交通事故で顔に傷が残った場合の賠償はどうなる? 弁護士が解説
交通事故で怪我してしまった場合、外から見える部分だと傷痕が残ったらどうしようと心配になります。特に顔の傷は男女問わず気になるものです。
そもそも顔に怪我をした場合、加害者にどんな請求ができるのでしょうか。また、万が一、顔に傷痕が残ってしまった場合はどうなるのでしょうか。今回は、交通事故により顔に怪我を負った場合の賠償について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、顔に怪我をした場合に請求できるお金とは
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(1)怪我をしたことで請求できるもの
治療費や休業損害など
交通事故で顔に怪我をした場合、まず、その治療費を加害者に請求できます。また、治療のために仕事を休んだ場合には、休業損害を請求することもできます。なお、会社員が有給休暇を使って通院したために、給料の減少がない場合でも、休業損害として請求可能です。
家事を担っている方についても、家事労働ができなくなった分について、休業損害の請求ができます。その他にも入通院のためにかかった交通費が認められるほか、お子さんや重傷者などひとりで通院することが難しいケースでは、家族などの通院付添費が認められることもあります。
傷害(入通院)慰謝料
傷害慰謝料とは、交通事故で怪我をした場合、怪我をしたこと自体や入通院しなければならなくなったことの精神的な苦痛に対して支払われる賠償金です。もっとも、精神的な苦痛の大きさは、他人が客観的にはかることはできません。そこで、入院と通院の期間や日数によって、金額の相場が決められています。
逆の言い方をすれば、いくら怪我による苦痛が大きくても、入院や通院の期間や日数が短いと、慰謝料は少額になってしまいます。仕事や家事が忙しく、通院自体が大変な場合もありますが、入通院の期間や日数が傷害慰謝料の金額を左右するということは覚えておきましょう。
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(2)後遺障害が認められた場合に請求できるもの
顔に怪我をして傷痕として残ってしまった場合、後遺障害として認定される可能性があります。後遺障害として認定された場合には、上記の請求とは別に、以下の賠償金を別途請求できることになります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、怪我をした後に治療を続けても、結果として完治せずに後遺障害が残ってしまった場合に、その精神的苦痛に対して支払われるものです。後遺障害慰謝料は、基本的に、認定された後遺障害等級に応じて決まっています。そのため、被害者の年齢や職業、性別などに関係なく、認定された後遺障害の等級が同じであれば、同じ程度の金額となります。
逸失利益
後遺障害が残るということは、それによって今後の収入に悪影響を及ぼす可能性が高いということです。そして、事故によって将来の収入が減ってしまうなら、その減収分を加害者に支払ってもらう必要があります。この将来の減収分を「逸失利益」といいます。
顔に傷痕が残った場合、たとえば、モデルなど顔の美醜が収入に大きな影響を与える仕事であれば、仕事を続けること自体が難しくなることもあります。
また、直接に影響を与えないとしても、顔に傷があることで精神的に悲観的になる、自分が対人的な業務に抵抗を感じるようになる、といった間接的な影響も十分に考えられます。こうしたことから、見た目が収入に直結しない職業に就いている方の顔に傷が残った場合にも、後遺障害による将来の減収可能性があるものとして、逸失利益が支払われる可能性があります。なお、逸失利益は、事故直前の収入を基準に、その実績から将来への影響を考慮して決定します。したがって、逸失利益は、交通事故前に実際に働いていて収入があった人に認められるというのが基本的な考え方になります。正規雇用である必要はなく、会社員やアルバイト、契約社員、自営業者、フリーランスなど、仕事をして収入を得ていた人は逸失利益を請求できます。また、家事従事者についても平均賃金を基準に逸失利益を請求することができます。
一方、無職の人や生活保護で生活していた人の場合は、逸失利益が認められないこととなるのが原則です。ただし、そのような人であっても、将来収入を得る蓋然性が高いと判断される場合、逸失利益が認められる可能性があります。また、子どもや学生は、将来働いて収入を得る可能性が高いため、平均賃金を基礎として逸失利益を計算し、請求することができます。
2、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求するためには、後遺障害等級認定が必要
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(1)後遺障害等級認定とは
怪我をした後に顔に傷痕が残っても、それだけでは後遺障害があるとして損害賠償を請求することはできません。
