膝の靭帯損傷をした場合の後遺障害等級は? 申請方法や認定のポイント
本コラムでは、交通事故によるケガのうち、膝の靭帯損傷による後遺障害について、詳しく解説します。
1、靭帯損傷について
靭帯とは、骨のすぐ側にあって、骨と骨をつなぐ組織を指します。主に関節の働きをスムーズにしたり、関節を安定させる役割があります。膝の靭帯は、膝関節の大腿骨とすねの骨をつなぐ役割をしており、4つの靭帯から成り立っています。
- 前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)
- 後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)
- 内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)
- 外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)
膝の靭帯損傷とは、これらのいずれかひとつ、または複数の靭帯が、部分断裂、または完全断裂することをいいます。なお、広義の意味では、明らかな損傷がない捻挫も靭帯損傷に含まれます。
膝の靭帯損傷による主な症状としては、膝の痛み、曲げ伸ばしができにくくなる、膝がぐらぐらする、膝が腫れるなどが挙げられます。
時間的な経過でみると、受傷から3週間程度の急性期には、膝の痛みと可動域制限がよくみられます。同時に、腫れが目立ってくることもあります。急性期を過ぎると、最初にみられた痛みや、腫れ、可動域制限は次第に軽快していきますが、損傷部位によっては、膝がぐらぐらするという不安定感が目立ってくることがあります。また、座っているときなどにはわかりにくのですが、下り坂を歩いているときや、ひねりを伴う動作のときに、不安定な感じが目立ってくることがあるともいわれています。
2、靭帯損傷の主な治療方法
(1)2つの主な治療法
膝の靭帯損傷の治療方法は、大きくわけて手術を行うか否かにわけられます。
手術療法
手術療法には靭帯修復術と再建術の2種類があります。再建術の場合は、自分の体の一部(ハムストリング腱や膝蓋腱などの自家組織)を用いることが一般的です。手術は、関節鏡を用いた方法が多いです。手術の後は、3~6か月程度の期間にリハビリを行います。
保存的治療法
手術以外の方法での治療を保存的治療といいます。受傷してすぐのころは、痛みを緩和するため、また、患部の安静のためにギプス固定を行うこともあります。ただし、安静期間が長すぎると、筋力が低下するうえ、可動域が狭くなるという後遺障害を生じる可能性が高くなります。そのため、サポーターを装着して、可動域を広げる訓練を行い、筋力が低下するのを防ぐトレーニングも積極的に取り入れることが一般的です。
(2)部位による治療法の違い
損傷の部位別にみると、前十字靭帯損傷では、手術療法を選択することが多くなっています。他方、後十字靭帯単独損傷や内側側副靭帯損傷の場合は、保存療法が選択されることが一般的です。しかしながら、症状の程度や、仕事の状況、年齢などによって治療法の選択は異なってきますので、自分に合った治療法を説明してもらい、納得のいく選択をすることが大切です。
3、靭帯損傷の後遺障害等級
明らかな靭帯の損傷を伴わない、軽い捻挫などの場合は、時間の経過とともに完治するケースも少なくありません。この場合は、後遺障害等級が認定される可能性は低いといわざるを得ません。
一方、靭帯が断裂してしまった場合は、残念ながら自然治癒することはなく、治療を経ても何らかの症状が残存し、それが後遺障害として認定される可能性が高くなります。靭帯損傷の場合の後遺障害等級は、痛み(神経症状)、可動域制限(機能障害)、不安定性(動揺関節)の3つの観点から判断されます。
① 痛み(神経症状)
痛みなどの神経症状は、自覚症状が主となります。その痛みを裏付けるMRIなどの画像撮影結果があれば、他覚的所見があるものと判断され12級13号が認定される可能性があります。痛みなどの自覚症状だけで、他角的所見がない場合でも、14級9号が認定される可能性があります。
② 可動域制限(機能障害)
靭帯損傷により、膝の曲げ伸ばしの角度に制限が残った状態を間接の可動域制限といいます。膝の曲げ伸ばしに支障が出る状態は、膝関節機能に障害が残った状態として、その程度に応じて後遺障害等級10級11号または12級7号が認定される可能性があります。
③ 不安定性(動揺関節)
膝の靭帯は、膝関節を安定させる機能を担っています。そのため、膝靭帯が損傷すると、膝の安定性が失われ、膝がぐらぐらとしたり、本来の可動域以上に膝が曲がってしまうなどの症状が出る可能性があります。このような状態を動揺関節といい、以下の後遺障害等級が認定される可能性があります。
- 膝の安定性を維持するために常に硬性補装具が必要な場合 8級(8級7号準用)
- 膝の安定性を維持するために時々硬性補装具が必要な場合 10級(10級11号準用)
4、靭帯損傷後の症状が後遺障害等級に認定されるには?
