人身事故被害者が受け取れる慰謝料の相場は? 具体額の計算方法
もし、人身事故被害者となってしまった場合、ご自身の怪我の治療費だけでなく、慰謝料をいくらもらえるのか、また、どのように請求すればいいのかといった点が気になると思います。
そこで本コラムでは、人身事故にあってしまった場合に受け取れる慰謝料の相場と、適切な金額をうけとるための方法について、ベリーベスト法律事務所 交通事故専門チームの弁護士が解説します。
1、人身事故における慰謝料の種類
事故で怪我をしてしまった場合の「慰謝料」には3種類あります。
(1)傷害慰謝料
傷害慰謝料とは、交通事故によって怪我をしてしまったことによる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。そして、この慰謝料の金額は、基本的には入通院した期間を基礎に計算されます。
なお、通院が長期間に及ぶ場合、症状、治療の内容、通院の頻度を考慮して、実通院日数の3.5倍、むち打ち症や軽い怪我の場合は3倍、の日数を基礎にする場合もあります。月に数回程度しか通院していない場合の慰謝料を抑えるものですが、足の骨折など安静にしていることが一番の治療といえるような怪我では、頻度が少なくても期間で算定するよう求めるべきです。
(2)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故によって後遺障害が残ってしまったことによる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
そして、この慰謝料の金額は、後述の後遺障害等級別表(1級から14級まで定められています)によって算定します。
(3)死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、被害者が死亡したことによる近親者の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。近親者は、本人の精神的苦痛に対する慰謝料も相続しますので、これらを併せて請求していくことになります。
死亡慰謝料の場合は、被害者自身は死亡してしまっている以上、現実に慰謝料を受け取ることができるのは基本的には相続人、もしくは近親者(被害者の父母、子ども、配偶者)です。ただし、近親者以外のものであっても、内縁の妻など、被害者との間に夫婦や子どもと同視できる特別な関係が認められる場合には、慰謝料を請求できる場合があります。
2、交通事故における慰謝料の基準
慰謝料を計算する際には、3種類の基準が使われています。
(1)自賠責基準
自賠責保険の支払額を算定するために定められているのが、自賠責基準です。
自賠責保険とは、自動車賠償責任保険の略称で、自動車を運転する際に加入が義務付けられている強制保険です。自賠責の目的は、被害者の最低限の補償にあるため、裁判所基準と比べて慰謝料の金額が低く定められています。
(2)任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険会社内部の独自の基準です。
保険会社独自の基準であるため、基準自体は非公開です。自賠責基準より慰謝料が高く設定されている場合もありますが、一般に、後述の裁判所基準よりは低くなるよう設定されています。
(3)裁判所基準
裁判所基準とは、過去の裁判例をベースに設定した基準です。
通常、前述の自賠責基準および任意保険基準よりも慰謝料の金額が高くなります。
裁判所基準 > 任意保険基準 ≧ 自賠責基準という関係です。
3、項目別|慰謝料の具体例
では、実際に人身事故の慰謝料の相場はどれくらいの額なのでしょうか。ここでは自賠責基準と裁判所基準における額を以下の3つの場合に分けてご紹介します。
(1)入通院慰謝料の場合
自賠責基準の場合
自賠責基準の相場は、以下の計算式で計算できます。
「実治療日数×2」または「治療期間(事故に遭ってから治療を終えるまでの日数)」のうち少ない方×4300円
裁判所基準の場合
裁判所基準は、以下の表の通りです。
別表Ⅰ
別表Ⅱ
- ※この基準は、いわゆる「赤い本」による基準です。
なお、別表Ⅱは、「他覚的所見(主にMRIやレントゲン・CT等の画像所見)がないむち打ち症」や軽い打撲・軽い傷の場合に使用され、それ以外の場合には別表Ⅰが使用されます。
