交通事故による脱臼が原因で後遺症が! 慰謝料請求について弁護士が解説
後遺障害が認定された場合、加害者側から慰謝料や逸失利益を受け取ることができますので、所定の手続きを踏んで適切に請求を行いましょう。
この記事では、交通事故に遭って脱臼した場合に、後に発生する可能性のある後遺障害の内容や、後遺障害等級認定などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、交通事故で脱臼した場合に請求できる損害賠償項目
交通事故に遭って脱臼をしてしまった場合、加害者または加害者の加入する任意保険会社に対して損害の補償を請求することになります。具体的にどのような費用項目について損害の補償を請求できるかを見ていきましょう。
(1)治療関係費
治療関係費には、以下の費用が含まれます。
- 治療費(手術費を含む)
- 看護料
- 入院中の諸雑費
- 通院交通費
- 松葉杖などの器具の費用
- 診断書などの発行手数料
上記のうち、看護料と入院中の諸雑費については、入院・通院日数に応じて自賠責保険(正式名称は「自動車損害賠償責任保険」)から一律の金額が支給されます。
令和2年4月1日以降に起きた事故の場合
- 12歳以下の子どもに近親者が付き添ったときの入院中看護料1日4200円
- 自宅看護または通院1日2100円
- 諸雑費:入院1日1100円
- ※弁護士が介入すると、上記基準によるのではなく裁判所基準により算出されることになります。
その他の費用は実費ベースで精算されるため、かかった費用についての領収証を保管しておきましょう。
(2)休業損害
交通事故を原因として休業を余儀なくされ、収入が減少した場合には、減少分の金額が休業損害として補償されます。
自賠責保険からは、原則として休業1日あたり6100円が補償されますが、これを上回る収入減の立証があれば、1日あたり19000円を限度として実額が補償されます。
(3)慰謝料|後遺障害がある場合は増額
交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対して、慰謝料が支払われます。
自賠責保険における入通院に関する慰謝料は、通院1日あたり4300円で計算されます(細かい計算方式については割愛します)。
ただし、治療が終了した後も後遺障害が残った場合には、上記とは別に、後遺障害の程度によって数百万円から数千万円の後遺障害慰謝料を受け取ることができます。
なお、後遺障害慰謝料の金額算定基準には、以下の3つがあります。
①自賠責基準
自賠責保険から支払われる補償金額を示す基準です。最低限度の補償を担保するという自賠責保険の性質から、一番金額が低くなります。
②任意保険基準
加害者側の任意保険会社が最初に提示する示談金額を示す基準です。具体的な金額は非公表ですが、自賠責基準よりは多少上回る金額となることが多いです。
弁護士を伴わずに交渉する場合、自賠責基準か任意保険基準に従った示談金額の提案が任意保険会社から行われることになります。
③裁判所基準(弁護士基準)
これまでの裁判例の蓄積によって定められた後遺障害慰謝料の金額を示す基準です。
弁護士に任意保険会社との交渉を依頼すれば、当初から裁判所基準をベースとした示談金額の交渉を進めることができます。
(4)逸失利益(後遺障害がある場合)
脱臼の治療後に後遺障害が残った場合には、認定される後遺障害等級に対応する労働能力喪失率に応じて、将来の労働能力を喪失したことに伴う逸失利益の補償を受けることができます。
2、症状別後遺障害等級と慰謝料金額
交通事故を原因として脱臼した場合、治療の経過によっては、症状が完全には元通りに治らず、後遺障害が残るケースがあります。
脱臼による後遺障害の症状には、大きく分けて①機能障害、②変形障害、③神経障害の3つがあります。それぞれのパターンについて、認定される可能性がある後遺障害等級と、対応する後遺障害慰謝料の金額をまとめます。
(1)腕が上がらなくなったなど、機能障害があるとき
機能障害は、腕がまったく動かなくなる、関節可動域が制限されるなど、体の運動機能に制限がかかってしまうことをいいます。脱臼のケースで主に想定される機能障害と、対応する後遺障害等級は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 症状 |
---|---|
5級 |
1上肢の用を全廃したもの 1下肢の用を全廃したもの |
6級 |
1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
8級 |
1上肢の3大関節中の一関節の用を廃したもの 1下肢の3大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級 |
1上肢の3大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの 1下肢の3大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級 |
1上肢の3大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 1下肢の3大関節中の一関節の機能に障害を残すもの |
(2)骨や関節について、変形障害があるとき
変形障害は、鎖骨・肩甲骨の変形や偽関節など、傷害部分の形状が元通りに治らないことをいいます。脱臼のケースで想定される変形障害と、対応する後遺障害等級は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 症状 |
---|---|
7級 |
1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級 |
1上肢に偽関節を残すもの 1下肢に偽関節を残すもの |
12級 | 長管骨に変形を残すもの |
(3)痛みやしびれなど、神経障害があるとき