膝の靭帯損傷による後遺障害認定のポイントは、① 交通事故との因果関係、② MRIによる膝靭帯損傷の確認、③ 検査結果による症状の裏付け、の3点です。
(1)交通事故との因果関係
膝の靭帯損傷は、骨折などとは異なり、レントゲンには映らないものです。したがって、交通事故当初には気付かず、事故からある程度時間が経過した後になって、MRI撮影などの検査で初めて判明することがあります。
その場合、本当に交通事故が損傷の原因となったのかが問題となることがあります。このような場合でも、交通事故の直後に、膝の症状を訴え、医師が何かしらの傷病名を診断していれば、後に判明した靭帯損傷もこの交通事故によって生じたケガだという因果関係が認められやすいでしょう。
また、膝を受傷した旨の診断がなくても、医師に膝の痛みがあることを伝えていたことがカルテや診断書などの医療記録に載っていれば、同様に因果関係が認められやすくなります。これらの立証を行うためには、症状固定時までの診断書やカルテ等の医療記録を取り寄せて、関連記載がないかしっかりと確認しなければなりません。そのうえで因果関係を立証する証拠を固めて、後遺障害申請の際に提出しましょう。
(2)MRI画像による膝靭帯損傷の確認
靭帯損傷はレントゲンでは確認できませんため、必ずMRIで撮影して損傷を確認しなければなりません。交通事故直後のMRI画像があることが望ましいですが、ある程度時間が経過しても、損傷の実体が撮影されたMRIがあることは重要なポイントですので、医師に頼んでMRI撮影をしてもらう必要があります。
撮影後は、その画像をデータとして受け取って、場合によっては、画像診断のレポートなどを併せて後遺障害の請求の際に添付します。
(3)検査結果による症状の裏付け
どんなに痛み、関節可動域制限や膝のぐらつきなどの症状が残っていても、その症状が客観的に表れていなければ後遺障害は認定されません。どのような症状が残存しているのかは、症状に応じた検査の結果によって現れることになります。
まず、関節可動域制限の場合は医療機関で関節可動域を測定した結果が必要です。自分で動かせる範囲を自動可動域、他者からの力があれば動かせる範囲を他動可動域といいます。両方について、記載する欄が後遺障害診断書に用意されていますので、必ず、測定のうえで記載してもらいましょう。他動可動域の制限の程度に応じて、後遺障害等級が決まります。
膝関節がぐらつく動揺性は、ストレスレントゲン撮影による確認が必要です。
ストレスレントゲンとは、脛骨を前方や後方や、内側や外側に押し出して撮影するものです。いわば、膝関節のズレを生じさせた状態で、レントゲン撮影をすることができます。これにより、膝のぐらつきの程度を客観的に測定できるのです。
ストレスレントゲンは、治療には必ずしも必要ではないため、医師は自発的に行わないことも多い検査です。しかし、後遺障害を立証するうえでは欠かせない資料なので必ず依頼しましょう。
5、交通事故で靭帯損傷したら、弁護士に依頼すべき?
交通事故に遭うと、治療を続けるだけでも大変です。そのうえで、後遺障害の心配や損害賠償のことなど多くのことを判断して進めていく必要があります。ここでは、交通事故で靭帯を損傷した場合に、弁護士に依頼すべき3つの理由を解説します。
(1)弁護士からのアドバイスを必要なときに受けられる
交通事故によってケガをした場合、健康保険は適用されるのか、治療はどれくらい続けてもいいのか、後遺障害認定は受けられるのかなど、わからないことがたくさん出てきます。
しかし、わからないからといって放置するわけにはいかず、常に適切な判断を求められます。事故やケガの程度や内容によって、対処はケースごとに異なります。自分がおかれた状況に応じて、どのような判断が適切なのかを見極めることは実際には難しいことだと思います。
この点、弁護士に依頼することで、このような判断の場面でも、適切なアドバイスを受けることができます。
弁護士を依頼することで、事故発生からの流れ、注意点や重要なポイント、保険会社への対応、そして、示談金額の見込みなどについても詳しく知ることができますし、さまざまな交渉においてご自身の意向をしっかり反映することができるでしょう。
(2)後遺障害認定のための申請で弁護士のサポートを受けられる
治療をしても、残念ながら完治せず、これ以上治療を続けても症状が変わらないという状況になると、治療が打ち切られることになります。
これを症状固定といい、保険会社もこの症状固定後の治療費は通常負担してくれません。症状固定の時点で残っている症状について賠償をしてもらうには、原則として後遺障害等級の認定を受けなければなりません。後遺障害の認定手続きは、一般的には書面審査のみで行われます。この審査は加害者側の保険会社に依頼することもできます(これを事前認定といいます)。
しかし、それでは被害者の立場に立った適切な申請がなされるとは限りません。特に靭帯損傷のように、微妙な症状が重なり合うケガの場合は、申請の仕方や添付する資料ひとつで、後遺障害の申請結果が異なる可能性は十分にあります。靭帯損傷について経験が豊富な弁護士のサポートを受けながら、被害者側で申請した方がよいでしょう(これを被害者請求といいます)。
(3)示談交渉や裁判を弁護士に任せられる
被害者自身で保険会社と交渉を行うことは可能です。しかし、相手保険会社からは、裁判で争った場合より少ない示談金額しか提示されないことがほとんどです。被害者にとっては事故の示談交渉は不慣れなことで、いくらが妥当な範囲なのか判断するのは至難の業です。
一方、相手保険会社の担当者は示談のプロですから、被害者側に不利な条件で示談が成立してしまうことも少なくありません。被害者側が弁護士をつけることなく交渉を続け、結果として十分な支払いを受けることができない、または納得できない内容で示談が終わってしまう、これは避けたいことです。
法的な知識だけでなく医学的な知識、そして、交渉経験が豊富な弁護士であれば、保険会社の主張に対して、法的かつ医学的な根拠に基づいた主張を行い、正当な請求をすることができます。
6、まとめ
膝の靭帯損傷は、懸命な治療によっても、最終的に日常生活や仕事に支障が出てしまうような、後遺障害を生じてしまうことがあります。後遺障害を抱えた場合には、十分な慰謝料に加えて、将来の収入を補てんする賠償額を得ることが重要です。
とはいえ、ケガをした被害者が相手保険会社と適切な交渉を行うことは難しいのが実態です。被害者がしっかりとした補償を受けるためには、できるだけ早い段階で弁護士に相談するのがよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、膝の靭帯損傷について経験豊富な弁護士が多数在籍し、被害者からのご相談に応じています。ぜひ一度ご相談にお越しください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています