顔(眼)の後遺障害
眼の後遺障害の種類
眼の障害には、眼球の障害とまぶたの障害があります。眼球の障害は、「視力に関する障害」、「眼球の調節機能に関する障害」、「眼球の運動機能に関する障害」、「視野に関する障害」に区分され、まぶたの障害は、「まぶたの欠損に関する障害」、「まぶたの運動に関する障害」、さらに「その他(外傷性散瞳、流涙)の障害」に区分されます。
目次
視力に関する障害
(1)視力に関する障害と認定されうる内容
視力に関する障害とは、視神経を損傷し、または眼球に外傷を負うことによる視力低下や失明といった症状が生じることをいいます。
両眼の視力障害については、障害等級表にある両眼の視力障害の該当する等級をもって認定を行い、1眼ごとの等級を定めて、併合繰上げの方法を用いて等級を定めることはしません。ただし、両眼の該当する等級よりもいずれか1眼の該当する等級の方が上位である場合には、1眼のみに障害があるものとみなして等級認定を行います。
(2)視力に関する障害の後遺障害等級
等級 | 後遺障害 |
---|---|
1級1号 | 両眼が失明したもの |
2級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの |
2級2号 | 両眼の視力が0.02以下になったもの |
3級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの |
4級1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの |
5級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの |
6級1号 | 両眼の視力が0.1以下になったもの |
7級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの |
8級1号 | 1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下になったもの |
9級1号 | 両眼の視力が0.6以下になったもの |
9級2号 | 1眼の視力が0.06以下になったもの |
10級1号 | 1眼の視力が0.1以下になったもの |
13級1号 | 1眼の視力が0.6以下になったもの |
(3)検査方法・認定基準
視力の測定方法
視力障害の有無は、原則として、万国式試視力表を用いて判断します。万国式試視力表とは、アルファベットのCのような形をしたランドルト環やアラビア数字が用いられている、一般的な視力検査で用いられている表です。
視力測定は眼鏡やコンタクトレンズを使用した矯正視力で行う
後遺障害等級表の視力とは、矯正視力のことを指します。したがって、眼鏡、コンタクトレンズ、眼内レンズによって矯正したとしても、なお視力の低下がある場合に後遺障害等級が認定されます。眼鏡やコンタクトレンズでの矯正ができない場合は、裸眼視力が測定されることになります。
失明の認定基準
失明とは、以下の状況を指します。
- 眼球を亡失(摘出)したもの
- 明暗を弁じ得ないもの、およびようやく明暗を弁ずることができる程度のもの
- 光覚弁(明暗弁)または手動弁も含む
なお、光覚弁(明暗弁)とは、暗室に入り、眼前で点滅した照明が弁別できる視力を指します。手動弁とは、眼前で手掌を上下左右に動かした方向を弁別できる能力をいいます。
視力障害の原因特定方法
視力障害の原因を検査する方法としては、スリット検査、直像鏡検査、電気生理学的検査、ERG検査などによって、眼球の外傷の検査を行います。眼球の外傷ではなく視神経の損傷が疑われる場合には、VEP検査などを行います。
眼球の調節機能に関する障害
(1)障害の内容
眼球には、見たい物体の距離に応じてピントを合わせる調節機能が備わっています。交通事故によって、このようなピント調節機能に障害が生じた状態が生じたとき、眼球の調節機能障害に該当する可能性があるでしょう。
調整力は、明視できる遠点から近点までの範囲(調節域)をレンズに換算した値で計測されます。加齢により老眼になるなど、調整力は年齢と密接な関係があるため、たとえよくない数値が出たとしても後遺障害等級認定されないケースがあります。
(2)眼球の調節機能に関する障害の後遺障害等級
等級 | 後遺障害 |
---|---|
11級1号 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの |
12級1号 | 1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの |
なお、以下に当てはまる場合は、たとえ数値が思わしくなくても調節機能障害は認定されません。
- 障害が生じていない眼の調整力が1.5D(ジオプトリー)以下
- 両眼を被災、または一眼を被災したものの、そもそも被災していない眼の調整力に異常があった55歳以上の方
(3)検査方法・認定基準
調節機能の検査方法
眼球の調節機能の検査は、アコモドポリレコーダーなどの調節機能測定装置が用いられます。数回にわたって検査を重ね、その結果がほぼ一定であり、通常の検査の場合の2分の1以下であることが確認できれば、後遺障害として認定対象となります。
調節機能の認定基準
「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、眼球の調節力が通常の場合の2分の1以下に減少したものをいいます。
調節力の減少の程度については、障害が生じた眼が1眼のみの場合には、受傷していない他眼との比較によって判断します。
両眼に障害が生じた場合や障害が生じていない眼の調節力に異常が認められる場合には、以下の年齢別の調節力を示す表との比較によって判断します。
年齢 | 15 | 20 | 25 | 30 | 35 | 40 | 45 | 50 | 55 | 60 | 65 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
調節力(D) | 9.7 | 9.0 | 7.6 | 6.3 | 5.3 | 4.4 | 3.1 | 2.2 | 1.5 | 1.35 | 1.3 |
もし症状固定となった年齢が42歳だった場合、上記の表の40歳から45歳までの方として判断することになります。
眼球の運動機能に関する障害
(1)障害の内容
交通事故によって、眼球の運動機能に障害が残ってしまうと、頭部を固定したまま眼球だけの動きによって見える範囲(注視野)が狭くなったり、物が二重に見えるようになったりすることがあります。
眼球の運動障害
眼球の運動は、各眼3対の合計6つの外眼筋が作用することによって行われます。この6つの眼筋のいずれかに麻痺が生じてしまった場合には、眼球はその筋の働く反対の方向に偏位し(斜視)、麻痺した箇所について眼球の運動が制限されてしまうことになります。
複視
主として左右それぞれの眼球の向きが対応しないために外界の像が左右眼の対応点でない部位に投影されて二重に像が見える状態を複視といいます。
(2)眼球の運動機能に関する障害の後遺障害等級
等級 | 後遺障害 |
---|---|
10級2号 | 正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
11級1号 | 両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
12級1号 | 1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
13級2号 | 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
(3)検査方法・認定基準
眼球の運動障害や複視の検査方法
眼球運動障害や複視の検査は、ヘススクリーンテストが用いられます。ヘススクリーンテストとは、指標を赤緑ガラスで見たときの片眼の赤緑、他眼の緑像から両眼の位置ずれを評価する検査方法で、外眼筋の運動制限や過動の状態を調べることができます。
眼球の運動障害が認定される基準
「眼球に著しい運動障害を残すもの」……眼球の注視野の広さが2分の1以下に減じたものをいいます。
頭部を固定した状態で、眼球を運動させて直視することのできる範囲が注視野です。単眼視では各方面約50度、両眼視では各方面約45度が平均的な数値となります。
「両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」……単視野での注視野が左右両眼とも2分の1以下に減じたものをいいます。
両眼視での注視野が2分の1以下に減じたものではない点に注意が必要です。
複視の認定基準
「複視の症状を残すもの」といえるためには、以下の要件を満たすことが必要です。
- 本人が複視のあることを自覚していること
- 眼筋の麻痺など複視を残す明らかな原因が認められること
- ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向または垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること
視野に関する障害
(1)障害の内容
視野とは、眼前の一点を見つめていて、同時に見える外界の広さのことをいいます。