(2)後遺障害慰謝料の場合
自賠責基準の場合
自賠責基準の相場は以下の通りです。
自賠責基準表Ⅱ
裁判所基準の場合
裁判所基準の相場は以下の通りです。
裁判所基準表Ⅱ
(3)死亡慰謝料の場合
自賠責基準
自賠責基準だと、一律に400万円です。
ただし、その他にも近親者固有の慰謝料をもらうことができます。対象者は、被害者の父母、配偶者および子どものみです。そして、金額については、請求権者が1人であれば550万円、2人であれば650万円、3人以上であれば750万円です。
なお、もし被害者に扶養されているのであれば、さらに200万円が加算されます。
裁判所基準
裁判所基準の場合(いわゆる「赤い本」による)には、以下の通りです。
- 一家の支柱 …2800万円
- 母親・配偶者 …2400万円
- その他 …2000万円から2200万円
なお、ここでいう「一家の支柱」とは、被害者の世帯が、主として被害者の収入によって家計を維持している場合をいいます。父親ではなく、母親や子どもであったとしても経済的な支柱であれば一家の支柱と扱われます。「その他」には、具体的には幼児や子ども、未婚の男女などが該当します。
4、慰謝料の計算方法
では、むち打ちで6か月間に70日通院し、14級が認定された場合を想定して、実際に慰謝料の金額を計算してみましょう。
(1)入通院慰謝料の計算例
自賠責基準の場合
通院期間(180日)よりも実通院日数の2倍(140日)の方が短いので、140日×4300円=60万2000円になります。
任意保険基準の場合
任意保険基準については、前述の通り、基準自体が非公開ですので、具体的な金額は不明ですが、任意保険会社は保険金の支払いを抑えるために、自賠責基準に近い金額で計算する場合が多いです。
裁判所基準の場合
他覚所見がないむち打ちの場合は、原則として上記別表Ⅱを基に計算します。上記別表Ⅱの入院がなく、通院期間が6か月だった場合の慰謝料額をみると、89万円と定められていることがわかります。もし入院期間がある場合には、入院期間と通院期間が交差している場所の記載が基準額となります。
(2)後遺障害慰謝料の計算例
自賠責基準の場合
14級の場合ですので、32万円と定められています。
任意保険基準の場合
入通院慰謝料の場合同様、任意保険基準は基準自体が非公開のため、具体的な金額は不明です。
裁判所基準の場合
14級の場合ですので、110万円と定められています。
(3)一番高い! 裁判所基準の計算例
このように、自賠責基準の場合の慰謝料の合計は92万2000円、裁判所基準の場合の慰謝料の合計は199万円となるため、今回検討したケースでは裁判所基準と自賠責基準で2倍以上の差が出ています。
5、慰謝料の請求方法と示談までの手続き
では、実際に慰謝料をもらうためにはどのような手順を踏んだらよいのでしょうか。ここでは、慰謝料の請求方法について説明します。
(1)事故後必ずすべきこと
まずは、事故に遭った場合は(もちろん、起こした場合も)必ず警察を呼んでください。軽い事故だからという理由で警察に連絡をしない人もいますが、事故の軽重にかかわらず警察に連絡するようにしましょう。
保険会社に慰謝料等を支払ってもらうために必要な書類である「交通事故証明書」は、警察への届出がないともらえないからです。
また、後日言い分が食い違う可能性に備えて、事故状況をカメラで撮影したり、もし事故の目撃者がいるのであればその方の連絡先も入手しておくとよいでしょう。もちろん、相手のナンバープレートや連絡先も必ず控えておきましょう。
(2)必ず病院を受診する
そして、必ず病院に行くようにしましょう。交通事故による怪我を適切に治療する必要があることはもちろんですが、事故発生から期間を空けて病院に行った場合、本当に事故から生じた怪我かを保険会社に説明することが難しくなるという事態が生じます。
また、傷害慰謝料は自賠責基準だと通院日数を基準に、裁判所基準だと通院期間を基準に算出されるため、慰謝料の額の観点からも通院は必須になります。
病院を受診した際には、自分の体の悪いところをしっかりと医師に伝え、可能であれば適切な検査を受けましょう。また、目や耳や口の中といった、体の特定の部位に異常を感じる場合は、紹介を受けるなどして、適切な診断を受けることができる病院に行きましょう。
(3)後遺障害の認定手続き(保険会社に申請手続きを任せる場合)