神経障害は、傷害部分に痛みやしびれなどが残ることをいいます。神経障害については、外から見た場合に通常の状態と変わりがない場合であっても認定されるケースがあります。脱臼のケースで想定される神経障害と、対応する後遺障害等級は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 症状 |
---|---|
12級 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級 | 局部に神経症状を残すもの |
(4)後遺障害等級ごとの慰謝料金額
後遺障害慰謝料の金額は、すでに解説した①自賠責基準、②任意保険基準、③裁判所基準(弁護士基準)の各基準に従って、後遺障害等級ごとに定められています。
自賠責基準と裁判所基準に従った後遺障害慰謝料の金額は、以下のとおりです。なお、任意保険基準の具体的な金額は非公表ですが、自賠責基準に多少プラスアルファされた金額になるケースが一般的です。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 裁判所基準(弁護士基準) |
---|---|---|
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
3、後遺障害等級認定の流れ
後遺障害等級認定の申請は、加害者が加入している自賠責保険に対して行います。 申請の方法には「事前認定」と「被害者請求」の2種類がありますので、それぞれの流れとメリット・デメリットについて解説します。
(1)「事前認定」と「被害者請求」の違い
「事前認定」は、加害者側の任意保険会社に後遺障害等級認定の申請を任せる方法です。
事前認定では、被害者が医師から後遺障害診断書を取得したうえで、加害者側の任意保険会社に提出します。後遺障害診断書は、加害者側の任意保険会社が準備した申請書類と併せて自賠責保険会社に提出され、自賠責損害調査事務所での審査の後、後遺障害等級が認定されます。
一方「被害者請求」は、被害者自身で後遺障害等級認定の申請を行う方法です。
被害者請求では、被害者自らすべての申請書類を作成したうえで加害者の自賠責保険会社に申請を行います。その後、自賠責損害調査事務所での審査が行われたのち、後遺障害等級が認定されます。
(2)被害者に有利に手続きを進めるには「被害者請求」
両者を比較すると、「被害者請求」の手続きによるほうが、被害者側に有利に手続きを進められる可能性が高いといえます。
被害者請求の場合、自賠責保険会社への申請までの作業を被害者自身で行うため、手間がかかる反面、被害者に有利となる証拠などを用意することも可能です。
一方事前認定の場合は、申請をするための準備の労力はあまり必要ないものの、被害者請求とは異なり、被害者主導で申請手続きを有利な形で進めることはできません。
以上のことから、後遺障害等級認定の申請は、被害者請求で行うことをおすすめします。また、裁判所基準での慰謝料を受け取りたいとお考えであれば、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。理由は次項をご確認ください。
4、交通事故に遭った場合に弁護士に依頼するメリット
交通事故に遭ってけがをしてしまった場合、できる限り早い段階で弁護士に相談・依頼をすることをおすすめします。
特に、交通事故に遭って脱臼のような大きなけがをした場合、後遺障害が残ってしまう可能性があります。被害者が後遺障害に関して加害者や任意保険会社との交渉を行う際には、弁護士に依頼することで大きなメリットを得ることができます。
(1)裁判所基準による後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取れる
加害者側の任意保険会社と後遺障害慰謝料の示談交渉を行う場合、弁護士を伴うことにより、当初から被害者に有利な裁判所基準をベースとした話し合いを進めることができます。
もちろん、被害者が独力で被害者請求による後遺障害等級認定や保険会社との交渉をすること自体は可能です。しかし、弁護士が付かない場合に、支払われる慰謝料の基準額は加害者側の任意保険基準から増額するケースはほとんどありません。
したがって、被害者の正当な権利を実現するという観点からは、弁護士に依頼をすることが望ましいといえます。
(2)加害者側の任意保険会社との交渉を一任できる
任意保険会社は、交通事故案件を職務上取り扱うプロフェッショナルです。つまり、交通事故の対応に慣れていない被害者がひとりで立ち向かうには非常に手ごわい相手といえます。
弁護士に依頼をすれば、被害者側としても、法律・交通事故の専門家が交渉の場に立つことになります。そのため、被害者の精神的な負担は軽減され、かつ交渉を有利に進めることができるでしょう。
(3)弁護士特約が附帯していれば弁護士費用をカバー可能
弁護士に依頼をする場合、弁護士費用がかかってしまうことが気になるかもしれません。
しかし、被害者が加入している任意保険に弁護士特約が附帯している場合には、弁護士費用を任意保険の保険金で賄うことができます。限度額がオーソドックスなタイプの300万円である場合は、ほとんどのケースで被害者自身が費用の持ち出しをすることなく、交渉や手続きを弁護士に委任できるでしょう。
また、もし弁護士特約が附帯していない場合であっても、裁判所基準による慰謝料が支払われることによって、弁護士費用を差し引いても多くの保険金を手にすることができるケースもあります。
弁護士への依頼を検討する際には、弁護士特約が利用できるかどうかについて、ご自身が加入している任意保険会社に問い合わせてみましょう。
5、まとめ
交通事故で脱臼をしてしまった場合、加害者や任意保険会社に対して損害の補償を請求する必要があります。特に後遺障害が残ってしまった場合には、加害者や任意保険会社との交渉を通じて、高額の慰謝料を得られる可能性があります。
交渉を有利に進めるためには、弁護士に依頼をするのが得策です。ベリーベスト法律事務所の弁護士は、交通事故に関する豊富な経験を生かして、依頼者の利益を可能な限り実現できるように尽力いたします。
交通事故による脱臼その他のけが、後遺症にお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。