遷延性意識障害とは|後遺障害等級認定や知っておくべきこと
弁護士のサポートを受けながら、適正額の損害賠償を請求しましょう。
本記事では交通事故による遷延性意識障害について、後遺障害等級認定や損害賠償に関する基礎知識をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、遷延性意識障害とは
「遷延性意識障害」とは、いわゆる「植物状態」のことをいいます。日本脳神経外科学会の定義では、種々の治療にかかわらず、以下の6項目が3か月以上続いた状態が遷延性意識障害とされています。
- 自力移動が不可能である
- 自力摂食が不可能である
- 屎尿失禁状態にある
- 声を出しても意味のある発語が不可能である
- 簡単な命令(眼を開く、手を握るなど)にはかろうじて応じることもあるが、それ以上の意思疎通は不可能である
- 眼球はかろうじて物を追っても認識はできない
なお、遷延性意識障害は「脳死」ではありません。
脳死は、脳幹を含めた全脳の機能が不可逆的障害を受けた状態で、深昏睡・瞳孔固定・脳幹反射の消失・平坦脳波・自発呼吸の消失をすべて満たし、さらに6時間後にもこれらの条件をすべて満たす場合と定義されています。
遷延性意識障害と脳死の主な違いは、以下のとおりです。
遷延性意識障害 | 脳死 | |
---|---|---|
睡眠・覚醒のサイクル | 保持 | なし |
自発呼吸 | あり | なし |
脳波 | 徐波化 | 平坦 |
回復の可能性 | あり | なし |
2、遷延性意識障害の回復可能性と治療法
遷延性意識障害に陥った人は重度障害者ですが、脳死とは異なり回復の可能性があるとされています。ただし、確立した治療法が存在するわけではなく、回復率も高くはありません。
遷延性意識障害の主な治療法としては、以下の例が挙げられます。主治医の説明をよく聞き、リスクを考慮した上で治療法を選択しましょう。
→刺激装置を体内に埋め込んで、弱い電流を流して脳を刺激します。
・脳深部電気刺激療法
→脳深部の覚醒に関する核を電気で刺激します。
・正中神経刺激法
→手の正中神経を電気で刺激します。
・迷走神経刺激法
→頸部の迷走神経を電気で刺激します。
3、遷延性意識障害の後遺障害等級認定について
交通事故によって遷延性意識障害となった場合は、後遺障害1級(要介護)の認定を受けられる可能性が高いです。必要書類をそろえた上で、後遺障害等級認定の申請を行いましょう。
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(1)後遺障害等級認定とは
「後遺障害等級認定」とは、交通事故によるケガが完治せず後遺障害が残った場合に、その部位や程度などに応じて後遺障害等級を認定することをいいます。
後遺障害等級の認定を受ければ、被害者は加害者側に対して多額の慰謝料や逸失利益を請求できます。認定される等級によって慰謝料や逸失利益の額は大きく変わるので、適正な等級の認定を受けることが非常に大切です。 -
(2)遷延性意識障害について認定される後遺障害等級
交通事故によって遷延性意識障害となった場合、後遺障害1級1号(要介護)が認定される可能性が高いです。
後遺障害1級1号(要介護)は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するものについて認定されます。遷延性意識障害は、後遺障害1級1号(要介護)の対象となる後遺症の典型例です。 -
(3)後遺障害等級認定の申請に必要な書類
後遺障害等級認定の申請に必要な書類は、申請方法が「事前認定」か「被害者請求」かによって異なります。
事前認定は、加害者側の保険会社に後遺障害等級認定の申請を任せる手続きです。事前認定の場合、被害者が自ら準備する必要があるのは、医師の作成する後遺障害診断書のみです。
これに対して被害者請求は、被害者自ら後遺障害等級の認定を申請する手続きです。被害者請求の場合、以下の書類を被害者自ら準備して提出する必要があります。- 支払請求書
- 後遺障害診断書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 印鑑証明書
納得できる形で後遺障害等級認定の申請を行う際には、被害者請求による方がよいでしょう。被害者請求に関するサポートは、弁護士に相談することをおすすめします。
4、遷延性意識障害について請求できる損害賠償の種類
交通事故によって遷延性意識障害に陥った場合は、加害者側に対して、以下の項目などにつき損害賠償を請求できます。
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(1)治療費
交通事故によるケガや障害を治療するための合理的な治療費は、その全額が損害賠償の対象となります。医療機関に支払った費用の領収書を保管しておきましょう。
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(2)介護費用
