が認められる傾向にあります。要介護の後遺障害1級または2級の認定を受けている場合には、将来介護費の損害賠償請求が認められる可能性が高くなります。
また、要介護の後遺障害等級を認定されていない場合でも、介護と交通事故の間に因果関係があれば、将来介護費を請求できる可能性はあります。しかし、加害者側からは『事故ではなく別の原因で要介護状態になった』と主張される可能性があります。このとき、事故と要介護状態との因果関係の立証が難しい場合には、請求が認められないおそれがあるのです。そのため、交通事故による脊髄損傷が原因で要介護状態となったケースで、加害者に将来介護費を請求するためには、要介護の後遺障害等級の認定を受けることが重要になるのです。
4、適正な後遺障害等級を得るためには弁護士に相談を
交通事故で脊髄損傷を負い、後遺障害等級の認定を申請する場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
-
(1)医師と連携して申請書類を準備できる
後遺障害等級は、医師が作成する後遺障害診断書の内容をもとに判断されます。そのため、等級認定基準に沿った内容の後遺障害診断書を取得することが重要です。
依頼を受けた弁護士は、主治医とコミュニケーションをとりながら、必要に応じて後遺障害診断書の内容の調整を主治医に依頼して、適正な後遺障害等級の認定がなされるように尽力します。
-
(2)被害者請求の手間が軽減される
後遺障害等級認定の申請方法には、加害者側の任意保険会社に任せる「事前認定」と、被害者が自ら申請する「被害者請求」との2通りがあります。適正な後遺障害等級の認定を受けるためには、被害者側の主導で申請手続きを進められる被害者請求を選択することをおすすめします。
ただし、被害者請求を行う際には、被害者側で申請書類を準備しなければならないため、相応の手間がかかります。その点、弁護士であれば、被害者請求に必要な準備の大部分を代行することができるので、負担は大きく軽減されるでしょう。
-
(3)加害者側との示談交渉等も一任できる
弁護士は、加害者側との示談交渉や、調停・ADR・訴訟などの手続きを全面的に代行できます。
弁護士を通じて損害賠償請求を行うことで、法的根拠に基づく適正な金額の損害賠償を獲得できる可能性が高まります。また、煩雑な手続きへの対応を弁護士に任せることで、ケガの治療・仕事・日常生活などに専念することができます。
交通事故の損害賠償請求は、ぜひ弁護士にお任せください。
5、まとめ
交通事故で脊髄が損傷した場合には、身体に麻痺などの後遺症が残る可能性があります。
損害賠償の請求においては、適切な後遺障害等級が認定されることが重要です。後遺障害等級認定の申請をする際には、弁護士に依頼したうえで、被害者請求の手続きで申請するようにしましょう。
ベリーベスト法律事務所は、交通事故被害者の方からの法律相談を随時受け付けております。交通事故で脊髄損傷を負ってしまった方は、お早めに、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。