治療の効果がこれ以上は見込めず、症状がよくも悪くもならなくなった段階を症状固定といいます。症状固定と判断されたら、治療をしてもらっている医師に「後遺障害診断書」を書いてもらい、後遺障害診断書を保険会社に提出して、後遺障害の認定手続きの結果を待ちましょう。
また、後遺障害の認定手続きを自身で行うこともできます(被害者請求)。自分で必要資料を集める必要がありますが、自身が納得が行くだけの資料を添付して手続きを行うことができます。また、弁護士に依頼すれば、弁護士が後遺障害等級認定に必要な資料を集め、意見書などを添付することができるので、弁護士に依頼することもひとつの手です。
後遺障害の認定手続きで、後遺障害等級に非該当の場合や、納得がいく後遺障害等級が認定されなかった場合、異議申立手続きを行うことができます。
(4)保険会社と示談交渉
認定結果が出たら、いよいよ保険会社と示談交渉です。
被害者自身が保険会社と示談交渉をする場合、保険会社は被害者にとって有利な基準である裁判所基準では損害額を算定せず、社内部で定めた裁判所基準よりも安い任意保険基準を用いて交渉するのが一般的です。
被害者は、より多くの慰謝料をもらいたいと考えるのが通常ですので、保険会社の提示する示談金額に納得がいかない場合があります。その結果、結局金額について話し合いがつかず平行線のままになってしまうこともあります。
もしそうなってしまったら、弁護士に依頼してください。弁護士に依頼すれば裁判所基準で交渉を進めることで、裁判所基準に基づいた慰謝料を受け取ることが期待できます。
6、慰謝料額を上げる方法|弁護士へ依頼を
最後に、弁護士に依頼した場合のメリットと弁護士費用について説明します。
(1)弁護士に依頼するメリット
裁判所基準で交渉できる
ご本人が保険会社に裁判所基準で慰謝料の算定をしてくれと頼んでも、多くの場合、保険会社は自賠責基準に基づく金額、またはそれに近い金額しか提示してこないことがほとんどです。
3つの基準のうち一番高い裁判所基準に基づいて慰謝料を獲得したいとお考えならば、弁護士に依頼してください。弁護士は、保険会社の提示額に納得ができなければ、裁判所基準での解決を求めて保険会社を相手に訴訟を提起することも可能です。そのため、裁判所基準を前提に交渉をすることができます。そして、保険会社も弁護士が出てくると、実情として、増額交渉に応じる可能性が高いです。
交渉内容は慰謝料だけではない
また、示談交渉の際には、慰謝料以外にも、休業損害や後遺障害逸失利益などについての交渉が必要な場合もあるため、交渉の際に高度な法的知識が求められます。
保険会社の担当者は仕事で交渉をしているので、交渉に慣れています。保険会社の言いなりに示談をしないように、できるだけ弁護士に依頼した方がよいでしょう。
(2)デメリットは解消できることも
弁護士費用
弁護士に依頼する場合、依頼者は弁護士に弁護士費用を支払わなくてはなりません。
もっとも、弁護士費用特約が使えれば、保険会社が限度額の範囲で弁護士費用を支払ってくれるため、この点についての心配は不要であることが多いです。
弁護士費用特約が付されていない場合でも、保険会社から示談提示を受けた段階で弁護士に相談することによって、弁護士費用による出費と、弁護士を介入させることによって増額できる額とを比べて、弁護士を介入させるメリットがあるか否か見通しを立てることができます。
また、後遺障害等級が認定された場合は、弁護士費用を考慮しても増額が期待できる場合が多いですので、一度相談してみてはいかがでしょうか。
7、まとめ
人身事故の被害者になってしまうと、怪我の治療や相手方保険会社との示談交渉など、数多くのストレスにさらされてしまうことでしょう。場合によっては、治療が完了しても元通りの生活に戻れず、生活面への不安を感じる方も少なくありません。
だからこそ、適切な金額の慰謝料を受け取るべきです。相手方保険会社が提示した金額が本当に適切な慰謝料額なのか、まずは交通事故分野についての対応経験が豊富な弁護士に相談してください。ベリーベスト法律事務所では、交通事故対応についての知見が豊富な弁護士やパラリーガル、医療コーディネーターが属する交通事故専門チームが、あなたが治療に専念し、同時に適切な金額の慰謝料を受け取れるよう全力でバックアップします。
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