遷延性意識障害が固定化した場合は、生涯にわたって要介護者となる可能性が高いです。この場合、加害者側に対して将来の介護費用の損害賠償を請求できます。
特に被害者が若年である場合は、介護費用の損害賠償が数千万円~1億円を超えるケースも少なくありません。 -
(3)慰謝料|入通院慰謝料・後遺障害慰謝料
被害者が交通事故によって被った精神的損害については、加害者側に対して慰謝料を請求できます。
交通事故によって遷延性意識障害になった場合は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を請求可能です。
入通院慰謝料については、入院(および通院)の期間に応じて金額が決まります。遷延性意識障害の場合は、在宅介護に移行するまで長期間の入院を要するケースが多いため、入通院慰謝料は高額となる傾向にあります。
後遺障害慰謝料は、認定される後遺障害等級によって金額の目安が決まります。遷延性意識障害の場合、後遺障害1級1号(要介護)が認定される可能性が高く、その場合の後遺障害慰謝料の目安額は2800万円です。これに加えて、近親者固有の慰謝料も認定されるケースが少なくありません。 -
(4)逸失利益
交通事故の後遺症によって労働能力の全部または一部が失われた場合は、喪失の程度(割合)に応じて、将来得られるはずだった収入相当額につき、逸失利益として損害賠償を請求できます。
遷延性意識障害について認定される後遺障害1級(要介護)の場合、労働能力喪失率は100%となるため、事故時点以降の生涯収入全額が逸失利益に当たるという前提になります(ただし、ライプニッツ係数による中間利息控除あり)。被害者の年齢や収入によりますが、数千万円から数億円の逸失利益が認定されることも少なくありません。 -
(5)その他
上記のほか、被害者は加害者に対して以下の損害賠償を請求できます。
- 装具、器具の購入費(将来分を含む)
- 付添費用
- 入院雑費
- 休業損害
5、遷延性意識障害の損害賠償請求について知っておくべきこと
交通事故に起因する遷延性意識障害について損害賠償請求を行う際には、以下の事項について知っておきましょう。
-
(1)損害賠償請求は成年後見人が行う
遷延性意識障害に陥った人は、自らの法律行為の結果を判断できない(=意思能力がない)状態になります。意思能力がない人による法律行為は無効なので、本人は自ら損害賠償請求を行うことができません。
そのため、遷延性意識障害に関する損害賠償請求は、家庭裁判所によって選任される「成年後見人」が行うことになります。損害賠償請求に先立ち、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てましょう。 -
(2)加害者側に定期賠償を提案された場合の対応
加害者側から、遷延性意識障害に関する損害賠償金を一括で支払うのではなく、定期賠償(長期間にわたって分割払いする方法)を提案されることがあります。
定期賠償の提案を受けた場合、被害者は支払義務者(保険会社または加害者本人)が支払いの途中で無資力になるリスクに注意しなければなりません。また、定期賠償の金額は一括払いに比べて、中間利息が控除されない分、総額は高くなるべきである点も考慮しましょう。
定期賠償の提案を受け入れるべきかどうかはケース・バイ・ケースの判断となりますので、あらかじめ弁護士にご相談ください。 -
(3)適正な損害賠償を獲得するためには、弁護士のサポートが重要
交通事故によって遷延性意識障害になった場合、介護費用・慰謝料・逸失利益がそれぞれ数千万円以上認められ、トータルでの損害賠償が非常に高額(場合によっては数億円規模)となるケースが多いです。
適正な損害賠償を獲得するためには、弁護士によるサポートが重要になります。損害賠償請求に関する相談先としては、自治体や遷延性意識障害の家族会なども挙げられますが、代理人として直接損害賠償請求の対応ができるのは弁護士のみです。
早い段階から弁護士に相談することで、損害賠償に関する合理的な見通しを早期に立てることができ、依頼者にとっての安心につながります。遷延性意識障害に関する損害賠償請求は、お早めに弁護士へご相談ください。
6、まとめ
交通事故によって遷延性意識障害になった場合は、後遺障害1級(要介護)の認定を受けた上で、加害者側に対して損害賠償を請求しましょう。特に介護費用・慰謝料・逸失利益は高額となることが多いため、弁護士のサポートを受けながら適正額の損害賠償の獲得を目指しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、交通事故の損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けております。遷延性意識障害に関する裁判や示談交渉の経験が豊富な弁護士が所属しておりますので、ご家族が交通事故で遷延性意識障害になってしまった方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。