顔に残った傷痕が、自賠責によって「外貌醜状」という後遺障害に該当すると認定されて初めて、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益が認められるのです。
外貌醜状の「外貌(がいぼう)」とは、頭部、顔面部、頚部など日常生活で露出している部分のうち、上肢および下肢以外の部分を指します。そして、傷痕は、
- 瘢痕(はんこん)
- 線状痕(せんじょうこん)
- 組織陥没
の3種類に区別されており、このような傷痕が外貌に見えている状態を外貌醜状といいます。
外貌醜状の後遺障害は、事故で直接発生した傷痕だけでなく、事故による怪我を手術した際に生じた手術痕なども含まれます。
後遺障害の認定は、基本的に書面審査です。つまり、提出された書面だけを見て、後遺障害に該当するか、該当するとして何等級なのかを審査します。
外貌醜状の場合は、後遺障害診断書の「醜状障害」欄に、傷痕の大きさなどを医師に記載してもらう必要があります。その記載内容が後遺障害の該当判断の基礎となりますので、後遺障害診断書の記載内容は、とても重要です。ただし、外貌醜状の場合には、被害者が自賠責調査事務所に呼び出され、面接で直接傷痕を確認する手続きがさらに発生します。後遺障害診断書の記載をもとにしながら、傷痕について、大きさを測定するなどの調査が行われるのです。もっとも、この呼び出しには必ずしも応じる必要はなく、面接を行わない場合は書類のみで審査が進みます。
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(2)顔の傷が残った場合に認定される等級
では、顔の傷痕については、どんな後遺障害等級が認められるのでしょうか。
外貌醜状の場合は、傷痕の部位、大きさ・態様によって、7級、9級、12級のいずれかに認定されます。部位ごとに具体的な認定基準が定められており、その程度により認定等級が変わります。
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(3)具体的な等級基準
具体的な等級基準は以下の通りです。
7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
- 頭部:手のひら大(指の部分を含まず)以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
- 顔面:鶏卵大面以上の瘢痕、または10円銅貨大以上の組織陥没
- 頚部:手のひら大以上の瘢痕
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
- 顔面:長さ5センチメートル以上の線状痕
12級4号 外貌に醜状を残すもの
- 頭部:鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
- 顔面:10円銅貨大以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕
- 頚部:鶏卵大面以上の瘢痕
このように3つの等級がありますが、すべての等級に共通の条件は、「人目につく程度以上のもの」であることです。顔面の傷痕でよく見られるのが線状に傷が残る、線状痕です。顔面の線状痕の場合、長さが3cm以上あれば「醜状」(12級)と認定されます。ただし、これが眉毛によって隠れていると「人目につく」ものとはいえず、認定対象から外れてしまいます。
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(4)その他の外貌醜状の取り扱い
顔面神経麻痺
神経麻痺は、神経系統の障害ですが、麻痺した結果「口のゆがみ」が出てきた場合には神経麻痺とは別に、単なる醜状として認定の対象となります。また、まぶたについて、閉じることができない障害が出た場合には、外貌醜状ではなく、まぶたの障害として検討されます。
まぶたや耳殻、鼻の欠損障害
欠損障害は、外貌醜状とは別の後遺障害等級の認定基準があります。その認定等級と、外貌の醜状による等級を別々に審査し、その結果を比較して上位の等級がひとつ認定されることとなります。
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(5)2個以上の瘢痕または線状痕が残った場合
2個以上の瘢痕が残った場合、ひとつひとつの大きさや形が後遺障害に該当しない場合でも、まとめて後遺障害として認定される余地があります。複数の傷痕が重なっている場合や、それぞれが相まってひとつの瘢痕、線状痕と同程度、もしくはそれ以上の醜状の場合は、面積、長さ等を合わせて等級を認定がなされるので、全体を見て判断することが大切です。
3、後遺障害等級認定の申請方法
後遺障害等級認定を受ける方法としては、事前認定と被害者請求という2つの方法があります。事前認定とは、相手方の保険会社に後遺障害等級認定の申請手続きを任せる方法です。被害者請求は、被害者自身が書類を整えて後遺障害等級認定の申請手続きを行います。
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(1)事前認定