交通事故によって以下のような症状がある場合、視野に関する障害が認定される可能性があります。
- 半盲症……注視点を境界として両眼の視野の右もしくは左半分が欠損して見える状態
- 視野狭窄(しやきょうさく)……たとえ視力はよくとも、視野や視界の一部が見えなくなっている状態
- 視野変状……一般的には、半盲症や視野狭窄を含み、視野に変状が起こっている症状をいいます。ただし、後遺障害等級認定上では半盲症や視野狭窄以外の、視野欠損や視野に暗転が見える状態を指します。
(2)視野に関する障害の後遺障害等級
等級 | 後遺障害 |
---|---|
9級3号 | 両眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すもの |
13級2号 | 1眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すもの |
(3)検査方法・認定基準
視野障害の検査方法
視野障害の検査は、ゴールドマン型視野計によって視野を測定する方法で行います。ゴールドマン型視野計は、動的視野検査の標準検査機器として用いられるものです。これによって、視覚伝導路の障害部位に応じた視野以上の形状を検出することができます。
認定基準
障害等級表による視野障害の種類には、「半盲症」、「視野狭窄」、「視野変状」があります。これらの各障害は、以下の表における8方向の視野角度の合計が、正常視野角度の合計である560度の60%以下(336度以下)になったものが該当します。
方向 | 上 | 上外 | 外 | 外下 | 下 | 下内 | 内 | 内上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
視野角度 | 60 | 75 | 95 | 80 | 70 | 60 | 60 | 60 |
まぶたの欠損に関する障害
(1)障害の内容
交通事故により、まぶたの欠損に関する障害として後遺障害等級認定がされるケースがあります。
- まぶたを閉じても角膜を完全に覆えない状態や白目が見えてしまうような状態になってしまった場合
- まつげの生えていた箇所からまつげが生えない状態になってしまったとき(まつげはげ)まぶたの欠損障害が生じた場合には、欠損の程度によっては外貌の醜状障害が認定されることがあるでしょう。まぶたの欠損障害と外貌の醜状障害のいずれにも該当する場合には、いずれか上位の等級が認定されることになります。
(2)まぶたの欠損に関する障害の後遺障害等級
等級 | 後遺障害 |
---|---|
9級4号 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
11級3号 | 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
13級4号 | 両眼のまぶたの一部に欠損を残し、または、まつげはげを残すもの |
14級1号 | 1眼のまぶたの一部に欠損を残し、または、まつげはげを残すもの |
(3)検査方法・認定基準
検査方法
まぶたの欠損障害の検査は、眼科医による視触診によって行います。視触診の結果を後遺障害診断書に記載してもらい、欠損状態を証明する写真などを補強資料として添付するとよいでしょう。
認定基準
- 「まぶたに著しい欠損を残す」……閉瞼時に角膜を完全に覆うことができない程度のもの
- 「まぶたの一部に欠損を残す」……閉瞼時に角膜を完全に覆うことができるものの、球結膜(しろめ)が露出している程度のもの
- 「まつげはげを残す」……まつげの生えている周縁の2分の1以上にわたって、まつげのはげを残すもの
まぶたの運動に関する障害
(1)障害の内容
眼瞼の運動は、開瞼が上眼瞼を挙上する上眼瞼拳筋(動眼神経)と瞼裂を開大する上下の瞼板筋(交感神経)、閉瞼が瞼裂を閉じる眼輪筋(顔面神経)によって行われています。
たとえまぶたそのものが欠損していなくても、目を閉じられないような状態になってしまったりした場合は、まぶたの運動に関する障害があるとして後遺障害等級認定がされる可能性があるでしょう。
(2)まぶたの運動に関する障害の後遺障害等級
等級 | 後遺障害 |
---|---|
11級2号 | 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
12級2号 | 1眼の瞼に著しい運動障害を残すもの |
(3)検査方法・認定基準
検査方法
まぶたの運動障害の検査は、眼科医による視触診によって行われます。視触診の結果を後遺障害診断書に記載してもらい、運動障害が生じている状態を証明する写真などを補強資料として添付するとよいでしょう。
認定基準
- 「まぶたに著しい運動障害を残すもの」……開瞼時に瞳孔領を完全に覆うもの(まぶたの下垂れなど)または閉瞼時に角膜を完全に覆うことができないもの(兎眼など)
なお、まぶたの障害において系列を異にする2以上の障害が存する場合には、併合して後遺障害等級を決定することになります。たとえば、「1眼のまぶたに著しい欠損を残し」(11級3号)、「他眼のまぶたに著しい運動障害を残した」(12級2号)の場合には、併合等級10級となります。
その他(外傷性散瞳、流涙)の後遺障害
(1)外傷性散瞳、流涙の症状
外傷性散瞳
散瞳とは、瞳孔の直径が開大して対光反応が消失または減弱することです。本来、瞳孔は、暗くなると散大して明るくなると小さくなることで、まぶしさを感じすぎないよう調節されます。しかし、交通事故により、この調節機能が働かなくなってしまったとき、後遺障害等級認定がされることがあります。
流涙
流涙とは、眼表面の涙液量が過剰に増加した状態をいいます。簡易な表現をするならば、いわゆる「なみだ目」と呼ばれる症状がこれにあたるでしょう。本来、涙は涙腺から分泌され、涙点、涙小管、涙嚢を通り、鼻腔内に排出されます。この涙道が交通事故によって狭窄、閉塞、断裂などした場合にみられる涙液の排出障害が起きたとき、後遺障害等級が認定される可能性があります。
(2)その他の障害の後遺障害等級
外傷性散瞳
等級 | 後遺障害 |
---|---|
11級相当 | 両眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に著しく支障を来すもの |
12級相当 | 1眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に著しく支障を来すもの |
12級相当 | 両眼の瞳孔の対光反射はあるが不十分であり、羞明を訴え労働に支障を来すもの |
14級相当 | 1眼の瞳孔の対光反射はあるが不十分であり、羞明を訴え労働に支障を来すもの |
流涙
等級 | 後遺障害 |
---|---|
12級相当 | 両眼に常時流涙を残すもの |
14級相当 | 1眼に常時流涙を残すもの |
(3)検査方法・認定基準
外傷性散瞳の検査方法
外傷性散瞳については、ペンライトを用いた対光反射検査が用いられます。正面を見た状態のまま、医師などが斜めから瞳孔に光を当てることで、瞳孔の収縮状態を確認する検査です。
流涙の検査方法
涙の量を観察したり眼疾患を診断したりする細隙灯顕微鏡検査、涙液量を定量的に計測するシルマーテスト、涙道に閉塞や教唆がないか調べる涙道通水検査などを用いて検査されます。
外傷性散瞳の認定基準
後遺障害等級表にある「羞明」とは、より強くまぶしく感じたり、光によって目に痛みを感じたりするような状態を指します。瞳孔の対光反射に障害が残り、まぶしさを訴える状況や労働に支障を来すか否かにより、認定される後遺障害等級が変わるでしょう。外傷性散瞳と視野障害または調節機能障害が存する場合には、併合の方法によって相当等級を認定することになります。
流涙の認定基準
後遺障害等級表の記載の通り、両眼から常に流涙がある場合は12級相当、1眼のみの場合は14級相当と認定されます。
後遺障害等級認定獲得のためのポイント
後遺障害等級認定を受けるためには、障害の種類に応じた診療科で適切な検査を受けて、障害の存在や事故と障害との因果関係を立証することが重要となります。
たとえば、視力障害については、万国式試視力表により視力を測定しても、それだけでは等級認定の立証としては足りません。等級認定を受けるためには、外傷に起因する他覚所見を特定し、立証しなければなりません。そのためには、細隙灯顕微鏡検査、直像鏡検査、網膜電位図検査、視覚誘発電位検査などにより、眼球や視神経の異常を検査してもらう必要があります。
また、通常の眼科での診療は、白内障や緑内障といった内科的な疾患の治療が中心となりますので、頭部外傷を原因とする視神経の損傷が疑われる場合には、脳神経外科や脳神経内科を受診する必要があります。視力障害などの発症が事故直後ではない場合には、事故との因果関係が認められにくくなりますので、眼に何らかの異常を感じた場合には、すぐに病院を受診するとともに、適切な診療科を受診することが重要です。
上記各検査の結果・所見については、医師に自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書の「眼球・眼瞼の障害」欄を記載してもらうとともに、検査結果の書類を添付して提出することになります。
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