もらい事故の慰謝料相場は? 計算方法とベストな交渉方法
ただ、あなた自身がもらい事故だと思っていても、相手方保険会社から「あなたにも過失がある」と主張されてしまうケースなどが起こりえます。本コラムでは、もらい事故の場合の慰謝料の計算方法と注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、もらい事故と通常の交通事故との違い
もらい事故と通常の交通事故の最大の違いは、被害者側の保険会社が示談代行を行えないという点です。
通常、自動車保険に加入すれば、「示談代行サービス」が付帯されていますので、交通事故に遭えば、契約している保険会社が被害者の代わりに相手方と示談交渉をしてくれます。
しかし、もらい事故のケースでは、被害者に責任が生じない結果、被害者に賠償義務がありません。そのため、被害者が契約している保険会社は、被害者に対して保険金を支払う必要がありません。このような状況で被害者側の保険会社が被害者の代わりに相手方と示談交渉をすると、法律(弁護士法)違反になってしまうのです。
以上の事情から、もらい事故の場合、被害者本人が、相手方保険会社との示談交渉をしなければならないことになります。
2、もらい事故の場合の慰謝料の計算方法と相場
(1)請求先と請求方法で金額が変わる入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故が原因で入通院を強いられて精神的な苦痛を受けた場合に、その苦痛に対して支払われるお金のことをいいます。
自賠責基準の場合
自賠責基準における入通院慰謝料の計算方法は以下のとおりです。
- 治療開始日から治療終了日までの総日数
- 実際の入通院日数を2倍した日数
これらのうちいずれか少ない日数に4300円を掛け算して計算します。
計算例
例えば、治療にかかった総日数が50日で実際の入通院日数が30日だった場合には、実際の入通院日数の2倍の日数(30日×2=60日)よりも治療にかかった総日数(50日)の方が少ないので、この場合には50日を基準にします。
すなわち、50日×4300円=21万5000円になります。
これに対して、治療にかかった総日数が70日で実施の入通院日数が30日だった場合には、実際の入通院日数の2倍の日数(30日×2=60日)の方が治療にかかった総日数(70日)よりも少ないので、この場合には、60日を基準にします。
すなわち、60日×4300円=25万8000円になります。
任意保険基準の場合
任意保険基準とは、自動車保険会社各社が定めている計算基準のことですが、この基準自体は公開されていませんので、具体的な金額をお示しすることはできません。もっとも、一般的な傾向として、自賠責基準と似たような額になることが多いといえます。
裁判基準の場合
裁判基準を使った入通院慰謝料の金額は以下の表の通りです。
入通院慰謝料(別表Ⅰ)
入通院慰謝料(別表Ⅱ)
【表の見方】
上記の表は、いずれも縦軸が通院期間、横軸が入院期間を表しています。別表Ⅰを使用するケースが多いので、ここでも別表Ⅰを使って表の見方を説明したいと思います。
例えば、治療が通院のみの6ヶ月だった場合を見てみます。一番左の列の6ヶ月のすぐ右の欄を見ると、通院6ヶ月の場合の入通院慰謝料は116万であるということが分かります。
これに対して、治療が入院のみ6ヶ月だった場合を見てみます。一番上の行の6か月のすぐ下の欄を見ると、入院6ヶ月の場合の入通院慰謝料は244万円であるということが分かります。
入通後に通院をしていた場合には、縦軸と横軸がクロスする部分が慰謝料の金額です。例えば、入院を5ヶ月して、その後、通院を5ヶ月した場合には、入通院慰謝料は257万円ということが分かります。
「2か月と2週間入院し、その後、6か月と17日通院した」というような場合には、複雑な計算が必要になるため、弁護士等に相談してみると良いでしょう。
(2)後遺障害慰謝料は裁判所基準による請求がベスト