事前認定のメリットは、被害者の手間が大幅に軽減されることです。治療の終了時に医師に書いてもらった後遺障害診断書を相手の任意保険会社に提出さえすればよいのです。その他の資料や必要書類はすべて相手方保険会社が集めて、自賠責保険会社へ提出してくれます。
事前認定のデメリットは、加害者側がすべて手配するため、被害者の側に立って手続きをしてくれるわけではないという点です。対立する当事者が相手のために手続きをするわけですから、被害者側が有利になるよう尽力するということは通常期待できません。相手方の任意保険会社は、最低限、淡々と手続きを進めてくれるだけであるということは理解しておきましょう。
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(2)被害者請求
被害者請求の場合、これらすべての資料や書類を自分で集めなければなりません。必要な資料や書類は、治療を受けたすべての医療機関の診療報酬明細書や診断書、撮影したレントゲンやCTなどの画像記録、交通事故証明書、事故状況説明書など多岐にわたります。
これらをすべて集めるだけでも大変ですので、この手間が被害者請求のデメリットです。しかし、自賠責の後遺障害等級は、原則として書面審査です。つまり、提出する書類の内容次第で結果に大きな影響が出てきます。どのような書類をどのような内容で作成するのかは、本来慎重に検討しながら進めるべきです。
このように、被害者の立場で、適切な後遺障害等級の認定が得られるように工夫できる点が、被害者請求の大きなメリットです。
適切な後遺障害等級に認定されるためには、被害者請求による申請をおすすめします。被害者請求の方法であれば、後遺障害に関する有利な資料を探し、提出することが可能になります。顔の傷痕をはじめとする外貌醜状の場合も、書類の作成方法や、計測の仕方、複数の瘢痕の評価方法などによって結果に影響を与えることがあります。納得のいく認定結果を得るために、被害者請求による申請をぜひ検討してみましょう。
4、交通事故にあった場合には、なるべく早めに弁護士へ相談を
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(1)被害者請求を弁護士がやってくれる
顔の怪我の場合は、被害者の心理的な負担は大きくなりやすいです。特に、傷痕が残った場合は、性別や年齢にかかわらず、その後の生活に何らかの影響を与える可能性が高いといえるでしょう。十分な治療をしても傷痕が残ってしまった場合は、被害者請求の方法で後遺障害申請を行って、適切な賠償請求をするべきです。
もっとも、被害者請求の手続きは、自分で書類を集める手間が大きく、被害者が自分ですべてを行うのは困難です。また、せっかく被害者請求をするのであれば、被害者側の立場で最大限の主張立証を行って、納得のいく後遺障害等級を獲得したいところです。
そのためには、法的な知識と経験を持ち、被害者の立場で手続きをしてくれる弁護士に依頼するのが望ましいです。
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(2)慰謝料の金額が上がる
弁護士が代理人になると、被害者自身が相手方保険会社と交渉する場合に比べて賠償金額が高くなるのが通常です。特に、慰謝料については、自賠責基準、任意保険基準、裁判所(弁護士)基準の3つがあり、金額は、大幅に異なります。
弁護士が代理人として交渉をすることによって、慰謝料の金額計算に、3つの基準の中で最も高い裁判所(弁護士)基準を採用することができ、被害者が自分で交渉するよりも有利な示談が見込めるようになります。
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(3)示談交渉を任せることができる
顔に傷痕が残った場合の後遺障害は、それによる将来収入への影響がはっきりしないケースが多いとされています。そのため、他の後遺障害に比べて逸失利益の計算が困難で、相手方保険会社との交渉が難航する場合も多く見られます。
特に、傷が残ったくらいでは仕事や収入に影響はないはずだという相手方保険会社からの主張に対しては、さまざまな根拠を示して反論する必要があります。
そのため、このような主張や立証を説得的に展開するためには、法的な知識と経験が不可欠です。顔の傷痕による後遺障害について経験を持った弁護士に相談・依頼することが、望ましい解決への第一歩ともいえます。
5、まとめ
今回は、交通事故で顔に怪我をして傷痕が残ってしまった場合の賠償について説明しました。交通事故で顔を怪我すると、痛みに加えて心理的な苦痛も大きいものです。
万が一傷痕が残ってしまった場合は、将来のことも踏まえてしっかりとした賠償を受け取ることが大切です。早めに弁護士に相談することで、適切な後遺障害等級の認定を受けるための準備も可能となります。
弁護士に依頼をすれば、相手方保険会社との交渉のストレスからも解放され、治療や仕事に専念できます。ベリーベスト法律事務所では、顔の傷痕の後遺障害について、豊富な経験を持つ弁護士がご相談に応じています。事故により顔に傷が残ってしまったときは、ぜひ交通事故専門チームの弁護士へご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。