交通事故が原因で後遺障害が残ってしまった場合には、後遺障害の程度(1級から14級)に応じて慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料については、以下の一覧表ように後遺障害の種類と、それに対応した慰謝料の相場(裁判基準については、個別具体的なケースにおいて変動することがあります)があります。
介護を要する後遺障害表
その他の後遺障害
3、もらい事故の場合に、より高額の慰謝料を請求する方法
(1)過失割合を交渉する
もらい事故のケースでも、相手側からの反論として、被害者にも過失があると主張されることがあります。
こちらの過失が認められるということは、相手方保険会社の支払うお金が減ることを意味しますので、状況によっては、相手方はこちらにも事故の過失があることを認めさせようとしてきます。
例えば、追突した側が、「(被害者が)何の理由もないのに急ブレーキをしたせいで追突してしまった」と主張することがあります。この「理由のない急ブレーキ」であることについて裁判所で認められた場合には、過失割合は7:3と判断されるため、被害者にも3の過失が認められることになってしまいます。
相手方がこのようなことを言ってきた場合に過失を認めてしまうと、請求できる慰謝料が減ってしまいますので、安易に自分に過失があると認めるような言動はしないようにしましょう。
(2)後遺障害等級認定申請をする
交通事故で怪我をして治療を続けていても、後遺症が残ってしまう場合もあります。
このような場合には、後遺障害等級認定の申請をして、適切な等級を認定してもらう必要があります。後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料を請求できるようになるからです。
この後遺障害慰謝料は、後遺症が残れば請求できるというものでもありません。きちんと、医師に後遺障害診断書を書いてもらい、被害者ご本人が請求する(被害者請求)か、相手方の保険会社に請求してもらう(事前認定)必要があります。
事前認定による後遺障害等級認定の流れは以下の通りです。
- 症状固定
※治療してもこれ以上よくならない状態のことを症状固定といいます。 - 後遺障害診断書の作成
※症状固定後は、医師に後遺障害診断書を書いてもらいます。診断書は保険会社からもらうことができます。 - 後遺障害診断書を保険会社へ提出
- 保険会社から損害保険料率算出機構に書類等が転送
- 損害保険料率算出機構の調査事務所による調査
- 調査結果が保険会社に通知
- 保険会社から被害者へ認定結果を通知
- 保険会社に対して異議申し立て
※認定結果に納得ができない場合
(3)弁護士に示談交渉してもらう
弁護士に依頼して示談交渉をしてもらうことで、より多くの慰謝料を手にできることが期待できます。
通常、被害者本人が相手方と示談交渉を進めていく際には、保険会社は会社独自の基準(任意保険基準といいます)を使って計算した慰謝料額を提案してくることがほとんどです。
しかし、この任意保険基準で計算した慰謝料は、弁護士が交渉する場合に使用する基準である裁判基準よりも低いことがほとんどです。
そのため、弁護士が示談交渉に入れば、慰謝料の基準のうちで一番高額な基準を使用して交渉できる結果、慰謝料の大幅な増加が期待できます。
4、もらい事故の場合に備えて! 弁護士費用特約の重要性
先程も説明しましたが、完全なもらい事故の場合には、被害者側の任意保険会社は、相手方との示談交渉ができません。
しかし、示談交渉には時間もかかりますし、話の内容も複雑で法律的な話もでてきますので、法律に詳しくない方にとっては非常に煩わしいと思います。
そんな場合に備えて、弁護士費用特約を自動車保険に付帯させておくことをお勧めします。弁護士費用特約があれば、ほとんどの場合において、ご自身の経済的負担なく、弁護士に示談手続きを依頼することができます。
弁護士費用特約を付帯させても、保険料は年間数千円程度高くなるだけですので、弁護士費用特約に未加入な方はぜひ一度弁護士費用特約への加入をご検討されてみてはいかがでしょうか。
5、まとめ
本稿では、もらい事故について解説しました。もらい事故に遭われてしまった方の参考になれば幸いです。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています